第10話 後日談は翌日に
まあ、ここまでが話の大筋で終わった方が、もしかしたら、しっくりくるのかもしれないが、その続きの話は実は翌日にあった。
どんな話でも知りたいのは実は後日談だったりするが、これは後日の中でも翌日のことだった。
昨日の余韻で、どぎまぎしながら、でもこれから長い一週間が始まるなあという月曜日だった。
受付で朝、いつもどおり、出来る限りいつもどおりを意識しながらというのが正確かもしれないが、僕はチヤコ先輩に元気に
「おはようございます」と挨拶をした。
チヤコ先輩も大人の対応で
「おはようございます」と返してくれた後に、小声で
「昼休みに時間もらえないかな」と僕に言った。そんな律儀にダメ押しをしなくてもいいだろうにと思いながら僕は、
「はい」とだけ返事をした。多分大人びた目のつむり方でそう返事をした。
午前中はいつもどおりの仕事をこなした。継続して担当しているお客様の受注確認と連絡、書類作成だ。
お昼になって軽く社員食堂でお昼ごはんを食べていた途中で、チヤコ先輩がビルの西出口の裏の花壇の所にいるね、と声をかけてきた。そこは、意外と社内の人があまり通らない所なのだ。
僕はご飯を普通に食べ終わった後に、深呼吸してから西出口を出た。もうどんなことを言われても冷静に受け止める覚悟だった。
西出口の外の花壇の近くにはいつものかわいい八重歯の、でも少し頼りなさげなチヤコ先輩がいた。ちょっと寝不足なのかもしれなかった。
チヤコ先輩は僕を見つけると駆け寄ってきた。その時に黒髪が揺れているのが実に美しかった。
チヤコ先輩はまずお詫びをしてきた。
「昨日はごめんね。気持ちが高ぶってたのでうまく表現できなくて、そして、あの場に置いていったみたいになっちゃって」
僕は笑顔でううんと答えた。チヤコ先輩は続けた。
「すごく嬉しかった。告白してくれたこと、真剣に考えてくれたこと、そして温かい言葉をかけてくれたこと。そして一晩真剣に考えたの」こう話すチヤコ先輩はもう美しい以外に表現できないくらい、それはもう美しかった。
「何が自分にとって大事なのかって」
僕は笑顔でうんと答えるのが精一杯だった。
チヤコ先輩はこう言った。
「それで結論が出たの。簡単に考えが変わるって、そんな風に思われたくないんだけど、でも」と、このあたりから、僕はチヤコ先輩が何を言っているのか、どんどん訳がわからなくなっていた。
「いや、その前に先に、ちょっと正直に説明しておきたいんだけど、昨日私が気になってるって言った人ってタカナシくんなの」と話すチヤコ先輩に対して僕はさらに混乱した。
意外過ぎたからだ。あの、軽いタカナシ先輩とチヤコ先輩は似合わないし、あんまり話をしているのも見かけたことがなかった。
チヤコ先輩は尚も続けた。
「前はもっと仲良かったんだけど、変だなって思ったら 、一年下の子をタカナシくんは好きらしいって分かって。それで、私も一年下の誰かと仲良くなろうとして、それが…」
少し言いよどんでからチヤコ先輩は言った。
「君だったんだけど」
これを聞いた時、遠くであの「ずーん」という音が聞えたような気がする。でも、同時にワンダーねこも遠くで現れたような気がする。
両方ちゃんとは現れなかったけど、でも、こんなやる気がなくなりそうな、落ち込みそうな場面なのに、僕は冷静だった。
チヤコ先輩はそのまま続けた。
「でも、昨日告白されて、一晩中ずっとずっと考えたの。そうしたらある考えが浮かんだの。タカナシくんについては、私から気持ちが離れたのが悔しいだけだったんじゃないかって。ホントに好きだったのかなって」
たどたどしい話し方だったけど、いつになくチヤコ先輩は饒舌だった。
「そして、なんで、自分がどうしてこんなに悩んでいるんだろうと思ったら、それは実は君からの告白に答えられないからじゃないかなって思ったの。だったら、と思って」
そんな混乱真っ最中の僕に、チヤコ先輩はこんな言葉を突き刺してきた。
「だから、その、あのね。ぐちぐちした感じで悪いんだけど、最初は付き合うとかでなく、まずは一緒にいることから始められないかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます