再会②
飲み終えたコップをリーナに手渡すと、一度この場から離れ片付けをし出す。 そんな彼女の背に向かって、躊躇わずに声をかけた。
「お姉さん。 屋上、行ってみたい」
するとリーナは一度手を休め、振り返りながら笑顔で頷く。
「うん。 いいよ」
彼女は悠の要望を聞いてくれ、屋上へと繋がるエレベーターまで車椅子を押してくれた。 屋上は患者だけで向かうと危ないため、行けるルートは限られている。
だから病室がある階からは結構離れているため、エレベーターを乗り継いだり長い廊下を渡ったりして、かなりの移動となった。
そんな中、ある廊下を進んでいると次第に賑わうような楽しそうな声が近付いてくる。 その声に気付き、悠は前を向いたままリーナに尋ねた。
「この先には、何があるの?」
「何か盛り上がっているね。 確かもう少し行くと、子供が遊べるスペースがあったと思うよ」
「ふーん・・・」
興味なさそうに返事をするが、彼女はその場へ着くと車椅子をそこへ止めてくれる。
そして悠がよく見えるように角度も変え、しばらくはこの“子供の遊び場”とやらを、観察することにした。
スペースは結構広く設けられており、分かりやすいよう小さなブロックで広場が囲ってある。
中には定番な小さな滑り台やジャングルジムはもちろん、お絵かきや折り紙、積み木などたくさん遊べるものが設置されていた。
今遊んでいる子たちは、流石に乳児はいないが幼児や小学生くらいの者がほとんど。 だから悠がこの中にいたとしても、違和感はない。
「ここにいる人たちは、みんな入院している人?」
「どうだろうね? もちろんそういう子もいると思うけど、お母さんやお父さんが入院してて、お見舞いに来た子たちもいるかもね」
今は騒がしいため、先程よりも少し大きめな声で会話のやり取りをする。 そして再び、悠はゆっくりとこの広場を左右見渡した。
床やブロックのカラフルな作りが、無邪気な子供たちを連想させる。
「・・・あ」
そこでふと、ある場所で視線が止まった。
「ハルくんも、ここで遊ぶ?」
「お姉さん。 あの左側の奥まで、押して」
「え? ・・・うん、分かった」
隣に来て笑顔でそう尋ねてきたリーナだったが、悠は目を動かさぬままその問いを無視し、手は動かせないため口だけでそう指示を出す。
すると彼女は戸惑いながらも頷き、左側の奥まで車椅子を押してくれた。 そして――――その場へ着くなり、角付近で遊んでいる一人の少女に思い切って声をかける。
「あ、あの!」
「・・・?」
「・・・マイちゃん、ですか?」
そう尋ねると、少女は悠の顔を見ながら難しい顔をしてしばらく固まっていたが、ようやく口を開いてくれた。
「・・・ハルちゃん?」
「わぁ! 本物だ! 本物の舞ちゃんだ!」
彼女は今、床にちょこんと可愛らしく座り、目の前にいる幼児二人の遊び相手をしている最中だった。
そんな彼女に満面の笑みでそう言葉を発すると、舞という少女も小さく笑い返してくれる。
「ハルくん、知り合い?」
「そうだよ」
背後にいるリーナに尋ねられ彼女の目を見ながらそう返すと、再び視線を舞の方へ戻し静かな口調で言葉を紡いでいった。
「舞ちゃんはね、僕と似て小さい頃から足が弱かったんだ。 だからよく体育の時間とか、互いに見学だから一緒になることが多くて。 たくさんお喋りもした。
でもそれは、3年生までのことだったけどね」
「そう・・・なんだ」
上手く返す言葉が見つからず柔らかにそう返すと、今度は舞の方から口を開いてくる。
「ハルちゃん、久しぶりだね。 その、後ろにいるお姉さんは?」
そして続けて、リーナについて紹介した。
「このお姉さんはリーナさんって言って、今は僕のお世話をしてくれている。 いつも僕を見ていて、支えてくれるんだ」
「そうなんだ。 綺麗な方だね」
―――綺麗?
その言葉を聞き、悠は首を後ろへ回しリーナを見る。
―――・・・今までお姉さんのこと、そういう目で見たことはなかったけど・・・。
だけどこのまま何も返さないのも悪いと思い、舞の方へ視線を戻して静かに返事をした。
「・・・うん。 お姉さんはとても優しくてずっと笑っていて、いい人だよ」
そう言うと、舞は可愛らしく無邪気に笑った。
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