019

 状況が完全には飲み込めてないけど、あの黒ずくめの奴、ファントムがバーニィやヨミの共通の敵だということは分かった。

「バーニィ、君たちが抵抗している巨大な勢力が、そのファントムってこと?」

 ヨミがバーニィをにらむ。

「おい。まだ詳しく話してなかったのか」

 バーニィが苦笑いを浮かべた。

「ああ。話してない」

「まったく。箱入り娘じゃあるまいし、どこまで甘やかすつもりだ。もう少し一人前に扱ってやったらどうなんだ」

「それがドクの望んだことなんだよ。彼の意思を無視したくない。だいたい、お前たちが無理やりドクを連れて行くからこういうことになったんだろうが」

「私たちにはドクター・マーシュの力が必要なんだ。ドクターに危害を加えるつもりはない。だが、このままだと私たちは本当に根絶やしにされるぞ」

「そんなことにならないさ。奴らはここの環境を維持する必要があるんだ。下手な手出しはできない。俺たちはこれまでそうやって生きてきたんだ」

「自分たちが支配されていることさえ知らずに、それで本当に生きているといえるのか!」

 見えない火花を散らして、バーニィとヨミはにらみ合った。

「あのぉ」

 マックスの間の抜けた声が張り詰めた空気を破った。

「お取り込み中悪いんですけど。明日の準備がまだ残ってるんで、ボクちょっと機体をみてきていいですか」

 ヨミが溜息をついて『眼帯』を見た。

「キャット、ついていってやれ」

「へいへい」

 彼らが出て行くと、バーニィはベッドにどさっと腰をおろした。

「バーニィ。僕にはまだ分からない事だらけだけど、父さんが僕の身の安全を考えていてくれたというのは分かった。バーニィも僕のことを気遣ってくれている。でも、こうなってしまった以上、僕はやっぱり何が起こっているのか知りたい」

 そらみろ、という顔でヨミがバーニィを見た。

「それから、ヨミ。ありがとう」

 びっくりした顔でヨミは椅子から立ち上がった。

「べ、別に私は礼をいわれるようなことをした覚えはないぞ、なんだそれは」

 そのままヨミはぎこちない歩き方でドアの方へ向った。

「あーちょっと私もフィッシャーの様子をみてくるからアリソンあとはまかせた」

 ドアがバタンと閉まる。

「怒らせちゃったかな」

 僕がつぶやくと、バーニィとTBは顔を見合わせた。

「いや、怒ってるわけじゃないだろ」

 TBはちょっと笑って肩をすくめると、腰からナイフを抜いて木片を削り始めた。持ち手に凝った意匠が施された古そうなナイフだった。

「まあいい、あとで行ってやれ」

「うん。わかった」

 バーニィは膝の上で手を組んで、その上にあごを乗せた。

「さっきお前のいったとおり、俺たち『アーム』はファントムに抵抗している」

「奴らは人間なの?」

「人間だ。でも俺たちとはちょっと違う。奴らは俺たちのご先祖さまだよ」

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