4日目

 湯船に浸かるなんていう贅沢はここではできないので、外が寒いとすぐに体が冷えてしまう。

 しばらく布団に潜っていると愛佳と約束した時間になってしまった。

「えー、行くの?」

 わざとらしく自分に聞いてみる。

 まじかー、行くのか―。

 でも情報バラされたら計画が全部終わるしなー。

 もそもそと布団から芋虫のように這い出ると、俺は壁に備え付けてある受話器を取った。

「すいません、トイレに行きたいんですけど」

『はい、わかりました。すぐに向かいます』

 なんとこの電話は看守待機所につながっておりまして、すぐに呼び出すことができるのです!

 これでいたずらをしたのはこの人生に来て9日目のことだったか。

 あの時はやり過ぎたなって今は思っています。

 でも、会話できる人間がほとんど男の看守しかいないという状況でこの受付のお姉さんと会話ができるっていうのは新鮮だったんだ。

 反省はしているけど、後悔はしていません。今でもたまに世間話をするためにかけるけど、毎度スルーされてるんだよね。

 そのまま待っていると、静かなフロアにコツコツと乾いた靴の音が響いてきた。

 その音は俺の牢屋の前で止まった。

「出ろ」

 軋んだ鉄格子の音とともに、俺は外に出た。

 この刑務所は男女がフロアによって別れている。

 男性の階が4階。女性の階が3階だ。

 構造は同じなので、4階のトイレの真下には3階のトイレがある。

「すいません。少しおなかの調子が悪いので長くなってしまうかもしれません」

「分かった」

 俺はそそくさと個室に入り、作業を開始する。

 3つある個室のうち一番端のトイレの床のタイルは下の階とつながっている。

 俺はタイルを力いっぱい踏みつける。

 すると、下のほうからコンコン、という何かでつついたような音が聞こえた。

 これが合図。

 すでに下に人がいるということ。

 合図を受け取った俺は、 タイルを丁寧に外し下に降りる準備をする。

 下につながる穴は、ギリギリ人間が1人通れるかどうかという大きさ。

 トイレと天井の距離は2メートルとちょっと。下が見えないので正直かなり怖い。

「愛佳、支えてくれ」

「おっけー」

 俺は愛佳が俺の足を支えて誘導してくれるのに任せて、下に降りていく。

 足が地面に着いたのを確認して、俺は穴にかけていた手を放す。

 正確にはそこは地面ではなく、便座の上。

 次使う人には申し訳ないけど、正直ここがベストポジションなんだよな。

「来てくれないかと思ったよ」

「来なかったら情報流すんだろ?」

「まーね」

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