再会①
数週間後 日中 病室
リーナと出会ってから、何日か経った。 あれから悠の身体には、少しずつ変化が見られる。 まずは上体を、70度まで起き上がらせることができた。
これは何日もやっていることで、動かすたびに訪れていた鋭い痛みは今ではあまり感じなくなっている。 そして腕。
腕は肘から手先までだが、両腕動かすことができるようになっていた。 これだけでも十分、成長はできている。
昼食を終え、悠は起きたまま右の方へ顔を向けていた。 リーナは今、棚の上にある花の手入れをしている。
いつも笑顔でいる彼女には、花との相性はとてもよくこの光景が似合っていた。 リーナをしばらく見た後、花瓶の横にある卓上カレンダーへ目を移す。
「・・・あ。 今日からゴールデンウィークなんだ。 まぁ、僕には関係ないけどね」
「うん?」
悠が独り言のようにそう口にすると、作業をしていたリーナは一度手を止め悠のことを見た。 そして今度は彼女の方へ視線を移動させ、続きの言葉を発する。
「お姉さんも大変だね。 毎日、僕に付きっきりで。 たまには構わず、休んでもいいんだよ? 僕のせいで、体調崩されても困るし」
「私はハルくんと一緒にいると楽しいから、平気だよ」
「ふーん・・・」
いつものようにそう答える彼女に適当に返事をし、近くにあったリモコンを手に取りテレビを付けた。
悠とリーナの関係は、出会った頃よりかはよくなっている。 というより、悠は彼女を受け入れつつあった。
最初はずっと笑っているリーナがあまり気に食わなかったが“ずっと暗い顔されているよりマシか”と思い始め――――いや、思い込んだせいでもある。
世話をしてくれるのもそうだが、一人では話し相手もいないためいる方がマシだとも思い始めた。 だから、以前よりこの病室の空気はいい方へ向かっている。
しばらくテレビでやっている昼ドラを見ていると、そこに元気よく走り回って遊んでいる、子供たちの姿が映し出された。 そんな彼らを見て、羨ましそうにまたもや独り言を呟く。
「・・・いいなぁ。 僕も早く、外へ行ってたくさん遊びたいな」
その言葉は小さな声で発せられたのだが、その声を聞いたリーナは笑顔で顔を近付けてきた。
「外、出てみる?」
「え、いいの?」
「今のハルくんなら、あれ乗れると思うよ」
彼女はそう言って、病室のドア付近にある一つの車椅子の方へ目をやった。
そして数分をかけ、リーナの助けにもより何とか車椅子に座ることができた悠。 だけど足を曲げたのは怪我をして以来今が初めてで、あまりの痛さに顔を歪める。
「足、いった・・・」
「慣れるように、何度か足を曲げ伸ばししておいてね」
そう言いながら、悠の私物であるカーディガンを肩にかけてくれた。 『身体が冷えないように』と言って、膝かけ用の軽い毛布もかけてくれる。
「じゃあ、行こっか」
リーナは車椅子を押し、病室から一歩出させてくれた。 この瞬間――――悠の目の前には、初めて見る光景が一瞬にして広がる。
「わぁ・・・。 僕、病室から出たの今日が初めてだ」
「そう言えばそうだったね」
病室は確かに広いと感じていたが、廊下は想像していた以上に広く、整えられ綺麗だった。
この階は病室なのか、数人のナースが先程から悠の前を横切るくらいで、騒がしい音などは何もしない。
「こんにちは」
「こんにちは」
ナースに挨拶され、リーナは笑顔で返す。 そして興味津々に廊下を見渡している悠を見て、リーナは車椅子の横まで行き笑顔で尋ねた。
「今から、病院を探検してみる?」
「うん!」
彼女のその言葉が今の自分の気持ちを察してくれたのかと思い、珍しく悠は笑顔で頷いた。
そして、一番最初に着いた場所。 この病室が並んでいる廊下をしばらく進むと現れる、広い間だ。 ここには既に数人の者がおり、小さな声で談笑している。
「ここは、休憩所みたいな感じかな。 そこにあるドリンクバーは全て無料で、いくらでもおかわりし放題なんだって」
「へぇ・・・」
「ハルくんは、何を飲みたい?」
「んー・・・。 僕はお茶でいいかな」
「ここはジュースもあるんだよ?」
「そうみたいだね。 でもずっとお茶ばかり飲んでいたから、それに慣れちゃった。 ジュースは、入院する前とかは大好きだったんだけど」
「じゃあ今度、ジュースを病室へ持っていってあげるね」
リーナは手際よく、悠のリクエストであるお茶をコップに入れ、こぼさないよう蓋を閉めた。 そして飲みやすいように、ストローもさしてくれる。
「はい」
「ありがとう。 お姉さんも、飲んで休んだら?」
「私は大丈夫だよ」
「・・・そっか」
そして悠は、彼女から受け取った飲み物を時間かけて飲み干した。
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