もう異世界に懲りたので破壊して少女だけ救いたい

角川スニーカー文庫

第1話 

序文


 実際、最初は世界を救いたかった。

 純粋に心からそう思ってた。嘘じゃない。騙されたと思って信じてほしい。俺だってまさか自分が世界を破壊しようとするなんて思わなかったさ。

 始まりは異世界召喚。

 気づけば、そこは夢にまでみたファンタジー・オブ・ファンタジーな世界。この世界には魔術があり、エルフがいて、魔獣もいて、そして聖剣があった。もちろん俺は大興奮。

 聖剣抜いて選ばれし者になるのが夢だったから「さあ救ってやるぜ、この世界!」とばかりに息巻いた。

 しかし現実は非情である。

 細かく愚痴ると長くなるので割愛するが、俺はこの世界でびっくりするぐらい無能だった。

 魔術は使えず、エルフ美女には召喚直後に「チッ、ハズレ引いた」と置き去りにされ、魔獣からは失禁するほど追いかけられて、そして極めつけは――聖剣を抜けなかった。

 異世界にくれば無条件に大活躍出来ると思ってたんだが……本当、現実は上手くいかない。

 まあ、そんなわけで俺は愉快なぐらいひねくれた。

 もう自分には期待しないし、世界にも期待しない。成り行きで魔導学院に入学したが、そこでも順当に落ちこぼれ、心のスローガンは『異世界救う。ダメ、ゼッタイ』である。

 ただ、さすがにそんなことで世界を壊そうとは思わない。

 落ちこぼれは落ちこぼれなりに隅っこで生きていこうと思っていたし、幸いこんな俺でも面倒見てくれる子はいたし。

 だから、この物語はきっかけの事件から始めようと思う。

 俺が異世界召喚されてから半年後、完全にひねくれていた頃。

 世界を救う物語が終わりを告げ、世界を壊す物語が動きだす。


 じゃあ、始めようか。俺と天使と聖剣と、

 このバッドエンドな異世界のプロローグを。


      「偽・魔導剣聖」の手記・第二節『俺がアフロになった理由』より抜粋



一章 


 学院東側の飼育棟。少年は隣の少女へジト目を向けた。

「なあ、セラ。お前、今日の課題は楽チンだって言ったよな?」

「あー、言ったわね」

「内容は可愛いワンちゃんのエサやりだとも言ったよな?」

「まー、言った気がするわ」

「じゃあ聞くが」

 少年――ユウヤは背後を全力で指差した。

「これのどこかが可愛いワンちゃんなんだよ!?」

 そこにいるのは三つ首の魔獣ケルベロス。

 冗談のように馬鹿でかい頭が三つ。真っ赤な目を向け、今にも飛びかかってこようとしている。一応、檻に入れられ、首輪で繋がれているのだが、それにしても絵面が凶悪過ぎる。頭一つで大型トラックぐらいあり、胴体も合わせればちょっとした一軒家ぐらいの大きさだった。

 指を差した途端、ケルベロスは唸り声の三重奏で吠えてきた。

 ひぃっと竦み上り、ユウヤは隣の少女――セラの背に隠れる。

「ムリムリムリ! 超怖え! こんなん漏らす、絶対漏らす。っていうかすでにちょっと漏らした気がする! とりあえずちょっとパンツ履き替えてきます。じゃ、そゆことで」

「待ちなさい。お漏らし程度でパス出来るほど、学院の課題は甘くないのよ」

 素敵な笑顔で去ろうとしたら、間髪を容れず襟を掴まれた。

 く……っ、と歯噛みし、とりあえず逆ギレしてみる。

「じゃあ、俺のこの熱い情熱滴るパンツはどうするんだよ!? お前のパンツと交換してくれるのか!? だったらいいよ! むしろお願いします!」

「オッケー、黙りましょうか? あんまり馬鹿なこと言ってると、燃やすわよ?」

 セラの手からボオッと炎が燃え上がった。目がマジだ。ユウヤは速攻で「サーセンでした!」とホールドアップ。

 ……やべえ、このパツキン幼女、可愛いのにケルベロスぐらい怖え!

 ユウヤがお口にチャックしたのを見て、セラは「よろしい」と炎を消す。

 ボーボー燃えていたのに、本人に熱がっている様子はない。

 それもそのはず彼女は今、魔術で炎を出したのだ。

 魔術の学び舎、ザインダレス魔導学院。二人はここで魔術を学んでいる。

 今いるのは学院東側の魔獣飼育棟。体育館ン個分というただっ広い場所に大小様々な檻が並んでいる。檻のなかにはオークやらゴーレムやらガーゴイルという魔獣たちがおり、おどろおどろしい鳴き声を上げていた。

 二人はそれぞれ学院の制服姿。ユウヤはよれよれのシャツにブレザーを羽織り、ネクタイをだらしなく垂らしている。腰に魔道具入れのバッグをつけているが、中身は空っぽ。顔立ちはぱっとせず、ザ・凡人の空気を如何なく醸している。

 一方、セラはアイドルも逃げ出すぐらいの美少女である。朝焼けのようなブロンドが麗しく、小柄で顔立ちはあどけない。年齢は十二歳。スカートの腰にはやはり魔道具入れのポシェットをつけている。ユウヤと同じ高等部二年生で、学院史上、百年ぶりに飛び級を果たした天才児である。

 二人は魔獣飼育棟のなかでも一際大きい、ケルベロスの檻の前にいた。

「それじゃあ、今日の課題を説明するわ。内容はケルベロスの唾液の収集ね」

 セラが小さな手を腰に当てて宣言する。ユウヤは思いっきり眉を寄せた。

「はあ? 唾液の収集?」

「そ。人工ゴーレムの製造に必要な素材なの。ゴーレム科がこの後の授業で使うから、唾液を収集して届けてあげるの。それが今日の課題」

「おいおいおい、ゴーレム科の教師って確か小太りのハゲたおっさんだろ? 何が哀しゅうて中年の指示で唾液集めなんてしなきゃなんねえのよ。変態か! プレイが高度過ぎて性癖歪むわ。青少年の健やかな成長のために断固拒否する!」

「ユウヤに拒否権なんてないの! 文句があるなら毎月の授業料と寮費を払いなさい。それが出来ないからこうして特別課題で免除してもらってるんでしょ」

「だったらもうちょい楽な課題とかないのか? 花壇の水やりとかプールの掃除とかテキトーに楽チンな課題を所望する!」

「あ、っ、た、わ、よ! 最初はそれこそ水やりとかプール掃除とか、落ちこぼれのユウヤでもこなせる楽チンな課題ばっかりだったでしょーが! そういうの全部サボって手抜いて大失敗したからこんな罰則みたいな課題になったの!」

「そんな馬鹿な!? 品行方正、真面目一徹、模範生の見本市みたいなこの俺が失敗なんてするわけないだろ!?」

「はあ……どの口が言うのかしら? 真珠花の花壇は駄目にしちゃったし、聖水プールでは空飛ぶ絨毯を粗大ゴミにしちゃったじゃないの。他にもアレとかコレとか山ほどっ、忘れたとは言わせないんだからね!」

「あー、そういやそんなこともありましたなぁ」

 具体的なことを言われ、耳をホジホジしつつ、目を逸らす。

 確かに手軽にやろうとして色々やらかしたような気がしなくもない。

 真珠が取れるという花壇では、水やりのために生贄調達科からタコに似た魔獣を拝借してきた。タコ魔獣が消防車のように水を吐き出し、瞬く間に終わったのだが、どうやら魔獣に弱い花だったらしく、真珠が取れなくなって大目玉を喰らった。不幸な事故である。

 聖水を貯蔵するというプールでは、デッキブラシでゴシゴシやるのが面倒で、魔道具倉庫から空飛ぶ絨毯を借りてきた。足で雑巾掛けする要領でプール内をサーフィンし、楽しく掃除をやりきったのだが、聖水で絨毯の魔術が解除されてしまい、コケだらけの粗大ゴミになって、これまたしこたま怒られた。とても哀しい事故である。

 その他、あれやこれや、切ない事故が立て続けに起きたような気がしなくもない。

「あのね、たたでさえ落ちこぼれなんだからこのままじゃ本当に退学になっちゃうわよ? ここを追い出されたら行く当てなんてないんでしょ?」

「いやー、まあそうなんだけどな。実家に帰るとか物理的に不可能だしなぁ」

 ユウヤは異世界召喚されてきた身である。

 半年ほど前、この世界に召喚されたのだが、召喚主のエルフ美女は早々にどこかへいってしまい、成り行きでこのザインダレス魔導学院に入学した。

 しかし初歩の魔術一つ使えず、現在、見事に落ちこぼれている。一応、チート能力や特殊技能の兆しはあったのだが、これといって覚醒することもなく、ただの一般人のまま気づけば半年が過ぎていた。しかも文無しなので授業料も払えない。

 おかげで日々、特別課題という名の使いっぱしりをすることで、どうにか学院に置いてもらっている。

「だがしかし!」

 ユウヤは力強く拳を握り締めた。

「それはそれ、これはこれ! あんなバケモンの唾液なんてどうやって採んのよって話だぞ。見ろ、あのでっかい牙! 俺の腕より太いじゃありませんか。不用意に近づいたら百パーざっくりよ、ざっくり! 唾液採る前にこっちがエサになっちまうっての。

 ――はっ!? まさかそれがセラの狙いなのか!? 俺の溢れんばかりの才能に嫉妬し、亡き者にしようとしているというサスペンス……!?」

 偶然、ケルベロスが良いタイミングで吠え、ユウヤの衝撃度を表した。

 一方、セラは呆れ返ったようなジト目。

「あのね、そういうことは四大元素の一つでも使えるようになってから言いなさい。こんだけあたしに面倒みてもらっといて、よく言えたものだわ」

 天才児だけあって、セラはこの歳で学院上位の実力者である。

 そんな彼女がなぜユウヤの課題に付き合っているかというと、飛び級のおかげで単位が足りなくなったせいだ。なにせ百年ぶりだったので、進級制度が対応していなかったらしい。学院長と色々協議した結果、落ちこぼれのユウヤの『教育係』をすることで、セラは単位の補填待遇を受けている。

「はい、じゃあそれを見て」

 セラが小さな手ですぐ横を指差す。そこには台車に積まれた墫があった。

 話の流れからすると、この樽にケルベロスの唾液を集めるのだろう。だがセラの指が差しているのは、樽の蓋の上だった。そこには一抱えほどの木箱が乗っている。

「開けてみて。なかに今日のアイテムが入ってるから」

「どれどれ……お、本当だ。なんだこれ? 竪琴?」

 木箱には高そうな竪琴が入っていた。

 大きさは腕に抱けるぐらいで、波をイメージしたような形をしている。

「ケルベロスの特性でね、美しい音楽を聞くと三つの頭すべてが眠っちゃうの。だからその竪琴を弾いて眠らせて、その間に唾液を集めるってわけ」

「なる。そいつはグッジョブだ。じゃあ頼む」

「頼むじゃないわよ。ユウヤがやるの」

「え、誰が?」

「ユウヤがよ」

「俺がやるの?」

「誰の課題だと思ってるの? ケルベロスを眠らせたら柄杓で樽に唾液を入れるのよ。そこまでがワンセット。今日の課題」

 うわ、めんどい。……と思ったが、口に出す前にセラが腰のポシェットから懐中時計を取り出した。金具の部分を頬へぐりぐり押しつけてくる。

「セラ、痛い。それ地味に痛い」

「じ、か、ん! 次の授業までに持ってくって言ったでしょ? さっさとやる!」

「へーい」

 三下っぽく返事をし、竪琴を構える。

 背中にじーっとセラの視線を感じる。どうやら逃げる隙はなさそうだ。

「しゃーない。今日ばかりは腹くくって働くか。――おい、犬公!」

 ケルベロスと真っ向から対峙した。唸り声がさらに大きくなるが、相手は檻の中だ。

 余裕の笑みでビシッと指を突きつける。

「聞かせてやるよ、俺の魂の8ビート。気づいた時には夢の中だぜ? 震えて眠りな!」

 自信満々な態度に、セラが背後で「おー」と少し見直した気配。ケルベロスもどこか警戒するように六つの目でこちらを睨む。

 ユウヤは腕を高らかに上げ、今こそ竪琴を爪弾いた。

「イッツ、ショータイム!」


 ぼえ~ん。


 腰の砕けるようなマヌケ音が響き渡った。

 静寂が訪れた。他の檻の魔獣たちも一瞬、鳴くのをやめたほとだ。

 ユウヤはやりきった男の顔でセラの方を向く。ダンディな流し目で一言。

「ワタシ、竪琴、弾ケマセーン」

「はい!?」

 驚愕の眼差しが向けられた。

「格好つけといて何そのオチ!? 竪琴なんて普通、初等部で習うでしょっ?」

「いや自分、この世界の人間じゃないんで。異世界召喚されてきた身なんで」

「またワケ分かんないこと言って! あーもーっ、手が掛かるっ」

 異世界召喚のことはセラにも言っていない。学院以外に行く当てがないのは、単純に根無し草だからと思われている。ユウヤはぽりぽりと頭をかく。

「縦笛なら吹けるんだけどなー。つってもドレミファソラシドと高いレまでだけど」

 のんきな顔をしていると、またケルベロスが地鳴りのように吠えたててきた。

 気を抜いていたので「おお!?」と体が跳ね、セラの背中に退避する。

「……いやー、まいった。オーディエンスもお怒りだぜ。犬公め、そんなに俺の生演奏が欲しかったのか。いやしんぼさんめ」

 やれやれと首を振る。

「ま、弾けないモンはしょうがない。セラ、後は任せた。お前の名演奏で犬公をスヤスヤお寝むにしちまいなさい。ついでに唾液集めもやってくれると、モアベター」

「……ちょっと、ユウヤ」

「うん?」

「あれ見て、あれ」

 背中から「なんぞ?」と顔を出し、ユウヤは呻く。

「……うげ」

 竪琴が檻の中に落ちていた。ケルベロスが吠えた時、驚いて手離してしまったらしい。

 毛むくじゃらの足がベキッと竪琴を踏み潰した。情け容赦なく全壊だ。

 Oh……とユウヤは額に手を当てる。

「あいやー、こりゃどうしようもないな。セラさんや、今日は諦めてもう帰ろう。今から学食に並べば『おばちゃんのおススメ・メタルスライムの餡かけ定食』にありつけるかもしれない。学食の伝説の一品、中毒性が犯罪レベルって話だ。食べてみたくない? 今日は特別、俺が奢っちゃっても構わない」

「……そんなわけにはいかないのよ」

「なんでよ? 俺の奢りなんて滅多にないぞ?」

「ユウヤ……実はあなた、今日の課題を失敗したら退学なの」

「え」

「授業料その他諸々の滞納が限度越えだって」

「……うそん」

 さすがに青ざめた。身振り手振りを交えて大慌てする。

「いやいやいや、なんでそんな大事なこと言わねえの!? それ聞いたらさすがの俺もちょっとは頑張ろうと思わなかったことも無きにしにもあらずよ!?」

「だって言ったら緊張して絶対空回ってたでしょ! 口八丁なだけの小心者なんだから、震えて竪琴持つことさえ出来なかったじゃないの!」

「まるで見てきたかのように……っ! そうですけどっ、仰る通りの小物オブ小市民ですけどっ。でも結局、言わなかったせいで状況悪化してんじゃねえか!」

「あたしだって単位もらえなくて困るのよっ。だいたいこんな課題にされるまでテキトーやってたあなたが悪いんじゃない! 自業自得っ」

「おお、そうさ! 俺が悪いよ!? でもここ追い出されたら俺行くとこないかんね!? 野垂れ死に確定だからね!? というわけで――結婚して下さい!」

「はい!?」

 奥の手発動。その場で颯爽と跳躍し、鮮やかにジャンピング土下座。

「結婚して下さい、お願いします! 必ず幸せにして下さいっ!」

「何言ってんの、何言ってんの、何言ってんのーっ!? なんであたしがタダ飯喰らいの寄生虫を養ってあげなきゃいけないの!?」

「今だって半分そんなモンだろ!? 大丈夫、お前、天才児だから将来は絶対大物になるから! タダ飯喰らいの一人ぐらい楽勝で養えるって!」

「ワケ分かんない、ワケ分かんない、ワケ分かんないーっ! っていうかあたし、まだ十二歳なんだけどっ!?」

「ふっ、愛があれば歳の差なんて関係ないぜ!」

「愛なんてないわよ!?」

「安心しろ、俺が二人分愛せば両想いだ!」

「どういう理屈!? 安心どこから不安しかないんだけど!?」

「ふははは、ここまで俺を甘やかしておいて逃げられると思うなよ!? いつもお前がフォローしてくれるおかげで俺の生活力はほぼほぼ皆無! とてもじゃないが一人で生きてくことなんて出来ないぜ! だから責任は取ってもらわなきゃね☆」

「言い分がクズ過ぎる……っ! そんなだから学院中からクズ呼ばわりされるのよ」

「クーズクズクズクズクズっ!(笑い声) 上等上等、ちなみに俺は見抜いているでクズよ、セラ! そんなこと言いつつ、お前がなんやかんやダメ男を放っておけない、堕メンズウォーカー気質だということをな!」

「はい!? 十二歳に向かって何言ってんの!?」

「ふははは、ならば思い知らせてやろうではないか!」

 颯爽と立ち上がり、制服のポケットから取り出したのは、くしゃくしゃの紙幣と銅貨。

「これを見ろ!」

「そ、そのお金がなんなのよ?」

「さっき俺は奢ってやると言ったよな? おかしいとは思わなかったか? 万年金欠の俺に奢る金なんてあるはずない。だが今日だけは違った。こうして金を持っていた。なぜなのか? その答えをセラ、お前は知っているはずだ!」

 少女ははっとした顔をする。

「そ、それは……っ」

「くっくっくっ、理解したようだな」

 金を握った手が高々と掲げられた。

「そう! 俺が昨日泣きついて、お前からお小遣いをもらったからだーッ!」

 甲斐性無しのクズ野郎は堂々と胸を張る。

「俺はなんの躊躇もなく十二歳のお前にお金をせびり、お前はなんやかんや言いつつ、俺にお小遣いをあげてしまう! 年齢など関係ない。お前は生まれながらの堕メンズウォーカーなのだ! というわけで末永くよろしくお願いしまーすっ!」

「いやぁぁぁぁ! あたしの未来が侵されるーっ!」

 セラの絶叫が木霊した。悲痛過ぎて魔獣たちまで大人しくなる。

 するとちょうどその時、檻が立ち並ぶ通路の先を別のグループが通りすがった。

 爽やかイケメン風の男子生徒とギャル風の女子生徒。ネクタイとリボンの形状でゴーレム科だと分かる。二人は台車に水瓶を乗せて移動しているところだった。

 男性生徒がこちらを見て、ユウヤとセラに気づいた。

「お、見なよあれ。学院のお荷物がまた何か騒いでる」

 女子生徒が話に食いついた。

「お荷物ー? なんか有名な生徒なの?」

「知らないかな? 魔導特務科のクズ野郎」

「あー、知ってる。『聖剣にまさかの卑猥なラクガキ事件』の犯人っしょ?」

「そうそれ。伝説の聖剣にとんでもないマークを書きまくって、挙句、教師たちに見つかって吊し上げられたっていう有名人」

「あはっ、ウケるー」

 どうやら二人はカップルらしく、女子生徒が笑いながら男子生徒の腕に抱きついた。

 制服越しにも分かる、大ボリュームのおっぱいが極めて自然にむにむにと押しつけられていた。ユウヤの額にピキッと青筋が浮かぶ。

「ちょいとセラさんや、あれはなんだい?」

「……へ? ああ、たぶんあたしたちと同じ素材集めよ」

 床に突っ伏していたセラが顔を上げる。

「入れ物が魔導加工の水瓶だから、ウワバミトカゲの体液を集めてたんじゃないかしら。ウワバミトカゲは汗とかの体液がお酒の魔獣よ。ケルベロスの唾液と同じで人工ゴーレムに必要なの。ちょうど上の階が飼育部屋だから台車で下りてきたのね」

「違う、そんな話をしてるんじゃない」

 ユウヤはわなわなと震えた。

「見てあれ! 牛みてえなおっぱいが当たり前のように押しつけてられてやがりますよ。ギューギューギューギュー、エロおしくら饅頭か! あーもー、ハッキリ言って羨ましいなぁ!」

「ハッキリ言い過ぎだから。情けなくて泣きたくなるわ。……っていうかクズ野郎呼ばわりされてるのに怒るとこそこなの?」

「そこ以外ないと断言する! よりにもよってイチャコラの肴にされたんだぞ。セラ、俺たちは今、カップルの前戯に巻き込まれたも同義なんだよ……っ!?」

「いや俺たちとか一緒にしないで。ユウヤだけだから。あたしは無関係だから」

「俄然許せねえ……っ。リア充カップル滅ぶべし……っ。――はっ、そうだ」

 ユウヤは駆け足でケルベロスの檻に近づいた。

 その隅には魔道具の結晶回路と蒸気機関を合わせた装置があった。台座にレバーがついていて、檻内部の鎖に繋がっている。鎖の先に繋がれているのは、当然、三つ首の魔獣である。ユウヤは武骨なレバーに手を置くと、爽やかな笑顔を浮かべた。

「なあ、ケルベロスにあのバカップル喰わせて、その間に唾液を取ろうぜ?」

 ガシッと手を掴まれた。セラがぶんぶんと首を振る。

「アウト、それ完全にアウト。お願い、どんなにクズでもいいから、人の道からは外れないで」

「おおう、予想外のマジトーン……。冗談だって。いくら俺でもそこまでしないぜ」

「半分ぐらい本気の目だったわよ……?」

「まさかまさか、さすがにやらんて。だいたい、ケルベロスの鎖を外したら俺たちだって危ないしな」

 と、そんな会話をしていたら、男子生徒が通路の先から声を掛けてきた。

「おーい、クズ野郎くーん。オレらの授業で使うんだから、サボってないでちゃんと収集してくれよー? 君はケルベロスに喰われちゃってもいいからさー」

「あはっ、超ウケるー。人間食べた後の唾液とかキモいんですけどっ」

 女子生徒が爆笑し、男子生徒の腕がおっぱいにさらに埋没した。

 ユウヤの額にピキピキッと青筋が浮かぶ。全力で叫び返した。

「うっせ、ばーかばーか! 公共の場でピロートークしてんじゃねえよ、このリア充共! 本っ当羨ましいなちくしょうめ!」

 同時、ガコンッと音が響いた。視界の端でセラが「ちょ――っ」となぜか絶句する。

「ん?」

 なんだ? と思って振り返り、ユウヤの頬も盛大に引きつる。


 レバーが下がっていた。


「……うそん」

 叫んだ勢いで押し込んでしまっていた。台座から鎖がきゅるきゅると排出され、ケルベロスの拘束が緩んでいく。

「ユウヤ! レバー上げて、レバー!」

「お、おお、そうでした!」

 慌ててレバーを上げようとする。だが引っ掛かって動かない。

「何してんの!? 早く早く!」

「いや分かってんだけど、上がんねえぞこれ……っ!」

 焦れば焦るほど上手くいかず、そうしてガコガコやってるうちに。

 ズシンッ、と床が揺れた。

 二人は凍りついたように止まる。すぐそばに巨大なものの気配を感じた。

 ユウヤもセラもレバーを凝視したまま動けない。ぼそぼそと高速で会話する。

「……セ、セラさんや。大丈夫よね? たとえ鎖が緩んでも、丈夫な檻があるものね?」

「……えっとね、ユウヤに残念なお知らせがあるの。鎖には強化魔術が仕込まれてるんだけど、檻にはないのよねー」

「……ははは、ご冗談を。学院がそんな怠慢するわけないっしょ」

「……鎖緩めちゃうマヌケがいるなんて想定外なのよ」

 すぐ頭上で唸り声がした。二人一緒に恐る恐る顔を上げる。

 馬鹿でかい三つの顔がそこにあった。

「GYAOOOOOOO――ッ!」

 アメコミばりの大声で吠え、ケルベロスが檻に体当たりする。太い鉄格子が小枝のように叩き折れた。巨大な足が台座を踏み潰し、怪獣映画そのものの様相で檻から這い出してきた。

「きゃあああああああっ!」

「おわあああああああっ!」

 全速力で逃げだした。

「どうするの!? どうするの!? どうするのーっ!? どう責任取るつもりよ、ユウヤ!?」

「どうするもこうするもないだろ!? ほらセラさん、得意の魔術でズドンッとやっつけちゃって下さいよ! よっ、天才児! 火属性の申し子! 今が力の見せどころッスよ!」

「無茶言わないでよ!? ケルベロスって神話クラスの魔獣なのよ!? あの個体だって幼体の頃に国中総出でやっと捕まえたんだから! 成体の今なんて伝説の天使でもいなきゃ倒せないわよ!?」

「はあ!? え、なに? じゃあまさかこれって国が傾いちゃうくらいのクライシス? セラ、お前一体どう責任取るつもりなんだ!?」

「こっちの台詞だーっ! どさくさに紛れて責任転嫁するんじゃないわよ!?」

「はっはーっ、お前の物は俺の物、俺の責任はお前の物!」

「このクズ野郎ーっ!」

 罵り合っていると、ケルベロスが匂いを探るように鼻を鳴らし、三つの頭が同時にこちらをロックオン。足の筋肉が肥大し、一気に駆け出した。床を陥没させながら重戦車のように追いかけてくる。

 二人は仲良く「「ひぃ!?」」と悲鳴を上げ、さらに全力ダッシュ。

 通路を歩いているカップルの背中が見えた。彼らはまだケルベロスに気づいていない。

「おお、これぞ天の助け! 奴らが喰われてるうちに逃げ延びよう!」

「だからそれ人としての一線踏み越えてるから! ――って、あう!?」

 セラがつまづいた。ぺちっと床に転んでしまう。

「ええっ!? 何やってんのお前!? ドジっ子スキルなんてなかったよな!?」

「いやぁぁぁぁっ!? 置いてかないで、ユウヤーっ!」

「なんで置いてく前提で叫んでんの!? 俺をなんだと思ってんの!?」

 全速力で引き換えし、セラを抱き上げ、そのまま再びダッシュ。

「あ、あれっ、助けてくれるの?」

「当たり前だろうがよ!? お前がピンチになったら何があっても駆けつけるわ! セラを失ったら俺は生きていけない!」

「ええっ、それってどういう……」

「お前が死んだら誰が俺を養ってくれるんだ!?」

「そういう意味よね! 知ってた!」

 慌ただしくカップルを追い抜く。一瞬、本当に奴らが喰われてるうちに逃げようかと思ったが、セラが転んだことで距離が縮まっている。おそらく一網打尽だ。

「……ええい、クソ、仕方ない!」

 ユウヤは急停止し、セラを下ろすと、キリッとした顔で振り向いた。

「危ないぞ、逃げろ! いや魔術で防御しろッ!」

 鬼気迫る言葉に反応し、カップルが振り向く。すぐ目の前にケルベロスの獰猛な牙が迫っていた。

「うわああああああっ!?」

「きゃああああああっ!?」

 抱き合って悲鳴を上げるカップル。女子生徒のおっぱいがぐにっと潰れて大変エロい。

 それはさておき、ユウヤの『魔術で防御しろ』という言葉が功を奏した。男子生徒はかなり優秀だったようで、とっさに右手を掲げていた。

 魔術を行使。周囲に五芒星の魔法陣が現れ、床材の銅が反応。一瞬で寄り集まり、幾何学的な模様の『銅の壁』が形成される。

 七惑星・金星【イシス】属性の魔術だ。金星は銅の使役を司る。

 ケルベロスの牙が『銅の壁』に当たり、火花が散った。男子生徒は手をかざしたまま喚く。

「なんでケルベロスが外に出てるんだ!? 何があったんだ!?」

 ユウヤはすかさず演技派な態度で解説する。

「檻の鎖機能に不備があったんだよ! そのせいでケルベロスが逃げ、君たちが襲われそうになったところを俺が親切に教えてやったのさ!」

 恩着せがましい台詞に隣のセラはドン引き。

「自分がやったくせに、よくいけしゃあしゃあとそんな嘘言えるわね……っ。あっ、っていうかケルベロス相手じゃ魔術の盾なんて役に立たなわいよ!?」

 その危惧通り、銅の壁に亀裂が入った。そのままケルベロスが体当たりし、壁は粉砕。銅の欠片が舞い、台車の水瓶が割れ、カップルは腰を抜かして床を這う。

「ユウヤ、ここからどうするの!? ユウヤ……あれっ、いない!?」

 セラは慌てて周囲を見回した。

 すると数メートル先に、空の檻へ潜り込もうとしているユウヤの尻があった。

「なに一人で隠れようとしてるのよーっ!?」

 その檻は壁の凹凸に嵌め込むように設置されていた。上部が壁と直結しており、幅はケルベロスの頭よりわずかに小さい。ひょっとしたら牙が届かないかもしれない。

「あたしのこと守ってくれるんじゃなかったの!? っていうか、その檻を見つけたから魔術で時間を稼がせたのね。あたしも入れてーっ!」

「オ、オレも!」

「わたしもーっ!」

 セラとカップルもダッシュで檻へ入ってくる。目を剥くのはユウヤである。

「うわ、なんだお前ら!? ちょ、馬鹿なの!? 全員来ちゃったら隠れた意味がないだろうが!?」

 案の定、ケルベロスに嗅ぎつけられた。どでかい巨躯が砲弾のように突っ込んでくる。

「GYAOOOOOOO――ッ!」

 体当たりを受け、檻全体が揺れた。上部の壁がひび割れ、獰猛な牙が入ってくる。

「う、後ろ! 後ろに逃げて! ユウヤ、もっと詰めて!」

「ムリムリムリっ! これ以上、下がれねえよ! ってか、俺が潰れるぅ……っ!」

 セラたちが体をぎゅうぎゅう押し込んできて、一番後ろのユウヤは顔の肉が鉄格子からはみ出そうになる。逆側ではケルベロスも顔を突っ込んできていた。手を伸ばせば食いちぎられる距離だ。

「ユウヤ、なんとかならないの!?」

「なんとかしようとしてたっての! 俺がここで時間稼ぎしてる間に、お前らに助けを呼んできてもらう算段だったの!」

「ええっ!? だったら言ってよ!」

「言う暇もなく入ってきたじゃねえか!」

「次の作戦、次の作戦っ。こんな時こそ、普段の悪知恵を働かせなくてどうするの!?」

「俺は今、鉄格子とディープキスの真っ最中なんだよ! 悪知恵なんか働くか――ん?」

 男子生徒の背中で顔を潰されながら、ユウヤは眉を寄せた。首が変な角度になっているおかげで、妙なものが見えた。

 ケルベロスに頭が三つある。真ん中は檻へ顔を突っ込んできていて、右はどうしているのか見えない。だが問題なのは左の頭だ。割れた水瓶を一心不乱に舐めている。しかもどこか目が虚ろで、ふらふらしていた。あれはひょっとして……。

「……おい、バカップル! お前ら、あの水瓶になんとかトカゲの汗を入れてたのか!?」

「は? あ、ああ、ウワバミトカゲの汗さ!」

「二人で頑張って集めたけど、それがなんなの!?」

「説明してる暇はねえよ。セラ!」

「なあに!?」

 ユウヤはぐぐっと腕を伸ばし、天井を指差す。この檻の上部ではない。魔獣飼育棟そのものの天井だ。

「あそこを燃やせ! 手加減無しの全力だ! 天才児の力、見せてみろ!」

「分かった!」

 迷いのない返事だった。セラは両手をかざし、魔術を行使。五芒星の魔法陣が複数展開され、それが歯車のように回り出した。瞬時に発射されたのは、強烈な火柱。

 男子生徒と女子生徒が目を見開く。

「ひ、火属性の多重展開!?」

「うっそ、火属性って一番扱いが難しいはずなのに……っ」

「ふっ、見たか、バカップル共。これがセラ・マリーベル、俺の嫁の力だ!」

「誰が嫁よ!? ユウヤと結婚する気なんてないからね!」

 火柱はケルベロスのすぐ横を駆け抜けた。神話クラスというだけあって、毛一つ燃えはしない。だがユウヤの狙いはそこではない。火柱は床を舐めるように駆け抜けると、直角に曲がり、天井へ突撃。

 直後、大爆発が巻き起こった。鉄の天井がどろどろに融解していく。そうして空いた穴から大量の液体がこぼれてきた。

「さあ、好きなだけ喰らいやがれ、犬ッコロ!」

 ケルベロスは爆発に反応し、頭上を向いていた。天井からの液体が馬鹿でかい口に流れ込んでいく。すると、六つの目がグルグルし始めた。

「ケルベロスの様子が……っ」

 セラがそう驚いた直後、魔獣の巨体がゆっくりと傾いだ。ふらふらと横倒しになっていく。やがて地響きを上げ、完全に床へ倒れた。

 ユウヤは「よっしゃあ!」とガッツポーズ。歪んだ鉄格子の間を抜け、檻の外へ出る。

「ちょ、ちょっとっ、危ないわよ!」

「大丈夫だ。もうこいつは動けない。酔っ払ってるからな」

「酔っぱらってる……? どういうこと?」

「あれ見てみ?」

 ユウヤが指差したのは、割れた水瓶。

「あそこにはトカゲの酒の体液が入ってた。左の頭がそれを舐めてゴキゲンになってたんだ。つまりケルベロスは酒好きで、しかも相当弱い。ヤマタノオロチみたいなもんだな。首の多い怪物のセオリーだ」

「それであたしに天井を燃やさせたの?」

「そゆこと」

 上の階はウワバミトカゲの飼育部屋だと、さっきセラが言っていた。天井の穴からこぼれてきたのは、酒の体液だ。それをしこたま飲み込み、ケルベロスはダウンした。

「よくこんな方法思いついたわね……」

「悪知恵の勝利ってやつだな。ふふん、惚れるなよ? 俺に惚れたら火傷するぜ?」

「火傷なんてしないから。あたし、火【ゴア】属性の魔術師だから」

「え、それプロポーズの遠回しな快諾? カモン、マイスウィート・ハニー!」

「違うわよ。調子に乗らないの」

 膝立ちになって両手を広げると、ぺちっと額を叩かれた。

 そうしていると、ふいに天井の穴から丸っこい尻尾が見え、トカゲのような魔獣が一匹落ちてきた。女子生徒が「わ、大変っ」と言い手をかざす。魔法陣と共に風が起こり、魔獣が軟着陸した。どうやら女子生徒は四大元素の風【メア】属性だったらしい。

「キュウ?」

 魔獣は不思議そうに首を傾げる。どうやらこいつがウワバミトカゲのようだ。大きさは人間ほどで、形はトカゲっぽい。しかし全体的に着ぐるみのようなファンシーさがある。

 つぶらな瞳で尻尾を振っている。どうやらケルベロスと違って人懐っこいらしい。

 生きる酒蔵が落ちてきたことに気づいたようで、三つの頭がぐぐっと上がった。

「GYAO……っ」

「うおっ!?」

 そばにいたユウヤは腰を抜かしかける。一方、セラたちは危機を察して瞬時に檻へ戻った。

「危ないわよー、ユウヤー、逃げてー」

「そうだぞー、クズくーん」

「頑張れー、クズ野郎くーん」

「お前ら速攻逃げるとか酷くない!?」

 だがケルベロスは襲ってこない。ウワバミトカゲの方へスンスンと鼻を鳴らしているだけだ。恐る恐る足先で突いてみるが、やはり立ち上がってはこない。

「……なんだ、まだ動けないのか」

 ユウヤの顔にニヤリと笑みが広がった。ウワバミトカゲの首根っこを掴んで引き寄せ、ケルベロスを見据える。

「おい、犬公。コイツが欲しいのか?」

 どうやら言葉が分かるらしく、ケルベロスは『寄越せ』と言うように低く唸った。

「お、なんだその態度は? 欲しいならちゃんとお願いしなきゃダメだろ? 頼みごとには態度ってモンがあるんだぜ?」

 グルルッと威嚇するように牙を剥いてくる。

 とくに左右の頭の威圧感がすごい。そこでユウヤはウワバミトカゲの腹を撫でると、比較的大人しい真ん中の頭へ体液を振りかけた。

「お前は静かにしていて良い子だな。ご褒美だ。ほれ、たんとお飲み」

 真ん中はすぐさま舌で舐め取り、夢心地のように甘い鳴き声を上げた。黙っていないのは左右の頭だ。こっちにも寄越せと言うように唸る。

「お前らも欲しいか? だったらどうすればいいんだ?」

 ウワバミトカゲの腹を撫でながら焦らすように言うと、左の頭が態度を変えた。唸るのをやめ、低く頭を垂れる。ユウヤはすぐさま「よーし、良い子だ」と体液を与える。

 行っているのは、犬をしつける時の『条件付け』だ。元の世界で犬を飼っていたことがあったので、思い出して実践してみた。これが見事にはまった。

 しばらく後、そこにはユウヤとケルベロスが意気投合している姿があった。三つの頭それぞれがくうんくうんと鼻を鳴らしている。

「なーはっはっはっ! いやしぼさん共め、ほらこれか! これが欲しいのか?」

 ユウヤは調子に乗って高笑い。檻の方ではカップルが驚きを通り越してドン引きしている。

「嘘だろ、あいつ、ケルベロスを手懐けてるぞ……」

「あんな飼育の仕方、聞いたことないよ。ケルベロスより怖い……っ」

 セラは呆れ半分にため息をつく。

「まあ、これで一応、唾液は収集出来そうね。なんかユウヤがおかしなオモチャを手に入れちゃったみたいで後々心配だけど……」

 魔獣飼育棟にはユウヤの邪悪な笑い声がいつまでも響いていた。


おわり

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もう異世界に懲りたので破壊して少女だけ救いたい 角川スニーカー文庫 @sneaker

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