第5話怪盗ジュエリー編③〜私たちは影の役者〜

客室の扉が閉まった。

ドッペルゲンガーのように写された構造の客室のうちの一室。そこにはのものではないけれどもの持ち物ではあるスーツケースが無造作に開けられ、広げられていた。それ以外は何も手を付けられていない、生活感のない部屋。


「なんか飲む?って言っても備え付けのお茶しかないんだけど。」


笑いながら悠はテーブルに置かれたいたカップをひょいと二つ分とって、そのうちの一つを希に差し出した。しかし、希はそれを受け取らず、かわりに、軽く悠を睨んむ。


「時間無いのわかってるでしょ。」


希の声は軽く怒りの色を帯びている。

それもそのはず、希は今、客を廊下に待たせているのだ。これが上司や同僚に知られてしまったら従業員の規律が厳しいこの船内では小言じゃすまないだろう。だから、今の希には無駄な話をすることはおろか、時間を無駄にすることだって避けたいところ、気がたっていても仕方がない。

それを理解している悠は軽く息をつくと二つのコップを元の場所に戻し、希のためにさっそく本題に入った。悠が希を部屋に呼んだ理由を。


「で、はどうだった?」


他人が聞いたら何のことかわからないだろう、それでも、この二人にはこの一言だけで十分だった。

それは、のこと。彼女はそう自分のことを名乗っていたがその本当の姿は紛れもない、ネタ屋を訪れたなのだ。

希は目を伏せると、深刻そうな顔をして今の涼の状況を伝えた。ここに来る前の記憶を完全に失っていて、そのせいで自分を小説内の世界の人間だと完全に思い込んでいること。ネタ屋で買った日記帳のことはなぜ持っているのかわかっておらず、それについて聞いたときに異変を現したことから、それが涼の記憶を取り戻すカギになるのではないかということ。

しかし、語訳でこんなことが起こったのは初めてで、二人はどうしたらいいのか困り果てていた。希はネタ屋としての責任から悠以上に参っているように見えた。

悠は希の報告を受け、少し考えるそぶりをすると、ふと、こんなことを希に提案した。


「ねぇ、私も二人と行動していい?」


希は悠が何を考えているのかが理解できなかったようで、怪訝な顔をした。悠が付け加える。


「とりあえず、この語訳を終わらせることを優先した方がいいと思う。で、それについて、私と希、どっちも役職が違う。だから、動けるところが限られている。でも逆を言うと、うまく動けばこの船内のことをすべて把握することができるでしょ?希が裏側、私が表側。二人で情報を集めるとともに、二人で涼を支えるの。それで語訳完了。」


悠がそこまで説明すると希は少し考えこんだ。


「要するに私達が裏で涼を操って、犯人を見つけ出して、それをまるで、涼が見つけだしたっていうことにするってことね。」


希はそういうと、決心が固まったようで深くうなずき、悠のその作戦に乗っかることにした。二人は、そのあと端的な作戦会議をし、次の行動を決めて悠の部屋を出ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

すとーりあハント なわ @kokesyan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ