014
「どこでそれを?」
「黒い髪の女の子がそういった」
「ヨミに会ったの?」
「Yo、Me?」
「ヨ、ミ、よ。あの子の名前。あなたよく無事だったわね」
「TBが助けてくれた」
TBの手が僕のグラスに伸びた。彼女はまだほとんど手付かずの酒をくっ、と一息で飲み干すとグラスを逆さまに伏せてテーブルにコン、と置いた。
「なかなかやるわね。今度勝負しない?」
フランチェスカの言葉にTBはにやりと笑った。やれやれというふうに首を振って、バーニィは続けた。
「ある勢力に抵抗するために、『アーム』は作られた。だが、その名前を知る者は限られている。表向きはただのならず者の集団だ。『アーム』は各地に存在している。西部地区だけじゃない。東部にも南部にもある。そして中には過激な方針の奴らもいる。それがヨミたちだ。俺たちは比較的穏健なほうなんだぜ」
「その、ある勢力って」
「とても大きな力さ。とてつもなく大きな」
そこでバーニィは口をつぐんだ。口元の苦笑が消えている。ひんやりとした風が吹いてかがり火を揺らした。
「ドクのせがれ、あんたにひとつ長生きの秘訣を教えてやろう」
老人が僕の背中をぽん、とたたいた。
「ワシが長生きできたのは、人よりも臆病だったからじゃ。あせることはない。ゆっくり行け。それに、あんたはひとりじゃない。必ず仲間がいることを忘れんようにするこった」
そういって立ち上がると、少し離れた岩場に座って、ギターを弾き始めた。
「今日はここまでにしよう。明日は日の出と共に出発する。続きはまたおいおい話そう」
僕たちは立ち上がった。
「ああ、そうだ。すまないが余分なベッドがないんだ。あんたたち――」
TBが手を上げてうなずくと、すたすたと厩舎の方に歩き出した。よく分からないけど、とりあえずついていこう。
「坊や」
呼び止めた声に振り返る。
「ドクは必ず助け出してやる」
かがり火を背に立っているバーニィとフランチェスカの姿を見て、僕も早く大人になりたいと、なぜか不意にそう思った。
TBは大きなピッチフォークを軽々と振るって大量の干草を移動させると、あっという間に即席のベッドをふたつ作ってしまった。そのひとつにどさっと体を横たえて、帽子を顔の上に被せた。
風に乗って、ジェシーのギターと彼のしゃがれた歌声がかすかに聴こえてくる。
「ねぇ、TB。TBも昔の父さんのことを知ってるんだよね。なんだか父さんのことが分からなくなってしまった。父さんは本当はどんな人なんだろう。僕はこのまま追いかけて行っていいんだろうか」
TBは上半身だけ起き上がると、右手の人差し指を僕の左胸に近づけて、一インチ手前でぴたりと止めた。
「自分の気持ちを信じろ、ってこと?」
満足そうにうなずくと、また干草の上に寝転がり、おおきなあくびをした。
考えても仕方ない。奴らを追いかけよう。僕も干草の上に寝転ぶ。こんなベッドは初めてだったけど、思った以上に寝心地がいい。
ジェシーの歌声が聴こえる。
「おやすみ アイリーン
おやすみ アイリーン
夢の中で お前に会うよ」
僕はいつしか眠りに落ちていった。
夢の中に、フランチェスカがヨミと呼んだあの黒髪の少女が出てきた気がするけど、暗い眠りのあわいに切れ切れに消えてしまった。
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