第16話 ストーカーは2度後をつけるつける

「で、どうすんのこいつ」


「個人的にはぶっ殺したいですね」


「ダメです。町の自警団にお渡しします」


 

 女生徒の制服を来た男は縛られてぐったり寝ている。見たところまだ10代のようだ。この年代は性欲がエクストリームするものだが、金髪少女やケモミミ少女にあてられ、歯止めが効かなくなってしまったのだろうか。



 学校の職員さんに連絡してもらい、自警団の方々はあと30分くらいで着くらしい。とりあえず研究室棟の空き部屋にこいつを運び、自警団が着くまで見張ることにした。当分目は覚まさないと思うが。



「勇者様、ありがとうございます!噂通り本当にお強いんですね。勇者がみんな皆様のようだったらいいのに......」


「いや、お恥ずかしいです。こういう輩がいたら直ぐに知らせてください、メールとかで。直ぐに対処いたしますので」


「メール?なんですかそれは?」


 

 なんですって?



 

 エイミーさんに色々と伺ったところ、この世界の文明は不自然な発達を遂げていた。


 自動車、エアコン、冷蔵庫などはあるのに、通信手段は電話に限られてる。しかも固定電話。

 思い返せば、技術は兵器開発から発達していくものだが、この世界はミサイルはおろか銃火器もない剣と魔法の世界だ。

 パソコンですら計算や経理などに使う便利ツールでしかないようだ。


 

 世界のインフレ防止のためどっかの誰かが意図的に文明発達を操作しているに違いない。



「うーん、何かいい連絡手段はないかな。こっちからはいくらでも電話できるんだけど、エイミーさんから連絡取れないと不便だな」


「あっ!それならいいものがありますよ」


 そう言うとエイミーさんは急ぎ足で自分の研究室へ行き、何やら小さな器械を持って来た。



「これは私が開発した小型携帯可能電話です。通信技術の研究者が次々と不可解な死を遂げていく中、こっそり作っちゃいました」



「これってあれだよね」

 

「携帯電話ですね、ガラパゴスな」



 見た目は元の世界では10以上年前に主流だった折りたたみ式のガラケーだ。素晴らしい発明だが──────




─────何故彼女はあの魔女のインフレ防止から免れるのだ?

 話を聞く限り、一般人による魔王攻略や、インフレ技術の開発はあいつに規制され、殺されているものすらいる。


 あいつの能力から逃れる手段があるなら、魔王なんか倒さなくても元の世界に帰れるのではないだろうか。


【無理ですよ、普通は】


犯人だ。


「善子、ちょっといつものあれだから外で話してくるね。みんなに事情説明しといて」


「はーい」



 部屋を出て、外のベンチに腰掛ける。


「あなた結構過激派ですね」


【しょうがないじゃないですか。文明発達しすぎたら勇者要らなくなっちゃうじゃないですか。これまでの方々無駄死にですよ】


「貴女がそれを言いますか。これ以上犠牲者がでないならそれでよくないですか?」


【私の立場が無いでしょうが。100年間何やってんだ、って話です】


「........まあ、僕らは抵抗する手段もないので甘んじてこの状況を受け入れるしかないんですね」 


【物分りが良くて助かります。先程の話の続きですが、賢い一般人にちょっと意地悪してる私なんですがあの娘だけには干渉できないんですよ】


「それも彼女の技術なんですか?」


【いえ、生まれつきです。彼女8歳とかで銃火器に似た兵器を完成させてるんですよ。今あるやつのプロトタイプ的な感じですが】



 相変わらず恐ろしい娘である。


【流石に不味いと思って記憶でも消してやろうと思ったんですが、不思議な力に阻まれてできなかったんですよ。今まで彼女の身の周りに干渉してなんとか技術開発の阻止してきたんですよ】



「なんかよく分かんないけどざまあみろ」


【煩いですね。貴方は今すぐにでも捻り殺せるんですからね。ほら、貴方が席を外したせいであっちはパニックですよ】

 

「貴女のせいでしょう。パニックってどういう意味ですか。別に何も─────」


「キャーー!」

 



 これはストーカーの声だ。あいつが叫ぶなんてただ事ではない。急いで部屋に向かう。



【せいぜいエイミーちゃんを利用して攻略に励むことですね。あんま行き過ぎたら粛清しますけど】




         ✢



 部屋には人質に取られたストーカーがいた。


「善子、どうなってるんだ?」


「私が知りたいよ!。急に目を覚ましたと思ったら拘束具引きちぎって.......」



 僕はこの化物を見誤っていたようだ。こんなの僕らでどうにかなるやつではなかった。



「早くエイミーちゃんの制服を寄越せ!この娘がどうなるか知らねえぞ」


「ごめん、おじさん。こんなストーカー野朗に不意を着かれるなんて一生の不覚だよ」


「ストーカー........」



 もうこの男はストーカーというよりバーサーカーな目つきをしている。早く何か策を練らなければ、早く、早く.......



「分かりました、制服は渡すから勇者様を離してください」



 僕が狼狽えていると、エイミーさんが前に出て、男に制服を差し出した。

 男はひったくるように制服を受け取り、ストーカーを解放した。



「すみません、エイミーさん、私が油断したばっかりに......」


「いいんです、勇者様の命には代えられません。勇者様は私のヒーローなんです」




 最悪の展開だ。僕がいれば能力でなんとかなったかもしれない。あの魔女はこうなるのが分かって僕に話しかけたのか?。




「君は勇者として恥ずかしくないのか?」


「俺はこれが目的でこの世界に来たんだ。魔王なんてはなから倒す気はないんだよ。このためだけにレベリングもしたしな」


「このまま逃げて生きていくのか?。仮に此処にいる僕らを殺してもいつかは捕まる。自首した方が賢明だと思うぞ」

 


「分かってるさ。正直お前の能力が怖いし、お前らを倒せる気もしない─────」



 有り難い評価だがこいつに言われても嬉しくない。 

 黙り込んだ男は急に目を見開く。何かを決意した目だ。


「────だからこうするのさ!」


 男は何処に隠していたのか、ナイフを取り出し自分の腹に突き刺した。



「何やってるんだ!死ぬぞ!」



「それでいいんだよ。俺は一度死んだ奴を見た。そいつは身につけている物ごと海に飛ばされた。つまり、俺はこの制服を持ち帰れる!。どこに落ちても制服パワーで必ず生きて帰ってやる!」



 なんという執念。畏怖の念を覚えると共に激しい吐き気を催しそうだ。

 この強い精神力を魔王退治に是非活かしてもらいたかった。


「ストーカー!」


「無理です、間に合わない!」


 

 男の体の周りを光が包み込む。回復が間に合わない程の強烈な一撃を自分に打ち込んだため、男はもう満身創痍だったが、笑っていた。


「じゃあな勇者様、制服は頂いたぜ!」 



 

 非常に質が悪い。僕を超える性欲モンスターである。





 でも、この状況は僕にはかなり都合がよかった。



 





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