第11話 ハッピーエンド
「え」か何か、変な声が僕の口から漏れた。本当に漏れたという表現がぴったりで、今ここで何が起こっているかすぐには理解できなかった。
でも、少しして自分が今言われたことを理解した時に、僕はそれでも満面の幸せに包まれて、包みこまれて、包まれこまれた。
うまくキープされったって話ではないのか、と思われるかもしれない。でも、おかしいかもだけど、「生きてて良かった」なんて大げさな表現は、その時生まれて始めて感じたかもしれなかった。
「私自分勝手かな?」
と不安そうに顔を覗き込んでくるチヤコ先輩が、抱きしめたくなるくらい、かわいかった。だから、少しいじわるをしたくなって僕は言った。
「僕を利用してたってことですよね?」
「そんな!」とチヤコ先輩はびっくりして声をあげたが、素直に
「あ、いや、そうかな」と消え入りそうな声で言った。
図に乗った僕は、いや、本当に付き合ったことないのによくこんなに図に乗れたなと思うのだけれど、
「でもそんな不安そうな表情をしてくれるってことは、うやむやだけど一緒にいたいんですね?」と言った。
チヤコ先輩は今度は何も言わずに、コクンと頷いた。その後から
「だめ、だよね。そりゃ」というチヤコ先輩のかわいい声が小さく聞こえてきた。
変な自分のプライドを優先させなければ、僕の返事は決まっていた。でも、過去を振り返れば、これまでの僕は変なプライドの塊だったかもしれなかった。
変なプライドで結論を捻じ曲げて本当に必要なものから遠ざかっていたかもしれない。だけど、今は悩むことなく僕の結論は出ていた。
「もちろん」と僕が言うとチヤコ先輩は顔をあげた。泣きそうな顔だった。
「僕も一緒にいたいです」と満面の笑みで返事をしたのは紛れもなく僕だった。
なぜか、チヤコ先輩には肩をすごい力で叩かれたけど。
チヤコ先輩と一緒にいれるだけでも、僕は嬉しかったし、チヤコ先輩を大好きな気持ちで、僕はいっぱいになった。
その日のことはもう他は全く覚えていないが、チヤコ先輩と一緒に待ち合わせて帰ったことだけは、そして幸せいっぱいだったことだけは覚えている。この幸せにつながったのは、僕が努力したからだと思う。
なんか、チヤコ先輩の黒い部分も垣間見えて、「あれっ」と思ったし、スキッと付き合う話じゃないけど、でもやっぱりチヤコ先輩のことが好きだ。
後日そういえばタカナシ先輩が狙っていた僕の同期の女の子も、少しつり目で黒髪のショートカットだと気付いた時、少しだけもやもやしたけれど、それでもやっぱりチヤコ先輩が好きだ。
もう一度言おう。チヤコ先輩が好きだ。だからチヤコ先輩と一緒にいれる僕は幸せだなって思う。本当に。
これが後日談かどうかは分からないが、そんな後日談だ。
僕の話なんてたわごとだと思うかもしれない。だけど一瞬でやる気が無くなってしまうことも知ってるし、それでもやる気が出る魔法も世の中には存在すること、そしてそれは実は魔法のように難しいことではないことを今の僕は知っている。
人生は、まあ、悪くないと思う。
僕の心の中のワンダーねこが何であるか分からないし、そもそもワンダーねこなんて存在が、本当に僕の心の中にいたのかどうかも分からないけれど、僕は引き続き、しっかりやり続けていこうと思う。
そして、しっかりやり続けること、しっかりやり続けようとすること、しっかりやり続けていけることが、実は幸せそのものなんじゃないかって僕は思うし、そう信じている。
これはそんな僕に起こった小さな奇跡のお話だ。スッキリしたハッピーエンドじゃなくても、僕には宝物のように大切な奇跡のお話だ。僕の話を聞いてくれたあなたにも、そんな奇跡が起こればいいな、と僕は思っている。
実はもう少ししたら、チヤコ先輩がここに来る。今日は一緒にでかける事になっているのだ。
待ち合わせの前に、何ひとり語りを書いているんだと言われそうだけど、この話をここで終わる事をどうか許してほしい。
そう思っていたら、チヤコ先輩がカフェに入ってきた。あのかわいらしい八重歯をのぞかせた笑顔で、美しい黒髪をなびかせて。
僕の中にいるワンダーねこの名前はたまにゃん 相川青 @aikawaao
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