第19話

仕事をしていない男が使い物にならないように、子供を産めない女も社会のお荷物でしかない。セックス付き家政婦だと思えば良いじゃないかと言う奴もいたが、二十代ならまだしも四十代で老ける一方の女となぞ誰が一緒にいたいと思うのか。男なら大抵そう思うはずだ。反論を唱える奴も押し黙る奴も全てが偽善者。本音を言う自分こそがよほど善人なのだ。俺はまだ自覚があるだけましだ。大抵の男は妻はセックス付きの家政婦兼子守兼介護役だと思っている。それこそ無自覚に、残酷なほど無邪気に。


 実際歯に衣着せぬ奴と言う事で、子供のいない俺でも上司及び上層部からは可愛がってもらえた。妻のせいで子供ができないと判った時は大いに同情してもらえたほどだ。

 俺は間違っていない。間違っていなかった。今までだって、これからだってそうだ。

 それなのに。


 なぜ俺は小さな会議室で一人部長達に囲まれ、課長に肩をつかまれているのだろう。なぜ彼は気味が悪いほど微笑んでいるのだろう。

 なぜ目の前の机には「安心・安全 妊娠・出産マニュアル」なんて置いてあるのだろう。

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