第42話 閨事 #R
[#Rレオン視点]
「ニンフっていうのは何なんだ?」
俺は泊まった宿の一階で、アイロスの爺さんから色々な
たまに俺の知っている名前や似ている雰囲気のものもあったりして、聞いていて面白い。
ヴァンピールは完全にヴァンパイアみたいだよな。人間がヴァンピールの血を飲むと、その
ヴァンピールの《高速治癒》なんてチートな能力だって思ったんだけど、意外と大したことはないらしい。かすり傷だとか噛み跡くらいならすぐ治るけど、それ以外は本当に
ニンフは、俺が聞いたことがあるのはギリシャ神話に出てきたやつだ。それと少し似ているんだろうか?
「ニンフは自然で暮らしておってな、地の神アルティドだけが関わっている使族じゃ。ニンフは四種類いて、住んでいる自然によって呼び方が変わるんじゃ。海に住むのはネレイド、川や泉に住むのはナイアド、木に住むのがドライアド、山に住むのがオレアードじゃ」
四種類もいるのか。ネ
「どんな姿なんだ?」
「人間とよく似ておる。じゃが、それぞれの住んでいる場所によって、服装が変わるんじゃ」
「服装?」
「例えば海や川に住むネレイドとナイアドは、髪の色が青色で、それも水みたいなんじゃ。着ている服のようなものも、水泡で作っておるというか……」
なんとなーく、イメージがついた気がする。ふよふよしている感じなのかな。なんだか水の精みたいだ。
じゃあその流れで行くと、木のドライアドは髪の毛が草やツタみたいになっているとか? 花も付いてそうだな。服は草で作ったもの、って感じがする。山のオレアードは土っぽい感じで、茶色い服を着ているのかもしれないな。
「あらあら、レオンはとってもお勉強が好きなのですね。
ロゼリィは俺たちの横に座って、一緒に話を聞いていた。
彼女とは船に乗っていた時に大分仲良くなることができた。でも、俺の世界の人間たちがあんまり愛を育んでいないって、泣いていたな……。言わなきゃよかったかな。
ロゼリィは人気者だから、他の男の人からもよく声をかけられていたけど、全然その気はないみたいだ。
たぶん、俺にも────。
「ロゼリィの使族は何なんだ?」
「うふふ、
ロゼリィは口元に手をあてて、お
俺の予想としては、ロゼリィはアークエンジェルかなって思ってる。
さっき話を聞いていたんだが、アークエンジェルは全く俺の想像と違った。ただ金儲けが好きなだけの使族らしい。あとは回復魔法にも特化しているって聞いたな。むしろそれしかできないんだって。
でも姿は美しいらしいんだ。ほら、そうするとロゼリィがアークエンジェルだろ……?
──うん、有り得る。
そしてそれでも、ありだ。
金儲けが好きで、お札をたくさん集めているロゼリィ……。かわいい。
「いつか教えてくれよ! じゃああとはー、何がいたっけ?」
「ケンタウロスは話したんじゃったかな」
「あー、話してないや。でも、下半身が馬みたいなやつだろ?」
「ウマとは? ケンタウロスは、上半身は人間で、下半身はヒッポスに似ておる」
「馬車を引いているやつとは違うよな?」
「うぬ。馬車を引いておるのはヒッポカゲという魔物じゃ。本当は普通の魔物なんじゃが、魔道具を使って人間の言うことを聞くようにしているんじゃよ」
そっか、馬なんていなかったわ。んで、馬がこの世界で言うヒッポスなんだろうな。馬車用の魔物と、騎馬用の魔物が違うみたいだ。
馬車用のヒッポカゲは巨大トカゲに馬を足したような感じの見た目で、少しかわいい。馬よりも一回り大きいな。
ほとんどは緑色の身体で、太い牙も生えていた。尻尾はトカゲっぽいな。でも馬みたいな
「なあなあ、天使がいるなら悪魔はいないのか?」
「天使とは?」
「アークエンジェルのことだよ」
「それならそうと言わんか。アクマのう……、アクマ…………。はて、どこかで聞いたはずなんじゃが。おお、そうじゃ! かなり昔に絶滅した使族じゃ」
「絶滅? 絶滅した使族なんているのか?」
「いるとも。例えばオーガがそうじゃ。《変身能力》を持つ使族だったんじゃが、ラミアと違って大人も子供も関係なく人間を大量に食べていたからの、人間によって殺されたんじゃ」
「《変身能力》?」
「うむ。《使族特有の能力》で、魔法とはまた違ったものなんじゃ」
「あぁ。メアリが波を操れる、みたいな?」
「そうじゃ」
魔法とは別に、特定の使族だけが持つ特殊な力があるわけか。人間ってそんなのないと思うし、そう考えると人間はますますショボいな。でも文明を作ったのは人間だし、うーん。
俺は口を開いて、話を戻した。
「他に絶滅した使族はいるの?」
「あとはヨルムンガンドが、クラーケンの前にいた使族じゃな。これも討伐されてしまった」
「そんな感じで、悪魔も討伐されたってこと?」
「そうじゃ。悪魔が好き放題やるせいで、世界中が混乱したのじゃ。それに悪魔も人間を食べるんじゃったかの。だから人間に殺されてしまったのじゃよ」
「ふうん。あー、もう他に使族はいないの?」
アイロスさんは少し考えたあと、口を動かした。
「あとはナイトメアじゃな。悪魔が絶滅した頃に
「夢は
「そうじゃな。魔物にでもどんな使族にでもなれたらしいの」
わあ、超夢があんじゃん! どんな姿にもなれるとか、ちょっとチートすぎる。
「すげえな! 俺も魔法で似たようなことができないかなあ」
「それは無理じゃな。魔法で姿を変えることはできないわい。神力としても、そんな能力は聞いたことがないのう。まぁドラゴンならば分からないがの」
つまり《変身能力》はあくまで《
ドラゴンはこの世界じゃダントツで強いらしい。もうチートレベルってやつだ。魔法の威力はどんな使族も勝てないし、魔力量は無限。テクニックも使族で一番高い。
さらにさらに、使える魔法は全属性だ!
まぁ俺だって、頑張れば爺さんみたいに全属性になれるんだろうけど、新しい属性を使えるようにするのは本当に大変らしい。
「……あっ」
急にロゼリィが、頭を抱えた。俺がどうしたの、と聞く前に彼女はすぐに持ち直す。大丈夫だったみたいだ。
ちょっとふらっとしたのかな? お酒も飲んでいたし。
「ごめんなさい、ラムズが呼んでいるみたいです。少し出掛けてきますわ」
「俺も行くよ! 今から出るのはもう時間が遅いしさ」
「うふふ、守ってくれるんですの? 素敵な騎士さんですこと」
ロゼリィは否定しなかったから、付いていくことにした。まぁでも俺なんかじゃ頼りにならないよな……。
けど、カトラスは大分使えるようになったし、魔法もそこそこできるようになった。爺さん曰く、俺はセンスがあるらしい。爺さんの魔法を見てわりとすぐに真似できる。地球でそういうアニメばっかり見ていたからだろうか。やっぱりイメージがしやすい。
「ただ、できたら一番初めに着ていた服に着替えられますか? あの黒い……」
「あぁ、学ランな。着替えてくる」
俺は階段を上って、自分の部屋に入った。
お金はあまり持っていなかったから、爺さんが俺の分まで宿代を払ってくれた。いつか金が貯まったら恩返ししないとな。
◆◆◆
俺とロゼリィは『13人と
俺たちの宿屋はけっこう古びた木造の宿で、一緒に泊まっているのも割とゴロツキみたいな見た目の人が多い。といっても、みんなお喋りで優しかったけどな。
でもこの『13人と依授』は、さしずめホテルみたいな感じだ。ホテルよりはもちろん小さいし、豪華さも劣る。でもさっきの宿屋と比べるとどうしてもな……。
ラムズって金持ちなんだな。
店員がやってきたが、客人が来ただけだとラムズが説明した。店員は頷くと、すぐにいなくなる。
ラムズは俺たちの方へ向き直った。
「レオンも来たのか。向こうにメアリもいるぞ」
ラムズが顔を向けた先には、メアリと赤髪の男が座っていた。メアリがかわいい服を着ている……。髪の毛もさらさらだし、一体どうしたっていうんだ?
赤髪の男はほとんど着物みたいな服を着ている。着物よりも派手なデザインで、肩を出しているからチャラい雰囲気だな。服はチャラいけど、表情からはちょっと硬派な印象も受ける。少しおちゃらけた武士って感じだな。
たぶんさっき教えて貰った
「じゃあ、俺は少しメアリと話してくるよ」
「行ってらっしゃい」
ロゼリィはにこやかに笑って、俺を送ってくれた。
◆◆◆
「俺、こんなに飲めないっすよ……」
あれからリューキという
なんだか身体がふわふわしてきた……。リューキはクククっと笑っていやがる。
「レオン、
「いやほんとに、無理っす。俺の世界じゃ、俺はアウトなんすよ」
「アウトとな?」
「大丈夫? レオン、顔が真っ赤よ?」
「顔ー? あぁ、おう。たしかに。メアリも赤いぜ?」
メアリも少し首が赤い気がする。
そういえばずっと気になってたんだけど、人魚ってどうやってセックスするんだろ。絶対聞きたかったんだよな、これ。だって人魚だよ? 下半身魚だろ? そういう場合って……どうすんの?
酒に酔ったフリして聞いちゃえ!
「メアリ。大事な話がある」
「え? あ、はい。告白?」
「それ聞くか? 違うよ……。あのさ、ここだけの話、人魚ってどうやって子供を作るんだ?」
「これ、笑わせるな。
リューキは本当に噎せたみたいで、咳をしている。噎せたせいか少し耳も赤い。
リューキは話し方が変わっている。同じ異世界語でも語尾や語調、言い回しにちょっと変な感じがするんだ。着物を着ているけど、髪は現代風。赤髪というより朱色の髪。
彼の着物は、花以外に天の川みたいな絵も描いてあって、
あとは、なぜか
「リューキも気になるだろ? なあメアリ、お願いだ。俺この世界に来る前から気になってたんだよ」
「は、はあ……?」
メアリはちょっと引き気味で、でも少し照れている。口はちょっと悪いけど、メアリってたまにかわいいんだよな。こうやって照れるところとか。
でもメアリの照れるタイミングが全然分かんねえ。この前かわいいって言ったのに叩かれて終わったし。全然照れてなかった……。
でもさすがにセックスみたいな話題だと気になるんだな。よしよし。
いや、俺はロゼリィ一筋だけどな? でもやっぱりかわいい女の子とは仲良くなっておきたいじゃん。
お酒のせいか、俺は目が潤んで来た。赤くなってるかな。
あぁ、どうしても知りたい。気になって眠れない。こんなこと今じゃなきゃ聞けないよな。酒に酔っているという言い訳ができる、今じゃなきゃ。
「頼むー。リューキも言ってくれよ……」
「わしは
「メアリ、メアリ頼む!」
「えー。まぁ……いいけど……」
「いいのか?!」
「嫌だけど……。でも、必死そうだし……」
「おう! 必死だ! これを知らなきゃ地球に帰れねえ!」
「わかったわよ……」
メアリは
分かりにくいけど、めちゃくちゃ照れてる。いつもツンツンしてる子が照れてるとかわいいよな。メアリはそこらのツンデレとは違うけど。それに、メアリは別に釣り目って感じではない。勝気な印象は受けるけど、ちょっとキョトンとした顔をすることもあったりな。
メアリはツンとは違うけど、なんかズケズケ言ってくるって感じだな。しかもそれを理解してないし。
今の彼女は、本気で照れている顔だ。こんなのめちゃくちゃ珍しい。俺ってラッキー?
「まず、その……。結婚してから、子供を生むんだけど……」
「子供を作る前にその行為をしないのか?!」
「そ、その行為……? しないわよ……。とにかく! まずは、
「鱗の交換……」
指輪の交換みたいな感じだろうか。
でも鱗って
「そのあと、子供を作る時は……」
「うんうん」
「その……。海底に大きな貝殻があるの。大真珠貝っていう、一応魔物なんだけど……」
「魔物? 貝殻?」
「ええ。それに、その……貝殻が閉じている大真珠貝に、えっとー。二人で……」
「二人で?」
「貝殻に、二人で……キスを、するの……」
メアリはそこで顔を真っ赤にして、酒をグイっと飲んだ。リューキはそれを見て笑っている。
待て待て。いや待てよ。これで終わりなの?!
「そ、そのあとは?!」
「そのあと……? ないわよ……。そのあとはその大真珠貝の蓋が開くのを待つの。そしたら、貝殻の中の真珠から子供が生まれるわ」
「はっ?! それだけ?! え?! それだけで子供ができんの?! まじ?!」
「え? それだけ……? それだけなの……?」
メアリは不安そうな顔をしながら、リューキの方を見た。リューキはメアリの頭を優しく撫でている。
「
「え……? 俺たちがおかしいのか……? いやけど、貝殻にキスをするだけって……キスするだけで?」
「ちょっと! 何回も同じこと言わないでよ!」
メアリはばしんと俺の腕を叩いた。
人魚にとって、貝殻にキスをすることは性行為をすることと同じくらい照れることってことか……。すごい文化の違いだ。
てことは、キス自体もけっこう恥ずかしいラインなのかな。人間は割とキスまでは普通、みたいなのがあるけどさ。
「その……キスってやっぱり、ちょっと神聖なものなのか?」
「へっ?! あ、そうね、ええ。たしかに、そうかも。まぁ、最大級の愛の示し方? かな?」
メアリも酔っているせいなのか、こういう会話をしているせいなのか、なんだか挙動不審だ。
でも、キスが俺みたいな地球人の思うレベルのものだったら、ここまで恥ずかしがったりしないよな。だってさ、着替えるのに恥ずかしがらないような子が、普通キスで恥ずかしがるか? そこはメアリ純情説ではなく、ただ人魚にとってキスが
それにしても、なかなかえげつない……。メアリは人間の
「
「レオン、わしにもそれを聞くか。どうしたものよ。メアリは気になるか」
「え、いや……。わたしは別に……」
「そうじゃろな。メアリが気にならぬと申すからの、これは
「そんな! 気になるんだけど!」
リューキは笑ったまま、持っていた
妖鬼の使う煙管は、地球でよくあるタバコとは全然違った。匂いもいい匂いだし、なんならちょっと変わった香水の匂いってくらいだ。酒の匂いと
「これこれ。其方酔いが回ってきとるわ」
リューキが手をだして、俺に魔法をかけた。
途端に頭がクリアになる。お酒の酔いを晴らしたんだろうか? 魔法でそんなこともできるなんて便利すぎる。
「いつかリューキが《覚醒》したところを見てみたいなぁ」
「わたしも。力があんなに強くなるなんて」
「
《覚醒》も《使族特有の能力》らしい。リューキが《覚醒》すると、角が少し長くなり、髪の毛が伸び、身体に赤い刺青みたいなものが現れるらしい。
髪が伸びるといっても、昔の戦国武士のストレートな長髪じゃなくて、一部だけが伸びていくらしい。その一部は、足まで伸びるみたいだけどな。頭の辺りは今よりも少し髪の毛が多くなって、横に大きくはねているんだとか。
絶対格好いいよな、こんなの。しかもリューキは双刀使いらしい。
いつか俺も、魔法と剣を両方使いこなせる男になりたいぜ。
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