第22話 10式戦車の特殊モジュール
――ザクッザクッザクッ、トントントントン。
「……んっ……この音は……」
目が覚めると東京で一人暮らしをする前に実家で毎日のように聞いていた懐かしい食材を切る音が横から聞こえてくる。頭をその方向へ向けて見てみるとシスター服から青色を基調とし白いスプラッターの入ったパジャマだと思われる服を着て、その上からエプロンを着用しながら料理を作っているエリの姿があった。
体を起こして腕を伸ばし今寝ていたベットに座るようにして小さなキッチンの方を向く。昨日の悲劇な出来事のダメージが残っているようで少し怠い。
「あっ、おはようございますコウさ……ご主人。あと少しで朝ごはんが作り終わるのでそこのテーブルの前に座って待っててください」
俺が起きた事に気づいたエリはこちらを見ることなくそう言い、せっせと料理を作り続ける。キッチンからは食欲があまり出ない朝でも食う気を掻き立てる良い匂いが漂ってくる。
言われた通りに折り畳み式のテーブルの前に座りベットにもたれかかる。
「ん……これは?」
部屋をぐるっと見まわした時に目に映り込んだ
「ごしゅじーん。ご飯できましたよ――って何を見ていたんですか?」
朝ごはんを乗せた長方形のお盆を持ちながら俺が見ている方向へ視線を向ける。
「なぁ、エリ。もしかしてこの男は」
「あぁ……はい。ご主人の前世、コウさんですよ」
お盆をテーブルに置きテーブル前に座った後そのボードを何処か遠い目で眺める。その表情はエリが最初に自分の姿を見せた時のような儚げにも見えた。
「なんか、前世の俺って全然感じが違うのな」
今の俺はどちらかというと反対だと思うんだ。この写真に写っている前世のような優しそうな雰囲気なんて出してないし、いざとなったら他人より自分を優先するだろうし。前世と比べらた今世の俺はクズの分類なのだろう。
「そうですかね? ご主人の感じは前世のコウさんと全く変わってませんよ」
お盆に乗せられたご飯をテーブルに置いて並べ満足そうに「よし」と呟く。
デーブルには真っ白なご飯に黄金色の焼き魚、なめこだと思われるキノコと角切りにされた豆腐が入った味噌汁、ほうれん草っぽい何かのお浸しが綺麗に並べられていた。それらは実家の母さんが作ってくれたご飯の献立に似ている。
「それでは冷めないうちにお召し上がりください」
食べるように抑し木製だと思われる細長い棒を二つを手渡してくる――ってこれ箸だよな。
「どうしたんですか? 不思議そうに箸を眺めて」
「いや、この世界にも箸があったんだなぁと思ってな」
「はい。極東にある"とある国"で買ってきました」
「極東……ねぇ」
そもそもこの世界の極東ってどうなっているのだろう。この戦争が終結した時に一度この世界の空を飛んでみるのもいいかもしれない。
とりあえず差し出す箸を受け取って汁物に口をつけることにした。その味噌汁が入った器を左手で持ち顔に近づけて匂いを嗅いでみるが変な匂いはしない。ってそれは失礼か。
口につけてゆっくりすすいでみると、
「こっ、これは……!」
俺はさ……インスタ映えしそうな綺麗な見た目に食欲をそそる匂いと来たら味は酷い物だと二次元先生に教わっていたんだ。なのになんだよこれ。
「その、おいしい……でしょうか……?」
隣で不安そうにで俺の顔を窺うエリに俺は顔を向け無言で見つめ返す。
「もしかして、口に合わなかったんでしょうか……?」
「いや違う…………美味過ぎて声を出せなかったんだ」
この味、マジで定食屋で出せるレベルだぞ。安心できるというかほっとすると言いますかこれは……いい。
「本当ですか!?」
「あぁ、毎日味噌汁を作ってくれ」
「っ……!?」
って言った今気づいたけど、それってプロポーズする時に言う言葉じゃね? あまりに美味しくてつい言葉に出ちまった。多分このパターンだと暴走するかもしれない。
だが実際に目の前で起こった事は予想外な事であった。
「っ…………」
エリの顔を見ると大粒の涙をボロボロと流していたのだ。
「えっ!? そんな嫌だったのか!? すまん、今の無しで」
「違い……ますよ。ただ私が今までに聞きたかった言葉の一つを今聞いたので……」
零れ続ける涙を右手の甲で拭いながら言う。
「その、今までってどれくらいだ?」
「そんなの……600年前からですよ……?」
くっ……。凄い罪悪感だ……。友達の持ち物を壊してしまったとか弁当を引っ繰り返したとか、消費期限切れのパンを食わせたとかの比ではない。まるで心が押しつぶされそうになるほどの重圧をかけられているようだ……!
§
「はぁ~。ご主人の前だと私、弱くなってしまいますね」
「お、おう……そうか……」
あれから少しして落ち着いた後、一緒にご飯を食べながら肩を落として恥ずかしそうに呟く。こんなシチュエーションなんて生まれて初めてだしどう対応していいか分からのだが。
「あっ、そうだ」
突然何か思い出したような顔をして口にご飯を運ぶ箸を止める。
「ど、どうした?」
「そういえばローウィンの右足に剣を突き刺してませんでした」
「はぁ!? まだそんな事思ってんの!?」
「そうです。やられたらやり返す。それも私の
※天使ではなく祟り神だったようです。
食事中、この天使を説得するのに骨が折れました。
§
「ごちそうさん。あ~美味かった」
「えへへ、お粗末様でした」
俺の言葉に嬉しそうに頬を緩ませながらテーブルの食器を片づけてキッチンの洗面台へ運んで行く。
その後ろ姿を見送った後、休むためベットへ寄りかかるとガタッとポケットに入れていたタブレットが床へ落ちる。それを見てある事を思い出した。
「そういえばまだ改造してなかったっけ」
昨日計画表に書いた兵器だがAH-64Dはもう改造済みだから大丈夫だとして問題はそれ以外だ。今回の主力になるだろう10式戦車やこれが無くては始まらない輸送ヘリのCH-47、生還率100パーセントを目指すための歩兵重装備。どれもまだ一度も出した事がなく改造もしていない。
その場であぐらを搔いてタブレットを持ち起動させる。そしてまず製作表の多種多様な数ある中の一つ、【戦車】を選択する。すると様々な国、種類の戦車が表示される。その個性豊かな戦車達に目移りしてしまうが、
「やっぱり10式は最新の技術とモジュール装甲の換装が魅力的なんだよなぁ」
結局最後には10式に行き止まりました。
10式の画像の隣にある編集をタッチするとそこには【機体の強化】【使用武装の変更】【ハードポイント増設】【ペイント】【兵器ガイドインストール】の5つとF35 やAH-64Dを改造した時にはなかったもう一つの項目が表示されていた。
「使用モジュールの変更?」
好奇心から試しにそこをタッチしてみると…………凄い事になっていた。
現在10式に実装されていると思われる2層構造のモジュール装甲。外側が対化学エネルギー弾の空間装甲、内側が防弾鋼板の間にチタン合金+セラミック板をハニカム構造に何層も敷き詰めた複合装甲になっている。それなら普通だし”凄い”なんて言い表す事なんてない。
俺が見て驚いた事、それは現実では実装されていない特殊装甲系と地形対応型と書かれた地形突破型モジュールが表示されている事についてだ。
特殊装甲ならAPFSDS弾やHEAT弾が命中した時に内部の爆薬が起爆し鋼板を高速で吹き飛ばす”爆発反応装甲”。装甲を斜めにする貼る事により砲弾が装甲の面を滑って弾かれ被害をほとんど受けずに済むことを目的とした”傾斜装甲”など。これはまだ分かる。
そして地形突破型モジュールだが、凸凹して嵌りやすく木々のせいで行動を制限される森林を突破しやすくする森林モジュール。防塵やキャタピラが砂を噛むのを防ぐデザートモジュールなど。これもまだ理解はできる。
だがしかし、
「水中モジュールとか溶岩モジュールとか明らかに取り付け系の範疇を超えている気がするんだが……」
水陸両用なら分かるけど水中って明らかにおかしいだろ。移動目的で潜水する戦車はあるけど戦う為に潜る戦車とか現代ではなかったはず。溶岩なんてもっての他だ。
「いやはや。まさかチートがここまで俺をワクワクさせるとは。ゲームなんかより何倍も面白いぞこれ。っていうか今すぐ試してみたい」
10式戦車だけでこの幅広い自由度。結局まだ改造を施していなかった”赤城”やこれから出すだろうイージス艦とか絶対ヤバいだろうなぁ。
「どうしたんですかご主人。顔をニヤニヤさえながらそわそわ体を動かして」
使った食器を洗い終わった後、エプロンで手についている水を拭き取りこちらにやって来る。あっそうだ。
「なぁエリ。昨日この部屋に連れてくる為に使った呪文、テレポートだっけ? それで火山がある所まで俺を連れて行ってくれないか?」
一昨日、ヴァルキリーに来る途中で周りを見渡していたが辺り一面に緑が広がり火山活動している山なんてなかったと思う。ヘラ山脈の外は多少高低差はあるとしても見渡す限りの平地だし遠くを見て、うっすらとも山影が見えないという事は少なくとも100km圏内には山が存在していない。だったら一瞬で移動できるテレポートの方が「探してけど見つからなかった」みたいな無駄足にならずに済むだろう。
「あの……本当にすみません。その魔法は一度使用するとそれから24時間使用不可になるんです……」
「なに……?」
まあ、そりゃそうか。そんな万能な魔法が連続で使えたらそれこそバランス崩壊だよな。そこらへんを考えた神様はバランス調整が旨い。
「そうか……分かった。それじゃ、せめて地面に俺を降ろしてくれないか? 流石にこの部屋から出て自分だけで降りるのは無理だ」
この崖に作られた家は地表から多分2000mはあるかもしれない。そんな所から途中、足を踏み外して落下したら万一にも生存の確率はないだろう。
「はい、分かりました。それでは失礼しますね」
ひょいっ
「えっ……?」
俺の体重は確か70キロあったはず。なのに何故、エリは赤子でも抱くように軽々も持ち上げているのだろう。女にお姫様抱っこされる男か……。かっこわるっ。
「それでは、下に落りるので私の首に手を回してちゃんと密着してくださいね」
どうしてそんな如何わしい言い方をするのだろう。別に「しっかり捕まっててください」でいいやん。天使じゃなくてサキュバスなのか? お前は。
俺を抱っこしたまま玄関の方へ歩いていき扉を開ける。やっぱり下からは瞬間風速60mはあるかもしれない超強風が吹き荒れる。こんなの崖にしがみつくとかできる気がしない。
「さーて、行きますよ。お願いですからしっかり捕まっててくださいね。途中で落ちたら物理法則的に助ける事ができませんので」
物理法則ってどういう事? 俺の方が重いから先に落ちてしまうという事だろうか。でも大気の摩擦のせいで落下速度は200km以上にならないし、それなら飛べば助けられるんじゃね?
――ぴょん、ブワァァァァァ!!
その時、俺はどうして物理法則なんて言い方を使ったのか理解した。
それはつまりエリに生えている天使の羽が下から吹き荒れる強風にぶつかって押し上げられ、上空へ舞い上がったからだ。
そしてその浮き上がった衝撃で俺に多大なるダメージを与える。
「いや~、何回やっても飽きませんね。アトラクションみたいで……ってご主人?」
「うぷっ……! 食後にそれは不味い、不味い……」
「ご主人?」
「まず……い…………――※×@§ДДДДДД」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!? コ、コウさん大丈夫ですか!?」
それは、凄い光景であった。
普通なら重力に引っ張られ下に落ちるはずだった”元料理だった物”は強風に煽られ空に拡散していく。それらは各地に飛び散り朝日を浴びて虹のようにキラキラと輝いていたのだ。
「う、うわぁぁ! 凄い、綺麗――」
「汚いですよ!」
グサッ……。
人前でゲロった事なんて黒歴史になりそうだから面白く終わらせようと思ったのに……エリが放った真実と言う名の剣が俺の心に深く突き刺さる。
もう嫌だ……お家に帰りたい。あの二次元の城と化した港区にあるマンションの我が家へ……。あそこならもう誰一人として浸食することができない絶対領域だから籠れるんだ。(合鍵を何故か持っている母さんは除く)
これが後の”ゲロ空中散布”と呼ばれる悲惨な事故として語り続けられるのだった。
転生したら兵器製作チートをもっていました。 煩悩 @morimorimomizi
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