宇宙人のペットになった

5時青い

1話目

 地球は滅んだらしい。


 目覚めると人型のなにかが傍にいた。


 上半身は人間の少女だが下半身は鳥のように逆関節だった。靴は履いておらず、こちらも鳥と同じように尖った爪をしていた。


 床は白いタイルが敷き詰められており、趾では歩きにくそうだ。

 

 鳥の少女は悲しげに目を伏せ、起きたばかりの僕の髪を撫でた。


 視線を鳥の少女から天井に向ける。遠いに光る電球のようなものが並んでいる。20メートルはあるだろうか。規則正しく並んだ半円アーチ状の柱が天井まで伸び、床と同じ白いタイルが隙間なく覆っている。


 「ここは彼らの宇宙船。私たちは密漁者に捕まったの。あなたの星は侵略され、彼らに有用と思われたものは全て奪われた。空気も、水も、鉱石も、植物も、動物も全て」


 私の星もそうだった。彼女はそう言って僕の髪を撫でた。


 僕はその話をうまく理解する事ができなかった。身体がすごくだるいのだ。口を開こうとしても呂律が回らず、目だけで鳥の少女を追っていた。


 「麻酔を浴びたの。彼らの武器よ。惑星の大気圏を抜けるのと同時に宇宙船から散布する。麻酔薬は雨のように大陸に降り注いで、生き物はみんな眠らされる」


 ずいぶんとスケールの大きな話だ。地球にいる生物を全て丸ごと眠らせたのだろうか。麻酔であれば、僕はそのうち動けるようになるのだろうか。


 「300時間もすれば動けるようになるわ。大丈夫、私が傍にいる。なにも怖がることはない」


 二週間近くもこのまま動けないのか。それはすごく不便だ。


 「そうだった。あなたと私じゃ寿命が違う。一日の長さも違うのね。私にとっては数日だけれど、あなたにとっては長い時間」


 気丈に振る舞う彼女に抱かれ、僕はじっと鳥の少女を見つめていた。


 「あなたの考えていることはわかるわ。あなたたち人間にはない器官なんですってね。だから、あなたたちは高値で取引される」


 人間にはない器官? だから、高価?


 「珍しいことよ。他者の考えが読めないなんて。それも太陽系なんて宇宙のはずれにある場所だったからかしら。惑星間の貿易が一切ない知的生命体なんて、きっとあなたたちくらいのものよ。まるで海に浮かぶ小島のよう。だからあなたたちを見つけて彼らはすごく喜んでいたわ。彼らは今すごく困っているの。あなたたち人間の力が欲しいのね――」


 ぼんやりと鳥の少女の話を聞いているうちに、ふと思い出す顔があった。


 彼女の言うことが本当なら、母さんと父さんはどうしただろう。友達もみんな、僕のように捕まったのだろうか?


 鳥の少女はすぐには答えなかった。心を読めるという彼女の顔を覗き込む。目が合って、彼女はこれまでで一番悲しそうな顔になって答えた。


 「あなたの両親は多分死んでしまったと思う。彼らが捕まえていたのは繁殖能力があり、躾のできる若い人間だけ。彼らは報復をされないよう密漁の済んだ星は破壊してしまう。あなたの両親は地球と一緒に……」


 どうして、彼女が涙を流すのだろう。僕にとってはまだ全てが理解の外だ。それでも、彼女の涙が、じんわりと僕の心に沁みるようだった。全て本当のことだと。もう取り返しのつかないところにいるのだと。僕の居場所はもうないのだ。


 「泣かないで。私が傍にいる。あなたの最後の日まで私があなたの傍にいる」


 泣いているのは彼女の方だ。


 君はどうして僕のためにそこまで言ってくれるの?


 「私はあなたのつがいとして連れてこられた。私はあなたを夫として生涯を尽くします」

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