第18話

大会議室に設置された大型テレビの画面からは、過疎化の進むC県が、某国の難民を六歳以下の乳幼児とその母親に限り受け入れるとのニュース速報が流れ続けている。その数は子供だけでも一気に百人。その後毎年数を増やしながら受け入れる計画が順調に進めばうちを抜かすのも時間の問題だろう。「一丸となってこの危機を乗り越えよう」と職員に発破をかける部長の声とざわざわとどよめく群衆の中で、杉本は一人冷静だった。

毎年増え続ける一方の外国人難民は六歳以下でもかなりの数になる。しかし全員受け入れる事はさすがにC県は不可能だろうし、言葉や文化の問題もある。それに――。

杉本は顔を左右に動かすと、TVの前の群集から少し離れた位置に立つ矢口に気が付き、「矢口さん」と明るく声をかけた。

「あれ、馬鹿じゃないですか? 目的が見え見えじゃないですか。国際世論から非難されるに決まってる。C県のイメージもがた落ちですよ」

 矢口のいつもの皮肉な言い方を真似して、隣に立つ彼に笑いかけようとした杉本は言葉を失った。画面を見つめる矢口が顔面蒼白だったからだ。

「・・・逆に言えば、もうC県でしかこの方法は使えないんだよ」

呟いた矢口は、背後から課長に

「矢口さん、ちょっと」

と呼ばれるとびくりと肩を震わせ、二人で別室に消えて行った。

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