エピローグ
あれから数日が経ち、俺達はいつもの日常を送っている。
地球の滅亡は防がれたが、そのあと変わった事が一つだけあった。
それはあのゲームをクリアして以来、「悪魔のゲーム」が跡形もなく、消失したという事だ。
蒔杜が最初に見つけたフリーゲームのサイトにも、そのゲームはなくなっていて、パソコンからもデータが綺麗になくなっていた。
今の日常があれば、結果オーライだが、何故当然消えたのか、そもそもあのゲームは一体なんだったのか、製作者フォレ男は何を意図としてあのゲームを作ったのか、それらを俺達は知る事はできない。
不自然な転倒もポルターガイストも今は全くなくなり、今思い返せば、かなり不思議な体験をしたんじゃないかと、みんなで話して少し背中が寒くなった。
これにて、俺達の短い戦いは終わり、大団円でーー物語は終結する。
***
「師匠。何をしているのですか?」
「ん? あー誰かと思えば君か」
「師匠、その黒い箱は何ですか?」
「これは人間界にあるパソコンという機械だよ」
「この映っているのは?」
「人間界には、ゲームという娯楽があるんだよ。これは私が作った自作のゲームさ」
「師匠は、人間のげえむ? とやらも作れるのですか……」
「私にかかれば造作もない事だよ」
「その……げえむはどんな娯楽なんですか?」
「あぁ。ただ作るだけじゃつまらないからね。少し人間で遊んでみようと思って『一週間でクリアしないと地球が滅亡するゲーム』というのを作ってみたんだ」
「おぉ……地球はなくなったんですか?」
「ふふ。今もちゃんとあるよ。そもそもこのゲームは私が遊び心、ただの興味本位暇つぶしで作ったものだ。だから最初から滅亡なんてしないんだよ」
「かまかけ、ですか」
「その通り。よく考えてみたまえよ。わざわざ多大な時間と労力を使ってゲームで滅亡させなくても、私なら時間も手間かけずに地球くらい簡単に破壊できるよ」
「たしかに」
「しかし、思った以上に有意義な時間になった。このゲームで私は人間の底力を見せてもらったよ。面白い人間もいるんだなと少し興味が沸いてしまった」
「珍しいです。師匠が人間に興味を持つなんて」
「という事で人間界にしばらく行って来ようと思う。その間の留守番は頼んだよ」
「えっ!? 今から行くんですか!? ちょっと待って下さい!! 師匠! メフィスト師匠!!」
***
「今日も部室にれっつら、ごー!!」
いつもの様に元気にはしゃいで、廊下を走って行く女々。
「廊下は走ると危ないよ」
言って心配そうに蒔杜がその後を追う。
更にその後ろを俺と藤菜が歩く。
「いっちばーん!!」
言って女々は部室に駆け込んでいった。
「もう、だから走ると危ないって」
蒔杜もそれに続いた。
「相変わらず元気ね、女々ちゃん」
「それが女々だからな」
ゆっくり部室に向かいながら、横に並んで話をしながら、歩いていく俺と藤菜。
「今日は何やるんだろう」
「あいつら部室に着くまで絶対にゲームネーム公開しないからな」
「ははっ、楽しみが増えるからいいけどね」
そこでしばらく沈黙して、藤菜が一歩前に出て俺を見た。
「そういえばさ」
会話を続ける。
「あのゲームを頑張ったご褒美まだあげてなかった……よね?」
藤菜は普段と違って落ち着きなく、前に出て身体をふらふら揺らして言った。
「ん、あーそういやそんな事言ってたな」
「だからさ、今あげるよ」
「何だ?」
俺を見る藤菜の顔は妙に赤い。
「……」
俺の顔を見続けて、無言になる。
「藤菜?」
「……たんぽぽって呼んでよ」
「えっ」
「私の事はこれから、たんぽぽって呼んで? ……だから私も君の事、名前で呼んでいいかな?」
「……あぁ」
そう言った藤菜、いや、たんぽぽの顔は赤くて、可愛くて、綺麗でーー美しかった。
その姿に完全に魅了された俺に、さっと近づいて、
空いていた窓から風が吹き、夕日に照らされた俺達は誰もいない廊下でーー唇を重ねた。
それは熱くて、甘くて、初めて感じる味だった。
ゆっくり離れた唇を這わせて、たんぽぽは上目で俺を見た。
「私のファーストキス、だよ」
真っ赤な顔に言われて、こっちも赤くなる。
いきなり目を合わせられなくなって、床をキョロキョロする。
「唯我君」
呼ばれて顔を前に上げると、にこっと笑って手を伸ばすたんぽぽがいてーー
「いこっ!」
俺はその手を優しく握って、走り出した。
<了>
一週間ゲーマーズ 水無月二十日 @Minazuki0816
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