第3話

午後は恒例の長い企画会議が始まった。

「斬新な企画で子供の数を増やせ」と無茶ばかり言う部長以上の上司組と、矢口以下若手職員組はいつも意見が対立する。課長はいつも中立でお互いをなだめる役どころだ。


 矢口達は考え付いたことはやるだけやってきた。育児中の母親のケアを手厚くする事で二人目以降の出産を考えてもらおうと、二十四時間電話相談受付や三百六十五日ベビーシッター派遣をした事もあった。他府県の若いファミリー層やシングルマザーをターゲットに安い住居費と仕事を確約して呼び込んだ事もある。

けれども結局資金が不足して母親ケアは頓挫し、若い移住者は少ししか受け入れられず、前年より子供の数が少ない時は予算を削られ、悪循環に陥っている。

大都市のように養育費の大幅補助など金をばらまこうにもその資金もなく、目立った観光資源も、魅力的な働き口もない。かと言って美しい田舎の風景があるかと言えば、半端な都市開発で景観は望めない。全てが中途半端な田舎。

 他に思いつく事はもう、市内の独身者を成婚に導くくらいしかなく、今回の企画立案者である杉本は声を張り上げた。

「やはり子供を増やすにはその受け皿、夫婦がいないといけません。市が主催の婚活パーティーであれば予算も削れます。すぐに子供の数は増えませんが、地道にやっていく事が一番の近道ではないでしょうか」

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