人生バスの降りるベストタイミング

ちびまるフォイ

最悪のベストタイミング

目を覚ますと殺風景な場所に立っていた。


周りを歩いていると停留所にたどり着いた。

すでに何人かが並んでいる。


一番年齢が近そうな男に声をかけた。


「あの、ここはどこですか?」


「えぇ? あんた、人生停留所ははじめてか?

 俺はもう4回目だから、なんでも聞いてくれ」


「人生停留所?」


「もうすぐここにバスが来るんだよ。

 んで、そのバスに乗れば人生は再出発ってわけだ」


「俺は死んでるのか?」


「死んじゃいない。死にかけているだけだ。

 でも、いつでも意識を取り戻せる。バスにさえ乗れば、な」


聞けばそのチャラ男は、何度も死にかけてはバスに乗って

人生を再出発しているんだそうだ。


一度死にかけて意識不明になれば、

人間関係や取り巻く関係もリセットできる。


「お! バスが来たぜ!」


停留所にバスが近づいていく。

停留所で待っていた人たちは体を前のめりに出す・


プシュー。


バスが止まってドアが開く。

停留所で待っている人たちはバスに駆け込んでいく。


チャラ男はドアから振り返り、

停留所で立ったままの俺の方へと声をかける。


「おい、あんたは乗らないのか? バスが出るぞ?」


「俺はいい。こんなすぐに復活しちゃったら

 人生のリスタートできない気がする」


「へぇ、まあいいけどよ」


バスは発射してみるみる小さくなっていく。

それを見ていると「やっぱり乗った方がいい気がしてきた。


「ああ、あのバスに乗った方がよかったかな。

 ……いや、でも、あのバスに乗って幸せになれるか……」


俺の現実には交際をしている女性がいる。

安易に戻ってしまっては、俺が心配されない。


二人の距離を近づけるためには、ベストなタイミングで戻らないと。



プシュー。



またバスが来た。


このタイミングで乗るべきか。

悩んでいるうちにバスは発車した。


そのあともバスは来ては去っていく。

いったいどのタイミングで乗るべきなのか。


「ああ、彼女が待っていてくれているのに。

 俺のことを一番心配してくれて、完璧なタイミングで復活しなきゃ。

 でもこれ以上待たせるのも……ううーーん……」




プシュー。



またバスが来た。

俺はもう耐えきれなくなってバスに乗った。


バスの座席に座って窓から見える風景を眺めていく。


バスからの風景はだんだんと現代の様子が見えていく。

窓の風景で自分が車の事故にあったことをうっすら思い出し始める。


自分の寝ている病院の病室も見えてくる。


「や、やっぱり違う! このタイミングで復活するのはダメだ!」


病室には誰もいない。

それは俺が心配されてないということ。


もっとみんなに注目されて、誰からも心配されているときに蘇生しなきゃ!


「停止ボタン! どこかに停止ボタン!!」


けれど、バスにあるはずの「止まりますボタン」はない。

追い詰められたとき、頭に悪魔的な発想が浮かんだ。


 ・

 ・

 ・


「ん~~!! んん~~~!!」


ぐるぐる巻きになって動け泣くなった運転手。

俺はかまわずバスの運転を続ける。


「あははは! 最初からこうすればよかったんだ!

 これなら自分の好きなタイミングで、好きな場所に行ける!」


最高のタイミングでバスを止めれば、最高のリスタートができる。



「うんうん。もう少し先を見てみようか」

「いや、もっと先にベストがあるかもしれないな」

「もう少し走らせればきっと……」


バスの走行距離はどんどん増えていく。


俺の帰りを待っている彼女と距離を詰められる

完璧なタイミングを見計らっていく。


そして、ついに見つけた。



「こ、ここだ!! ここがベストなリスタートタイミング!!」



俺は人生停留所の横にバスを止めた。


現実世界で誰もが期待を失ったこの時期、このタイミング。

俺が復活すれば、誰もがちやほやしてくれる。

そして、けんか別れしていた彼女とよりを戻せるはず!


このタイミングなら!!


「あ、あれ? どうやってドア開けるんだ?」


バスを止めるまではできたものの、ドアが開けられない。

運転手の拘束を解いて、バスのドアを開けさせる。


「さぁ! 俺の人生リスタートはここからだ!」



最高の未来を夢見てドアを出た。

その途中で、1組のカップルとすれちがった。



「なぁ、元カレはもういいのか?」


「うん、あんな男いいのよ。どうせ植物状態から戻ってこないもの。

 あんな男のせいで私の一生まで待たされるなんてまっぴらだもん♪」


「本当にかわいいな、このこのっ。

 二人で人生リスタートしたら、幸せになろうなっ」



俺が植物人間から醒めると、

ちょうど同じ病室には俺の彼女と

最初に会ったチャラ男が手をつないで昏睡状態になっていた。

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