011
彼らのねぐらは渓谷の本道を外れた奥まった一角にあった。道は細く迷路のように入り組んでいるから、普通は気付かないだろう。自然の地形を利用して天幕を張り、いくつもの小屋が建てられている。集落といっていいくらいの規模だ。
そこにいる人たちは、老若男女さまざまで、ただの窃盗団とは思えなかった。小さな子どもや赤ん坊を抱いた女の人までいる。僕のような褐色の肌の人もみかけた。
僕たちは男に案内されて、小屋のひとつに足を踏み入れた。
盗賊の親玉の家にしては質素で落ち着いた部屋だった。ローテーブルに椅子が三脚、ライティング・ビューロー、奥の部屋には大きなチェストと姿見、小ぶりなベッドが置かれている。男は僕たちに椅子を勧め、自分はライティング・ビューローの椅子に腰かけた。
ノックの音がして、「おう」と男が答えると、若い女性が陶器のカップを三つ載せたトレイを持って入ってきた。小麦色の肌をした綺麗な人だった。テーブルにカップを置くとき、僕を見てにこっと笑った。
「フランチェスカ、リカルドに今夜はとっておきのやつを出すようにいっておいてくれ」
男が声をかけると、彼女はうなずいて出て行った。
カップの中身はコーヒーだった。口の中に深い味が広がる。熱くて濃くておいしい。TBはカップを壊れ物のようにそっと持つと、ごくごくとふた口で飲んでしまった。
「さて。一応自己紹介させてもらおう。バーナード・アリソンだ。バーニィと呼んでくれ。そっちのお姉さんは賞金稼ぎのニキータ・ヴェレチェンニコフとお見受けしたが」
TBは持っていたカップをそっとテーブルの上に置いてうなずいた。TBはそんな名前だったんだ。
「で、そちらの坊やはレナード・マーシュ君」
「あなたも父の知り合いなんですか」
「昔、君のご両親には世話になってね。君はお母さん似だな」
「父の居場所を知っているんですね」
「だいたいの見当はついている。俺たちも奴らの動きはずっと追っているからな」
「彼らは何者なんです」
バーニィはカップを口元にあてたまま少し考え込んだ。
「親父さんからは何も聞いてないんだな」
僕はうなずいた。
「少々手荒な連中だが、心配するな。親父さんに手は出すまい。お前たち、今日はここに泊まれ。明日の朝出発しよう。俺も一緒に行く」
「TB?」
僕がTBのほうをふり向くと、彼女は胸元から賞金稼ぎのバッヂをはずし、胸ポケットにしまった。
「オーケイ。俺の首はあんたに預けたよ。TB――俺もそう呼んでいいかい?」
ご自由に、という感じでTBは肩をすくめた。バーニィは苦笑いを浮かべていった。
「話は決まった。それじゃあ、メシにするか」
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