第三章 馬鹿みたいだって思うでしょうけど

015

「くそっ、こんなに早く嵐がくるとは」

 風の音にかき消されてバーニィの声が切れ切れにしか聞こえない。

 砂嵐は一定の周期でやってくる。今の季節は毎週のようにやってくるけど、確かに今回は間隔が短すぎる。

 横殴りに吹きつけてくる砂で前がほとんど見えない。そもそも眼を開けていられない。僕たち――僕とバーニィとTB――は、はぐれてしまわないように密集して動いていた。スカーフで顔を覆っているのに、口の中がじゃりじゃりする。

 バーニィの話だと、奴らの拠点まで二日の行程だった。一日目は砂漠を横断、二日目も何もない荒野を行く。その先に今は使われていない鉱山があって、ヨミたちはそこを根城にしているらしい。

 いったんその鉱山跡近くの町に腰を落ち着けて作戦を練る。そういう予定だったんだけど……。

 一度引き返したほうがいいんじゃないか、そういいかけたとき、TBが馬を降りた。ぽーんと大きく前方に跳躍して砂のカーテンの向こう側に消えていく。

「どうしたんだろう」

「何か見つけたな」

 しばらく待っていると、TBが戻ってきて、ついて来いという仕種をした。

 彼女が見つけたのはあのMAと呼ばれていた機械の乗り物だった。うずくまるように地面に座っている。中には誰も乗っていない。僕たちはMAの影に身を寄せ合った。

「故障か何かで不時着したらしい。坊や、MAは二機だといってたな」

「うん。ひとつは父さんが乗せられて、もうひとつは女の子と眼帯をした男が乗ってた」

「TB、追えそうか?」

 TBは首を振った。この嵐では足跡はもう消えてしまっているのだろう。

「この近くにメイソンという町がある。乗ってた奴らが向うとしたらそこだ。そっちに行く予定はなかったが、どうする。行ってみるか」

 TBは即座にうなずいた。

「よし。このまま嵐の中を進むわけにもいかないしな」

 僕たちは再び馬にまたがった。


 町にも砂嵐は吹き荒れていた。でも、砂漠ほどじゃない。建物があると威力は小さくなる。通りに人影はない。僕たちはバーニィの顔見知りの宿屋の扉を開けた。

 スカーフで顔を隠し、全身砂まみれの僕たちを見て、宿屋の主人は一瞬ぎょっとしたみたいだけど、すぐにバーニィだとわかるとカウンターから声をかけた。

「昼間っからうろうろして大丈夫なのか、バーニィ。また懸賞金が上がってるぞ」

 バーニィは苦笑いを浮かべながら、TBを親指でさした。主人は眼を見開いた。

「もしかしてあんた――ニキータ・ヴェレチェンニコフ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る