エピローグ

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 幸運なことに、僕たちは海の上に無事着水した。本来であれば落下地点を計測して、海上に降下させなければならないけど、もちろん出たとこ勝負だった。これが地面なら僕たちは無事ではなかっただろう。

 さらに幸運なことに、西部地区のすぐ近くの海上だったから、僕たちは半日程度漂流しただけで上陸できた。

 あのとき、僕をシャトルで送り出してからセンターを出たヨミは、『アーム』の拠点に戻ってドクター・マチュアが残したコーディネーターの通信装置を使い、東部地区の『アーム』と連絡を取った。

 すでに東部地区には先行して渡っていたサキに続いて、ラオス―とTBがいた。ヨミから話を聞いたTBが、ラオスーをけしかけて東部地区のシャトルを奪い、『天龍』まで飛ばさせたらしい。僕は何かをしでかす、そうTBは直感した。最悪の場合はステーションもろとも爆破するのではないか、と。やっぱりTBにはかなわない。

 ヨミは帰ってきた僕の姿を見ると、膝の力が抜けてその場にぺたりと座り込んでしまった。しばらくその格好でうずくまったあとで、がばっと顔を上げて僕を怒鳴りつけた。

「なんで戻ってきたんだっ」

 彼女は、もう二度と僕に会うことはないと覚悟していたんだろう。僕の顔を見て、またうつむいた彼女はこうつぶやいた。

「馬鹿。人の気も知らないで。でも……よかった」

 バーニィたちは出航してしばらくしてから引き返していて、僕たちがポートタウンに戻ったときにはすでに『アーム』のみんなが揃っていた。計画が上手くいかなかった場合の最終手段として、彼らは自分たちで事態を収拾するつもりだった。

 西部地区のファントムはいなくなり、状況は大きく変わった。でも、地球は今回のことにどういう対応をするのか、分からないことや考えなければならないことが山積みだった。カウントの処遇も決まっていない。まだ他の地区のファントムは健在だし、ステーションもいつ再建されるか分からない。火星にとってこれで本当によかったのかさえも。

 僕はひとまず自分の家に帰ることにした。TBやバーニィの仲間たちといっしょに。バーニィはしばらくポートタウンに残ることになった。当面はそこを『アーム』の拠点として、今後の方針を決めるために。

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