010

 こうして僕たちはあっという間に用意された五日分の食料と野宿に必要な物、ライフル二挺、弾薬、その他諸々を、ジェシカに借りた馬に担がせた。

 家の外で見送るふたりを残して、僕たちは東へ向けて出発した。


 さすがは賞金稼ぎだけあって、TBには追跡の技術があるようだった。奴らの乗り物が数百メートル単位でつけた後を正確にたどっていく。

 そろそろ陽が落ちようとするころ、僕たちは大きな渓谷にぶちあたった。町とは反対の方角だから、僕はほとんど来たことがなかった。どうやら奴らは渓谷の両側に切り立つ崖の上に飛び上がったみたいだ。もちろん僕たちには崖は登れない。TBはしばらく崖の上を見たあと、渓谷に入っていった。

 今日はこのあたりで野宿することになるだろう。僕が再びうつらうつらし始めたとき、ふいにTBが右手を上げて馬を止めた。

 耳をすますけど、僕には何も聞こえない。やがて、背後からかすかに馬の足音が聞こえてきた。

 僕がライフルに手を伸ばそうとしたとき、渓谷の上からカチャカチャと銃を構える音がして、複数の銃口が僕たちを狙った。そして、僕のうしろにも、銃を構えた男がふたり、馬に乗ってゆっくりと近づいてくる。

 TBは、ちらりとうしろを振り返ったあとは正面を向いたまま動かない。

 今度は前方から男が歩いてきた。夕陽を背に浴びているせいで顔がよく見えない。まるでふらっと散歩にでも出ているような、リラックスした歩き方だ。でも同時に隙がないようにも見える。

 男はTBから十メートルほど離れたところで立ち止まった。

「これはまたとんだお客さんを迎えちまったな」

 夕陽が落ちて男の顔が見えた。三十代なかばぐらいだろうか。無精ひげを伸ばした彫りの深い顔。口元には皮肉めいた笑みが浮かんでいる。

 男がいい終わった瞬間、馬上からTBの姿が消えた。男の頭上を飛び越えて背後に降り立ち、彼の首に腕を巻きつけ締め上げている。

 男は周囲の仲間たちに、手を出すな、というように両手を上げた。

「この明るさならはずさないぜ、バーニィ」

 僕の背後の男のひとりがいった。

「それはやめたほうがいいな。お前が撃った瞬間、俺の首はぽっきりと折れてるよ」

 TBは空いている手で自分の胸ポケットから折りたたまれた紙を取り出すと、広げて男の眼前にかざした。

「ありゃりゃ。また懸賞金が上がってるじゃないか。まいったな」

 TBは紙をポケットにしまった。

「なあ、あんたたち。MAを追ってるんだろ。あの馬鹿みたいな機械の乗り物さ」

 TBは僕に向ってかすかにうなずいた。

「奴らのことを知ってるのか」

「まあね。ついでにいうと、あんたたち、ドク・マーシュを探してるんじゃないのか」

 TBが男の顔を横目で見た。

「なぜそれを知ってる」

 僕の問いには答えず、男はTBに向っていった。

「なあ、ここはいったん休戦といかないか。その代わりあんたたちの追跡の協力をしてやる。そろそろまた嵐が来そうだ。そうなると奴らの跡も追えなくなるぞ。俺はあいつらの行き先の目星がついている」

 どうすればいい? こいつを信用していいのか? TBの判断に任せるしかない。僕はTBに向ってうなずいた。

 TBが腕を緩める。

「契約成立だな。お前たち、先に戻ってろ」

 そう男が声を掛けると、渓谷の上の銃口が消え、背後の男たちも去っていった。

「さて、客人たち。ようこそ、我が窃盗団へ」

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