第2話 あいつの彼女の意外な一面

クリスマス前日


「は?お前明日バイト?」


俺は今、友達の畠中一俊と学校帰りに近くのバーガー屋に来ている。


「バイト。」


「なんで入れたんだよ〜彼女いない組で楽しもうと思ったのによ〜〜」


「先に言っとけよそれ。」


彼女いない組とは、いつも一緒に連んでいる三人の中の俺とこいつのことで、もう一人は細谷智広という彼女がいるやつだ。


「だって彼女いないから空いてると思ったんだよ、彼女いないから。」


「連呼すんな。時給がいつもよりちょっと上がるんだよ。だから入れた。」


「は〜〜〜〜なんだよも〜〜〜寂しいよ俺は!」


「どうせクリスマスって言っても学校あるじゃん。そこで会うだろ。」


「それはそうだけど!学校終わっても楽しみたいじゃん!クリスマス!」


「智広は彼女とデー」


「羨ましいからその先は言わなくていい。」


「俺も彼女とイルミネーション見ながらプレゼントとか渡してイチャイチャしてえよ。」


「言わなくていいって言っただろ!くそ!なんで俺たちは今年も彼女ができないんだ・・!・・あ」


「ん?」


振り向くとそこには同じクラスの初未由璃香と、違うクラスの初未の彼氏、湯嶋隆彰がいた。

このカップルは入学して早々、付き合っているという噂が流れた二人で一学年の俺たちには名の知れたカップルなのだ。初未は明るくフランクで細かいことを気にしないやや大雑把という感じ、顔は普通にかわいい。彼氏の方はよく知らんけど奥手でシャイボーイという噂だ。まぁ見ればわかるとおり顔はまぁまぁイケメンだ。まぁまぁな。

そんなフランクでかわいい彼女とシャイでイケメンな彼氏というなんとも絶妙なバランスのとれたカップルというところもあってか噂がどんどん広まった。


「こちらの席へどうぞ〜」


店員はにこやかに俺たちが座っている席の隣の席に案内した。


「あ、畠中くんと塔山くん。やっほー」


「おお初未」


「隣お邪魔するね〜、じゃあ座ろっか」


初未は何も気にせず普通に彼氏と一緒に隣の席に座った。


『おい・・・!なんでこんなタイミングよく隣にカップル!??これはなんの嫌がらせだ??!』


一俊は顔で訴えてきた。


「・・・隆彰くん、明日クリスマスだね!学校の帰りとかどこか行かない?・・・」


『!!しかもクリスマスデートの計画立てに来たのかよ・・!くそ・・!隣に俺らいんのにどうどうと恥ずかしげもなく!』


『俺たちはもうあいつらにとって今は空気でしかないんだよ。何も考えずバーガー食おうぜ・・・』


「あー明日クリスマスか・・・ごめん・・・俺予定入れちゃってる・・・。」


「・・・・あ、そうなんだ・・・ううん・・こっちこそごめんね・・そのあともダメだよね・・?」


「そのあとになると遅くなっちゃうから・・・無理かな・・ほんとごめん」


『おい、柾貴。なんか彼氏の方が行けないみたいだぞ』


一俊は悪い笑顔になっている。


『そんな喜んじゃかわいそうだろ・・・ハッハッハ』


別にいい気味だなんて思ってないぞ。うんうん。本当に切ない気持ちでいっぱいだ・・・。どんまい初未。


「25とかは・・・?」


「んーー。25も無理かな・・・予定入ってる・・・」


「・・・・・そっか・・」


よく見ると・・いや、チラ見するとなんだか二人は気まずそうな雰囲気だ・・・


「・・・今日はどこわからないの?」


少しすると彼氏の方が話題を変える。


「えっと・・・・数学なんだけど・・・・」


どうやらここに来た目的は、初未の勉強でわからないところを教えるためのいわゆるちょっとした勉強会みたいな感じで来たらしい。

なんかこの二人どことなくぎこちないな・・・


俺たちは食べ終わったのでバーガー屋を出る。


「なあ一俊、あの二人なんかぎこちなくなかったか?」


「そりゃ〜彼氏の方がクリスマスに予定なんか入れるからじゃねーの?彼女としては彼氏と一緒に過ごしてこそのクリスマスだろ。」


「やっぱそういうもんか〜〜ていうかなんで前日に言ったんだろうな。もっと前に言っとけば・・・」


「ほら〜〜またお前は!俺と一緒で初未も、彼氏が予定なんか入れてるわけないと思ってたんだろ。ったく柾貴も彼氏もわかってないっ!」


「・・・・前に言っとけば確実に空けるだろうに。」


変な疑問を抱えながら俺は家に帰る。



クリスマスイブ当日

学校にて


・・・あいつ何やってんだ?

放課後、廊下を歩いていると隣のクラス一年二組のドアに張り付いている初未を見つける。


「何やってんだ?初未」


「!!しーーっ!しーーーっ!」


初未は俺に驚いて咄嗟に、人差し指を自分の口元に当ててそう言った。静かにして欲しいようだ。


「?」




「てかいいのかよ、彼女放っておいて。」


二組から誰かと話しているのか男子生徒の声が聞こえてくる。


「んー別にいいよ。先約優先だろ?」


少しだけ覗いてみると、話をしているのは初未の彼氏とその友達の男子と二人の女子生徒だった。


「由璃香絶対楽しみにしてたよ〜?かわいそ〜〜」


「あ〜〜いいんだよ。・・なんか最近由璃香といると疲れるっていうか扱うのがめんどくさいっていうか・・・」


「なんだよそれ〜あんなかわいい彼女とクリスマス過ごせるなら俺何よりも優先するぞ。」


「お前はわかってないだけだよ・・・ああ今思い出しただけでも面倒くさい。ほんともうあの二人でいる空間が嫌になるんだよ・・」


「ちょっと言い過ぎでしょ〜」


「てか先約ってなんだよ?」


「・・・・」


「・・・まさか・・お前・・あいつと・・・」


「・・・そうだよ」


「うわ最低〜〜湯嶋〜〜」


「だってめっちゃあいつクリスマスにあそこ行きたいってアピってくるからさ・・・別に友達として出かけるだけだよ。」


「本当かよー」


「本当だよ。」


「いやいやあの子は湯嶋のこと好きでしょ。」


「俺はなんとも思ってないからいいんだよ。」


「なんかそれも最低〜〜」


「お前ほんと・・・はぁ・・・友達として俺は心配だよ・・・」


「なんだよ・・・」


「どうすんだよ、初未ちゃんのことは」


「え?だから由璃香とは出かけないって。」


「そうじゃなくて・・・別れんのかよって」


「・・・わかんねぇ・・どうすっかな」


「まあ一緒にいても苦になるだけなら、別れた方がいいんじゃない?由璃香だってそんな風に思われて付き合われるのも嫌だろうし。」


「・・・考えてみる。」


「そうしろ」


なんかやばい話を聞いてしまった気がする。

初未は・・・

初未の方をみると下を向いてしまっている。


「初未・・・?・・・・うお!」


俺が声をかけると初未は何も言わず全速力で二組とは逆方向の廊下を駆け出して行った。


「おい・・!」


その後を反射的に追いかける。

早すぎだろおい!


「待てよ・・!初未!」


「っっ!」


あ・・追いかけて咄嗟に腕を掴んだはいいものの、全く言うこと考えてなかった・・・どうしよ・・・


「えっとー・・あー・・なんつーかお前の彼氏?あいつひどいよなぁ、面倒くさいって・・・あんなこと言わなくても」


「勝手なこと言わないで・・!」


「え?」


初未が俺の方を振り向くとその目には涙を溜めていた。


「隆彰くんのこと何も知らないくせにそんな風に言わないで!」


「ご、ごめん、でもあいつ」


「うるさい!隆彰くんはすごく優しい人なの!!」


「はぁ?」


「隆彰くんが今は私のこと好きじゃなくても私が隆彰くんのこと好きだから別にいいの!」


「それ付き合ってるっていうのか?お互い辛いだけだろ」


「っ!・・・もう放っておいて!」


「・・・・・・わかったよ。」


なんなんだよあいつ。あんなこと言われてたのに自分のことより彼氏気遣うとか意味わかんねぇ。


手を離すと初未は歩いて何処かに行ってしまった。


ていうか初未があんな風に感情を露わにしたところ初めて見たな。しかも彼氏庇うし、案外あいつにぞっこんだったのか?クリスマスにこんなことになるなんて残念な話だ。

まぁ俺にとっちゃあいつらがどうなろうがどうでもいいことだ。

どうせ今日俺は寂しく一人でバイトですからねぇ。

ああ変にモヤモヤするけど気にせずバイトに勤しもう。


と思っていたモヤモヤが気にせずにはいられなくなるくらい大きく膨れ上がるのは、この後学校で修羅場のようなものに遭遇してしまってからになる。

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俺は面倒くさい彼女の彼氏になりたい ぶろさむん @akio57

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