012

 集落の中央に設けられた炭火の窯であぶられた巨大な牛の肉が、ふたりがかりで運ばれてテーブルの上にドン、と置かれた。こんがりとローストされた香ばしい匂いが立ちのぼる。僕の胃がぐうぐうと鳴った。周囲に置かれたかがり火の明かりに照らされて、向かいに座っているTBの眼がらんらんと輝いている。

 色の浅黒い、口ひげを生やした男が巨大な包丁で肉を切り分けていく。

「どうだ、リカルド。今日の出来は」

 バーニィの問いかけに、リカルドはぐっと親指を立てて、切った肉をどんどん皿に移していく。それを女の人たちが皆に配って歩く。

 丸太を半分に切って作られた大きなテーブルの周りに集落の人たちが集まっていた。ひととおり皿が行き渡って、バーニィの「さあ、やってくれ」という言葉がいい終らないうちに、僕たちは肉にかぶりついていた。

「うまい!」

 僕は思わず声を出していた。これまで食べたことのない複雑な味のソースが肉に浸み込んでいる。

「ありがとうよ、ドクの息子。たくさん食ってくれ」

 リカルドが僕の肩をたたいた。

 茹でた野菜とマッシュポテトを自分の皿にとりわけながら、バーニィが僕に声をかける。

「ここにいる奴らはみんな一度はドクに世話になったことがあるのさ」

 確かに父さんは遠くの患者を診に行ったり、他の町の医者と会うために家を空けることがよくあった。でも、どうやらそれだけじゃなかったみたいだ。父さんはいったい何に関わっていたんだ。あの女の子は「世界の本当の姿」っていってたけど……。

 そんなことを考えながら肉をほおばっていると、リカルドの前に空いた皿がぐいっと突き出された。TBだった。確か彼女の皿には二十オンスは優にある肉が載っていたはずなんだけど。

「いい食いっぷりだねぇ、姉さん」

 リカルドが笑いながら、大きな肉片を皿に載せた。TBがぐっと親指を上げた。テーブルの向こう側から声がかかる。

「リカルド! 腕を振るった甲斐があったな」

「ああ、久しぶりのお客さんだからな。いつも変わり映えしない連中に作ってると張り合いがなくっていけねぇ」

「なんだとぉ、いつもはもっと手ぇ抜いてるじゃねぇか」

「うるせぇ、お前ら料理の味なんて分かんねぇだろ。その点、この人たちはちゃあんと分かってくれてるぜ」

「だとさ、姉さん。遠慮なく食ってやってくれ」

「ほら、あんた。ぼさっとしてないで、野菜を回してあげなよ」

 テーブルはどんどん賑やかになっていく。小さな子どもたちが僕たちのうしろを走り回っている。やっぱり大勢で食べる食事は楽しい。TBもそう感じていたらいいな。僕はなんとなくそう思った。

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