再会③
そこで悠は、彼女に事情を尋ねてみる。
「舞ちゃんは、どうしてこの病院にいるの? ずっと前までは学校にいたのに、急に休み出したからびっくりしたよ」
「あぁ・・・。 ごめんね」
舞は苦笑しながら小さな声で謝ると、悠から目をそらしその問いに答えてくれた。
「小学校3年生の夏くらいに、歩くことが急に難しくなっちゃって。 学校へ行くことすらもできなかったから、そのまま病院へ向かったの。
そしたら、しばらくは入院だねって・・・言われちゃった」
彼女は無理して明るく振る舞おうと笑ってそう言っているが、悠にはその笑顔がとても苦しそうなものに見える。
「そう・・・だったんだ」
「心配かけちゃって、ごめんね? あまりこのことを言いたくなかったから、みんなには言わないでほしいって先生に頼んだの」
「そっか。 分かるよ、みんなに言いたくない気持ちは。 でもよかったよ。 舞ちゃんがちゃんと、生きてくれていただけでも」
その言葉に笑顔だけを返すと、今度は舞から悠に尋ね返した。
「そういうハルちゃんは、どうしてこの病院にいるの?」
「あー・・・。 僕は一ヶ月前くらいに、階段から落ちちゃってね。 気を失っていたみたいで、気付いたらここにいた」
「嘘・・・」
「僕も身体が弱いから、すぐには治らないって言われてさ。 ・・・全身骨折に打撲だって。 だから長いこと、この病院にはお世話になると思う」
淡々と自分の事情を話していくが、ふと彼女を見ると両手で口元を押さえ驚いた表情をしていることに気付き、慌てて心配をかけぬよう言葉を付け足していく。
「あ、でも大丈夫だよ? 最初は寝たきり状態が続いていたけど、今じゃもう身体を起こせるようになったし。 これでも大分、動かせるようになった方」
「可哀想・・・」
「階段から落ちたなんて、ただの僕の不注意だよ」
優しい表情で発言したからか、舞は少し柔らかな表情へと戻ってくれた。
「・・・そっか。 でもよかった、ハルちゃん、ちゃんと笑えるみたいで」
そう言うと、目の前にいる幼児二人が舞の身体に乗りかかろうとする。
「ねぇ舞ちゃん! 一緒に遊ぼうよー」
「遊ぼう遊ぼうー」
悠と会話していたせいで手がお留守になっており、ようやく幼児たちも口を挟んできた。 そんな彼らを見て、舞は笑顔になる。
「そうだね。 次は何して遊ぼうか。 あ、お絵描きでもする?」
「うん! するー!」
そして子供たちが早速準備をし出すと、再び舞は悠に話を振ってきた。
「本当、ハルちゃんにまた会えて嬉しいよ。 いつ退院できるか、分からなかったからね」
「僕もだよ!」
すると突然、遠くからナースの声が聞こえてくる。
「舞ちゃーん! 診察の時間ですよー」
ふくよかなナースがこの場に現れると共に、舞がこれから使用するのであろう車椅子も登場した。 その声を聞くなり、幼児たちも当然反応する。
「え! 舞ちゃんもう行っちゃうの?」
「もっと一緒に遊びたいー!」
「ごめんね、また今度ね。 また明日、一緒に遊ぼう?」
何とか目の前にいる子供をなだめると、彼女は悠の方へ視線を向けた。
「ハルちゃんもよかったら、またここへ遊びにきて?」
「もちろん! 舞ちゃんは毎日、ここにいるの?」
「まぁ、大体ね」
そして舞は歩くことはもちろん、自力で立ち上がることもできないため、ナースに支えられながら車椅子に移動する。
舞が無事に座ったことを確認すると早速この場から離れようとするが、舞は慌ててもう一言を悠に伝えた。
「ハルちゃん。 待っているからね」
その言葉に笑顔で頷くと、ナースは舞を連れてここから去ってしまう。 幼児たちも彼女が行ってしまったのを見て、二人だけでお絵かきを始めた。
彼らを一瞥した後、悠は後ろにいるリーナに向かって小さな声で呟く。
「・・・お姉さん。 屋上、行こうか」
舞という少女は、悠と似て小柄な少女。 栗色のショートヘアが元気さを醸し出しているが、当の本人はそれ程活発ではなく、寧ろ落ち着いた大人しい子供だった。
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