エピローグ
121
幸運なことに、僕たちは海の上に無事着水した。本来であれば落下地点を計測して、海上に降下させなければならないけど、もちろん出たとこ勝負だった。これが地面なら僕たちは無事ではなかっただろう。
さらに幸運なことに、西部地区のすぐ近くの海上だったから、僕たちは半日程度漂流しただけで上陸できた。
あのとき、僕をシャトルで送り出してからセンターを出たヨミは、『アーム』の拠点に戻ってドクター・マチュアが残したコーディネーターの通信装置を使い、東部地区の『アーム』と連絡を取った。
すでに東部地区には先行して渡っていたサキに続いて、ラオス―とTBがいた。ヨミから話を聞いたTBが、ラオスーをけしかけて東部地区のシャトルを奪い、『天龍』まで飛ばさせたらしい。僕は何かをしでかす、そうTBは直感した。最悪の場合はステーションもろとも爆破するのではないか、と。やっぱりTBにはかなわない。
ヨミは帰ってきた僕の姿を見ると、膝の力が抜けてその場にぺたりと座り込んでしまった。しばらくその格好でうずくまったあとで、がばっと顔を上げて僕を怒鳴りつけた。
「なんで戻ってきたんだっ」
彼女は、もう二度と僕に会うことはないと覚悟していたんだろう。僕の顔を見て、またうつむいた彼女はこうつぶやいた。
「馬鹿。人の気も知らないで。でも……よかった」
バーニィたちは出航してしばらくしてから引き返していて、僕たちがポートタウンに戻ったときにはすでに『アーム』のみんなが揃っていた。計画が上手くいかなかった場合の最終手段として、彼らは自分たちで事態を収拾するつもりだった。
西部地区のファントムはいなくなり、状況は大きく変わった。でも、地球は今回のことにどういう対応をするのか、分からないことや考えなければならないことが山積みだった。カウントの処遇も決まっていない。まだ他の地区のファントムは健在だし、ステーションもいつ再建されるか分からない。火星にとってこれで本当によかったのかさえも。
僕はひとまず自分の家に帰ることにした。TBやバーニィの仲間たちといっしょに。バーニィはしばらくポートタウンに残ることになった。当面はそこを『アーム』の拠点として、今後の方針を決めるために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。