第3話 魔神様は学園に通い始める
リグルの顔に柔らかい朝日の光があたって、リグルは目を覚ます。
自分の部屋ではないことに喜びを感じた。
リグルは人間界にやってきたのだ。リグルは学園に通うのだ。
今日からは暇を持て余すことはないはずなのだから、喜ばなくてどうするのだ。
「リグル様、入るよ」
「んー?誰?」
扉がノックされる。その主はマリンなのだが、寝ぼけているリグルには誰だかわからない。
扉を開けて入ってくる姿を見てやっと、リグルはマリンを認識したのだった。
今日のマリンは昨日の冒険者のようなスタイルとは違って、制服を着用していた。そして、マリンの腕にはもう一着制服があった。
それはリグルの分なのだろう。召使いに持ってこさせればいいものを、マリン自ら持ってくるなんて、一目惚れというのは嘘ではなさそうだ。
マリンが着用しているものも、持ってきたリグル用のものも、深い緑のシャツに濃い目のグレーのブレザー。ズボンとスカートは、白く、シャツと同じ色のラインが入っていた。
制服のサイズは、リグルのサイズにピッタリだった。リグルはとくに怪しんではいなかったが、制服はオーダーメイドでつくられていて、一人ひとり寸法をはかってつくるはずなのだ。
ちなみに寸法は、マリンの目で測った。恐ろしいものである。
もちろん、それが機能するのはリグル限定であるが。
「リグル様、学園にいきましょう」
「え、数日はかかるんじゃないの?そんな、すぐに……」
アレクの行動は早かった。教王と話す前に学園編入やらなんやらの手続きは済ませておいたのだ。
アレクは王。やろうと思えば、大抵のことをすぐにできるのだ。
「もう手続きは終わったの。いきましょう」
「うん、着替えたいから部屋を出てもらえるかな」
「わかったわ」
マリンはリグルの着替えがみたいなどとわがままはいわずに、素直に部屋を出てくれた。
そのため、スムーズに着替えに移ることができたのだ。
制服を着終わって、身だしなみを整えると、タイミングを図ったようにマリンが入ってきた。
リグルはもうマリンの言動を諦めていた。何を言っても止まらないような気がしたのだ。
「マリン、だっけ?」
「マリン=テラ=アクレシアよ。リグル様」
「マリンまで様付するの?」
マリンはリグルのことを様付にしないとリグルは勝手に思っていた。なのに、アレクと同じようにマリンも様付で呼ぶなんて。
「だって、未来の旦那様だもの。当たり前だよ」
「……人間てめんどくさいね……」
「何か言った?」
リグルが言った言葉は、あまりにも小さくマリンの耳に届くことはなかった。
マリンも王立学園に通っているということで、リグルはマリンと通園をした。
流石と姫いうべきか、マリンは生徒たちの注目を集めていた。マリンに注目が集まるのなら、リグルに注目が集まるのは当たり前であった。
リグルが銀髪、蒼眼のイケメンであったため、誰だお前、お前は姫には釣り合わない。などという声は聞えず、逆に、どこの家の子息だろう、もしかしたら婚約者?などという声が聞こえる。
周りから聞こえる声を聞いたマリンは口元がにやけてしまうほど嬉しそうにしていた。自分の好きに人が悪いように言われない。むしろ、婚約者などというプラスの予想が立っているのだ。
嬉しいのは当たり前なのだ。
「ふふふ……」
「……う……」
マリンとリグルの周りは人が溜まっているものの、一定の距離を取って溜まっている。だから、マリンの小さな喜びの思わず漏れた笑い声と、リグルのうめき声は聞こえなかったのだ。
リグルは学園長に挨拶、マリンは教室にということで二人はわかれた。
学園長室は校舎の最上階にあるとマリンは言っていた。最上階には、学園長室しかないのだという。
この学園の校舎は、上に行けば行くほど面積が小さくなっている。山形になっているのだ。
リグルはとにかく最上階に向かい階段を登っていった。しかし、登っても登ってもなかなか最上階にはつかない。
外から見た感じだと、校舎は六階建てでそこまでではなかったはずなのだが……。
「なんだよ、これ。長いなぁ……」
明らかに十階分は登っている。疲れはしないものの、同じような景色に飽きてきた。
それはまだ続き、リグルのイライラの限界に達したとき、やっと扉が見えた。
あれが学園長室なのだろう。
「やっとか……」
リグルは扉に手をかけて中に入ろうとした。しかし、それよりも先に扉が開いた。
中から開けてくれたのだろうか。
「ふぅ……」
「リグル=ユリール、入ってくださいな」
「……はい」
中から聞こえたのは、若い女性の声だった。
中に入ると、声の通り若い女性が学園長机にいた。女性は学園長机の上に座っていた。
非常識そうな人間であった。
「どうも、こんにちは。今日から……」
「ほほう……これが神様ですか……。見た目は大して変わりませんねぇ……どこが違うんでしょう……」
女性はいろんな角度からリグルのことをこと細かく観察してきた。女性の目は変態の目をしていた。
「なに?うざったいんですけど……」
リグルは敬語こそ使っているものの、言っていることが一応でも目上の人間に使う言葉使いではなかった。
「いやぁ……ごめんね。神様がどんなものかと気になりまして……」
「アレクは秘密にしようとは思わないのか……これからは秘密は教えないでおこう……」
女性により、アレクはいつの間にかリグルから信用を失った。
女性はコホンとひとつ咳払いをして、仕切り直した。それから、学園長としての挨拶をした。
「私は王立学園の学園長、リリアーナ=シェード。よろしく、リグル=ユリール君」
「よろしく、お願いします」
「あなたのことは、学園内では一人の人間として扱うからね」
「わかっていますよ」
こうして、リグルは学園長に挨拶をして正式に学園に通うこととなった。
魔神様は暇を持て余していた @glocken_kuro
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