8:00 短編小説を投稿する
ちびまるフォイ
このスケジュールにあがき続けろ!
待ちに待った年末休みが訪れた。
「よーーし、今年の連休は充実させるぞ!」
普段の連休と言えば家で時間を持て余し、
気が付けば1日が終わって後悔するばかりだった。
今年こそはと書店に入ってスケジュール表を購入する。
中を開いてみると、時間ごとに枠線が引いてある。
「最近のスケジュール表はなかなか細かいんだなぁ。
数分おきにスケジュールも組めるじゃないか。まるでスターだな」
分刻みのスケジュールでスター気分を味わうため、
明日の予約を細かく入れていく。
でも、普段からインドアなうえ、友達も少ない俺にとって
スケジュール表に書き込める分刻みのスケジュールなど「トイレ」くらいだ。
「書くことないなぁ……めっちゃ空白あるし。
あ、そうだ。妄想スケジュールでも入れておくか」
ふざけて、「彼女とデート」とかありもしないことを書き込む。
翌日本当に起きることなど知る由もなかった。
「来ちゃった♪」
「……誰?」
玄関を開けると知らない女性が立っていた。
「やだなぁ、君の彼女じゃない。忘れたの? ひっどーい」
「え!? なに!? 新手のセールス!?」
「冗談でもおもしろくないよ?」
女はスマホに撮り貯めていた俺との写真を見せた。まるで覚えがない。
「あのスケジュールが未来になるなんて……」
「さっ、デートしよっ」
13:00 彼女とデートをする
妄想で書き込まれた予定だったのに寸分たがわずに実現するなんて。
もしかして、俺はものすごい力を得たんじゃないか。
「っしゃああ! どんどん書き込んでやるぜーー!!」
明日も、あさっても、その次も細かいスケジュールを指定していく。
指定した時間になると、スケジュール通りに未来が進行する。
好きな人と話すこともできるし、
運よく宝くじに当たることもできるし、
天気ですらもあやつり放題。
「こんなに充実した毎日は初めてだ! 最高だぜ!!!」
びっしり書き込まれたスケジュールは俺に日々の充実を与えてくれた。
数日後。
密度の高いスケジュールにし過ぎたせいか体を壊してしまった。
「げほげほっ……。まずい、完全に風邪ひいたな。
今日の予定のロッククライミングとスカイダイビングは無理だ……」
布団の中にもぐっていると、起床のスケジュールになり、体が動き始める。
「え!? なんだ!? 体が勝手に!!」
体はだるく、頭は痛いし、咳はとまらない。
けれど一度決めたスケジュールには逆らえない。
「ま、待てって! キャンセル! キャンセルするから!!」
予約キャンセルしようとスマホを手に取るも、体の自由が利かない。
何事もなかったかのようスケジュール通りにすべて進行する。
「あの、顔色悪いですけど本当にやるんですか?」
「や、やりたくないです! 帰らせてください!!」
言いながらも、体が勝手に飛行機から飛び出しスカイダイビングを始める。
体調はますます悪化してまともに足腰立たなくなる。
「なんて恐ろしいスケジュールなんだ……こんなにも強制力があるあんて。
明日の予定は……」
おそるおそる確認してみると、ぞっとするほどのスケジュールが書き込まれている・
「ジムに通って、登山して、飲み会に行って、彼女とデートして、
セミナーに参加して、部屋の大掃除してって……死ぬぞこれ!?」
体調は悪くなっているのに、今日以上の詰め込み具合。
「くそ! 消えない!! 破っても再生しやがる!!」
鉛筆で書いたはずの文字はいくらこすっても消えないし、
ページをやぶってもシュレッターに書けても粉末状にしても合体して復元する。
どうあがいても逃れることはできない。
「どうしよう……明日を無事に過ごせたとしても、スケジュールは次もあるし……」
スケジュールはびっちり書き込まれているので病院に行く時間も挟めない。
記入された予定が尽きるまでは従うしかないのか。
「そうだ!! 実現しない未来を書いて無効化しよう!!」
一度書いたスケジュールを消すことはできない。
でも、書き足すことはできるはずだ。
近所のジムで汗を流した後に、海外の山に登山に行く。
宇宙船で飲み会をして、彼女と地下デート。
深海のセミナーに参加したあと自分の部屋の大掃除を行う。
予定を書き足して物理的に実現不可能なものにした。
近所のジムから海外の山に行くにはジェット機を使ってもスケジュール通りの時間にはならない。
確実にスケジュールは遅れる。
ワープしたとしても、登山し終わる時間に宇宙船に行くことは不可能。
宇宙服の着替えをもショートカットできるわけない。
「これで完璧だ。どこをどう頑張っても確実に破たんするはず……ごほごほっ」
翌日、スケジュール通りに体が動いてジムへ行く。
「そろそろだな……」
スケジュールでは海外の山に到着する時間になった。
体にどんな影響がでるかと心配していたが、なにも起きなかった。
「やった!! 成功した!! スケジュールはキャンセルされたんだ!」
実現できないスケジュールは無効とされるのだろう。
俺の体はワープすることもなく、その後のスケジュールも実現されなかった。
その日、1日ゆっくり休む事が出来たので体調もすっかり回復した。
「よかったよかった。これで明日は万全の態勢で彼女とデートできるぞ!」
・
・
・
翌日、スケジュール通りに彼女がやってきた。
俺たちを見るなり言葉をなくしていた。
「なんで……こんなにいるの……?」
「「「 知らなかったんだ。まさか実現不可能なスケジュールを書くと
実現する用の自分が作られているなんて…… 」」」
海外の山に行っていた俺と、宇宙船から戻った俺。
地下から来た俺に、深海から浮上した俺が彼女へ同時に告げた。
8:00 短編小説を投稿する ちびまるフォイ @firestorage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます