雑念日常平行モード

両目洞窟人間

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体育の授業で学校の周りを走ることになって、みんなは「うわー」とか「最悪」とか言ってて、もう私らは一歩も動かねえぞってストライキの姿勢を見せていたくせに体育教師の笛の音が鳴った途端に「頑張ってゴールしようね」とか言い合って、走り出したからお前らの反骨精神ってその程度かよと思って、私はさっきからとぼとぼ歩いてる。


そもそも走るつもりなんてなかったからカーディガンを羽織ってるし、さっきも「あの、今日は見学したいんすけど」って体育教師に言ったけども「どこも悪くないなら、走れ」と却下されて、変にツラを出してしまったからサボるわけにもいかないから笛の音と同時に歩き出して「雨宮ー!走れー!」と体育教師が叫んでるのを無視して、ずっと歩く。

私以外のほぼみんなは結局誰かと走っている。「頑張ろうねー」って体育の授業ぐらいでいちいち声かけあってるんじゃねえよ。ここは戦場じゃねえんだよ。イラクに向かう気持ちで授業に臨んでんじゃねえよ。

クラスで友人がいなさそうな地味なやつらも地味なやつら同士で固まったりしてるから、結局そこで仲良くなっているし、本格的に一人でとぼとぼ歩いているのが私だけで「うーわ」と素直に思うけども、どうすることもできないので、やっぱりとぼとぼ歩く。

そうしているうちに一周軽々回った陸上部の竹田さんが私を追い抜かして、その時にちらっと私を見た気がした。

無性に馬鹿にされた気もするけども、これは一人でとぼとぼ歩いてる自分がやっぱり心のどこかでは虚しい人間であると思っているからで、それを竹田さんに見透かされたような気がしたから馬鹿にされたと思っているだけで、竹田さん自体は何にも私のことを思っていないはずだ。多分。

竹田さんが私を追い越してから、次々と一人で走ってるやつらが私を追い越して、それから友達で一緒に走ってるやつらも私を追い越して、地味なグループも私を追い越して、そしてまた一人でとぼとぼ歩く私が残された。

こんなことならば、来るんじゃなかった。

帰りたいな。と自然に口にしていた。


高校入学の頃には身長が175cmになっていた私は、身長と仏頂面と元々の友人の少なさが災いして気がつけばいつも一人になっていた。

「高校生にもなって連んでるとかいつまで子供ぶってるんだよって話だよ。いい加減大人になれって話だよ」と私は家で弟に向かって演説をかましたけども、弟は「あっそ。ドリフターズの3巻持ってる?」って言ってきて、こいつ姉の演説ちゃんと聞けよと思うんだけどもドリフターズの3巻を持ってるのでちゃんと持ってきてあげる。

私は仏頂面だけども、ちゃんと人の心と優しさはあるのだ。えっへん。

しかし、そんな優しい私は最初に友達作りに失敗してしまったから、未だに常に学校にいるときは一人だし、そんな一人の私を見て回りはさらに離れていく始末だった。なんてこったい。演説ではあんなことを言ったけども正直つらい。



サイコパスならば理想の友人を作ろうとか言って人を殺して死体を繋ぎ合わせて"理想の友人"を作っちゃったり、意識高い人なら世界一周旅行行って、地雷を踏んで足を失った子供を見ながら「かわいそうだね〜」って旅行者同士で言い合ってそのうちに友情を育むのだろう。

子供が失った足が友情を生んだのだ!

なんと美しい世界!

くそが!


と自分で考えて自分で吐き気がしてしまった。具体的なモデルもないのに勝手に想像して、勝手にヘイトが溜まってしまうのは狂人に近づいている証拠だ。

「姉ちゃんって、全部自分の中でぐるぐるしてんだよね。姉ちゃんの世界って姉ちゃんしかいないんじゃない?」

って弟はドリフターズ3巻を読み終わって私に言った。きっつ。もう絶対に漫画なんて貸してやらねえ。



しかしまあ、弟が言うことはまさにその通りで私には自分の世界しかなくて、それは不健康だなーと思いながらもどうすることもできない。

しかもその上避けられてしまっているし、どうすることもできない。

チャイムの音が聞こえる。体育の時間が終わった。よりにもよって外周の真ん中、学校に戻るのがあまりに面倒な場所にちょうどいて、最悪だなーって思ってそのままサボってしまいたいなと思う。

でも、財布もカバンも教室に置きっぱなしにしていた私はギリギリで教室に戻って、授業を受ける。

一人だけ着替えれてなくて死ぬほど恥ずかしいがそんなことは顔には出さない。

つらい。



たまに私は殺人鬼になって、この学校のみんなを殺す想像をする。

猟銃を持ってこの学校に侵入してみんなを撃ち殺す。返り血を浴びても大丈夫なようにレインコートは着ている。

ばーん!ばーん!と撃つたびに反動で肩が痛くなるし、耳は遠くなっていくし、死体の山が築かれる。

私は悪の教典のハスミンになる。ふふふ、土下座しても許さないぞ私は!



と、悪の教典をリビングでにやにやしながら見ていた私は弟に先ほどの妄想を垂れ流した後に弟は麦茶を飲んで「あのさ、同級生を殺すとかは、もうありふれてんだよ。全然オリジナリティとかないから。不満を同級生殺すとかそういう妄想してるのがもう全然だめだから」とまくしたてるように説教をしてきた。

「不満の解消にオリジナリティなんて必要ないだろうが」とむっとして答える。

「たしかにね。そもそも、オリジナリティなんてものがこの世界に本当にあるのかって問題もあるし。みんながみんななにかの影響を受けているわけだし。でもそういう意味でいうならば、同級生を殺す妄想ってのは不満の解消としても1番くだらない部類」

弟はべらべらとしゃべる。いちいち長い。

「姉ちゃん、影響を受けるならもっとかっこいいやつから影響を受けなよ」

「なんだよ、悪の教典は名作だぞ。かっこわるいわけないだろう。命乞い土下座を平気で撃ち抜くかっこいいサイコ伊藤英明がお前には見えなかったのかよ」

「違うよ。現状の不満を解消するならば、殺すってのはありふれてるってことだよ」

はぁーんなるほど〜。一理ある〜。



終業のベルがなって、みんな次々と席を立つ。部活に行ったり、カラオケに行ったり、ファミレスに行ったりするみたいだ。私はゆっくりゆっくり教科書をしまったり、無駄に筆箱を出し入れして、教室から人がどんどん減っていくのを待つ。

そして、ある程度減ってから自転車置き場へ向かう。

そうすると同級生がまばらだから、まだ帰りやすい。

今日も誰とも喋らなかった。本当の私はお喋りで、ひょうきんなのだ。

でも、ここでの私はまるで私ではないみたいだ。

じゃあここにいる私は一体なんなのだろう。

これじゃただの生き人形だ。

でも生き人形は人形が霊的な力で生きようとしている分、私は生き人形よりも意志が弱いのかもしれない。

あー、帰りたい。

ペダルを力強く漕ぐ。

ここで漫画ならば偶然聞いた軽音楽部の演奏に心を動かされて入部をしたり、偶然出会った人と運命を変えるような出来事があったり、私に秘められた才能がなんらかの出来事で見つかったりするのだろう。

坂道を通学ママチャリが駆け下りていく。

でも、そんなものは存在しない。

では猟銃で同級生を…と思うけども、猟銃もないし、そもそもそんなに同級生のことを殺したいほど嫌っているわけでもない。

「姉ちゃんの世界には姉ちゃんしかいないんじゃない?」

弟の言葉がぐるぐると回る。

私の世界に私しかいないのならば、誰かを移住させなきゃいけないのだろうか。

シムシティならば世界の発展はわかるのだけども、私の世界はどのように発展させたらいいのだろうか。

それがわかれば苦労はしないようー。

と自転車を漕ぐ。

夕日が沈みかけている。

日が沈むのも早くなってきた。

今日も何にも変わらなかった。

悲しいくらいに何も変わらなかったので、変わらなかった私は変わらずに悪の教典の伊藤英明を見ようと思った。

当分の間はサイコ伊藤英明を心の拠り所にしよう。

それでやりすごそうと思います。はい。

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