120
ラオスーがパネルを操作している。
「どういうことなの」
「東部地区のシャトルをかっぱらってきた」
僕の質問に、操縦席のラオスーが答えた。本当に操縦できたんだ。
「じゃあ、『天龍』を占拠したのって……」
「わしらじゃ」
なんて人だ。
機内にはすでにシルが立ち上がっていた。
「地上からのコントロールがないため、通常の帰還シークエンス開始不能。また、このシャトルにはブースターがないので、軌道周回速度の減速ができません」
「そんなことは分かっとるわい。ステーション間の緊急連絡用シャトルじゃからな。『ノード・ワン』が突入速度に達した直後に離脱する」
「りょうか――警告。超多変量解析による故障予兆検知システムが異常を検出しました」
シルの周囲に数値データとグラフ、それにタイマー表示が現れた。
「五分後にステーションの制御システムがダウンします。冗長化――無効。シャトルの離脱ができなくなります」
「なんじゃと」
「シル、突入速度に達したらセーフティロックボルトを爆破して強制離脱しろ」
カウントがうしろから身を乗り出す。
「ステーションの落下と同軸線上となるため、空中分解に巻き込まれます。大気圏内への生還率はゼロコンマ三パーセント」
シルの表示では故障発生まであと三分。つまり、あと三分以内にステーションを突入速度まで減速させてシャトルを離脱させなければ僕たちは助からないということだ。
ラオスーが僕を見た。
「レン、わしの合図で起爆スイッチを押せ」
「だめだよ、ラオスー。『ノード・ワン』のシャトルに仕掛けた爆弾はもう使っちゃったんだ」
「ふん。もう一発、でかいのがあるんじゃよ」
「え。でも、それは、ハッタリだって……」
「お前さんが無茶するじゃろうと思って、そういっておいたんじゃ。案の定、このありさまじゃ。まったく、西部の人間ときたら……」
「それこそ、無茶だ」
そういったカウントをラオス―が睨んだ。
「だまっとれ、若造。そいつで減速させるしかあるまい。いくぞ。みんな何かにつかまれ」
僕たちはあわてて体を支えた。
「レン!」
ラオスーの合図を受けて、僕は懐中時計のスイッチを押した。
激しい衝撃が機体を揺らす。
複数の警報がいっせいに鳴り始めた。
「ビービーうるさい。切れ」
「了解。突入速度まで減速しました。システム異常発生まであと一分」
「セーフティロックボルト強制解除、シャトル離脱じゃ」
「了解。大気圏再突入開始します」
シャトルは火星に向けて降下していく。僕たちの軌道の向こう側をステーションの破片が真っ赤になって落下していった。なんとか巻き込まれずに済んだ。空気抵抗による減速で振動が絶えず機体を襲い、歯を食いしばらないと舌を噛みそうだ。窓の外でプラズマが発光する。
「成層圏突破しました」
外が明るくなって、次第に揺れが収まってきた。全員が大きく息をついた。
「耐熱外装をジェティスン。パラシュート展開します」
ぐぐっ、と機体がうしろに引っ張られる。
ラオスーが僕を振り返って、にやりと笑った。
「レン。おぬし、どこに落ちたい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。