ウタル

星原佐梨奈

第1話 考えられない。

『音が、怖い。』

そう言っても、大抵の人は信じてくれない。

僕は、北条唄琉ほうじょううたる

光垣みつがき高校の一年生。

僕は絶対音感の持ち主で、聞こえた音をすぐに楽譜に書けるってメリットもあるけど、僕は絶対音感より、本当に心から信頼できる人の方が正直欲しかった。

だって、本当に心から信頼できる人がいれば、どんな困難にも立ち向かえる気がする。

でも逆に、一方的に信頼してた人に裏切られたら、本当に辛いと思う。

僕が一番悲しかったのは、一番信頼してた友達が僕の悪口をクラスの中心で言ってたこと。それも嫌だったけど、もっと辛かったのはその声すら、耳が勝手に音階に並べ直してることだった。

(何でだよ?…僕はあの子の友達じゃないの?この音の配列ってこんな苦しいもんだっけ?音ってこんな嫌なもんだっけ?)

僕はそのことがあってから、友達を作ろうとしなくなった。まあ、元から友達つくんの下手だったし、面倒な行為を一つやらなくて済むんだけど。

『僕が単に傷付きやすいタイプなだけなのかなぁ?』なんて最初は気にしていたけど、慣れてくると、そんなことも考えなくなってた。でも僕はたまに、本当にごくたまに、いつもクラスの中心にいる奴が少し羨ましく感じる。こんなこと誰にも話したくないけど。

(よし、あと少し。)

僕はそんな過去のことを思い出しながら、自分の机で亡くなったお母さんが遺してくれた、五線譜に今までの復讐の意を込めて、『悪口協奏曲ワルグチコンチェルト』のメロディーを新たに書き込んでいった。

「おい、北条!何かいてんだ?」

すると、誰かに話しかけられる。

(ケッ、またかよ。これで三日目だぞ、よく飽きないな。)

話しかけた相手は見なくても分かる。クラスの人気者、桜田時正さくらだときまさ

『皆仲良く』がモットー(らしい)のこいつはいつも一人でいる僕を心配して、三日前から話しかけるようになった。

(まあ皆仲良くなんて、天と地が逆さまになっても無理だけどな。)

それに僕はコイツの心配は、女子に対するアピールとしか思ってないんだ。だって、

「トキマン?…あぁまた、構ってあげてるんだ。」

「…あれ、これ五線譜?なになに、悪口協奏曲?何これ?意味わかんない~!」

ほらな。お前がこっちに来たって、僕にはデメリットしかないんだよ。

(何が、『意味わかんない~!』だよ?僕に言わせてみれば、君たちの方がよっぽど意味不明だよ。)

なんて、心の中で愚痴ってる間にチャイムが鳴る。

今日は水曜日、アイツが授業を抜け出す日だ。そう思ってると、

「じゃ、俺はオシゴトに行ってきます。」

いつも通り、桜田がそう切り出す。

「うわっ、お前が仕事とか似合わねー!」

「トキマン、お仕事頑張ってね!」

コイツはオシゴトとか言って、毎週水曜日に自分の家の病院の子供たちの面倒を見てるらしい。(サボりじゃねぇのかよ?)

っていうかコイツが一言話すだけで、クラスのほとんどがアイツの方を見る。声が通るっていうのもあると思うけど、それでもこの影響力は、何かに使えそうとかいつも思う。

…そして、本鐘ほんれいが鳴って授業が始まる。退屈な、教えるのが超下手な英語だ。

「はぁあ…やっと終わった。」 

今日1日の授業が終わって、部活もせず帰る。しかも一人で。

(しかし、暇だな。) 

僕は家に帰ってから思い付きで、公園に行って悪口協奏曲の続きを書くために、五線譜とバイオリンを持って出掛けた。まさか、アイツに出会うなんて思いもせず。

「よっしゃ!完成した!」

(遂に完成した。悪口協奏曲!)

早速、バイオリンで演奏してみた。

 ~♪

(ここで、悪口がピークを迎えて…ここで僕にバレて、それでも開き直って悪口を言い続ける奴と、『あっ』ってなって黙り込む奴に別れて…)

どんどん、曲に感情移入していく。

(で、ここでアイツらを見返して、終わり!)

目を開けると僕の視界には、その曲に怯えて逃げる子供たちと、気味悪がって目を反らす大人。…そして、何故か桜田の姿があった。

しかも、桜田は逃げる訳でも、目を反らす訳でもなく、僕の曲に拍手をくれた。

(何なんだよ、コイツ?…あれ?服が変わってる?)

僕達の通う光垣高校には、制服がないので、何を着てもいいので、わざわざ着替える必要ないと思うんだが。何故か桜田は、学校で着てた服から変わってた。そして、アイツのカバンは、DJに関する本や、ラジオに関する本でいっぱいだった。

「あっ北条!」

そう言って駆け寄ってきたと思ったら、

「お前、この曲悪口協奏曲だろ?すげぇ、自作の曲を楽器!しかもバイオリンで弾けんの!?マジですげぇよ!」

「何で?ここにいるんだ?病院は?」

正直、訊きたいことは大量にあったけど、いきなり過ぎて、これしか疑問が口にできない。

「あっ!…あぁ。それは企業秘密ってことで。誰にも話さないよ。」

意味不明なことを言いながら桜田は、歩いてく。

5月7日。

…ここ最近で、一番(多分)衝撃的だったかもな。自作の悪口ソングを褒められるなんて。

でもこれが、僕達の活動のきっかけになるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウタル 星原佐梨奈 @hoshiharasarina123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ