二十六章 五胡の時代へ
第百六回 陳元達は賢才を選んで挙ぐ
晋の
即位の翌年、劉曜が再び長安に軍勢を進めると、人がそのことを張軌に報せて言う。
「漢賊どもはすでに
張軌はそれを聞くと地団駄を踏んで叫んだ。
「漢賊どもは何と神出鬼没であることか。この一戦に長安が覆っては先の勲功も水泡に帰する。すぐさま軍勢を発するにも、手元に精鋭がおらぬ」
その憂えは病に転じてたちまち重態に陥った。涼州の文武の官は、長安への派兵を控えて間諜を放ち、関中の情勢を探らせる。
「劉曜は索綝らに破られて先鋒の軍勢は覆り、関中から軍勢を退いて東の
報告を聞いた張軌は安心して療養に専念し、病がいささか癒えれば官衙に出て政事を執った。武官の
「劉曜は軍勢を崤池に退いたという。先の長安失陥より一年を経ておらず、長安が破られでもすれば、吾が病はついに快癒するまい。どうしたものであろうか」
司馬業の
司馬業は張軌の勲功を嘉して張寔が西平公の爵位を襲うことを許すだけでなく、さらに五郡八州の軍事を統べることを命じる。州民に玉印を献上する者があり、それを朝廷に献じれば司馬業はその返礼として
詔が下されて
※
この頃、
「
司馬業がその言を
「漢賊の
◆「安定」は『
◆「上郡」は『
◆「南鄭」は『晋書』地理志によると
索綝と鞠允が言う。
「劉曜は強兵を恃んで侵攻を繰り返しております。すみやかに討平せねば禍が止むことはございません。詔を下して東西の大都督に出兵を促し、さらに各地の軍勢をも合わせねば、兵威を示して劉曜を退けられません。さもなくば、劉曜は大晋を侮り、関中の民は生業に安んじられますまい」
司馬業はその建義を認め、万事を二人に委ねることとした。索綝と鞠允は詔を認めて各地に発する。長安に近い
「劉曜は并州を呑む野望を捨てておらず、石勒は劉演が拠る廩丘を奪い取った。怨みは骨髄に徹している。この機に雪辱を図るべきであろう」
決断すると、
※
その使者の一人が漢の哨戒網に捕らえられ、
「長安に潜む索綝と鞠允はこの謀略により吾らを図ろうとしておる。并州の劉琨もそれに与してこの檄文を各地に送ったのであろうが、文より観るに、頼みとするのは
劉聰がそう言うと、
「幽州に拠る段部と并州の劉琨、それに代郡の拓跋部は唇歯の関係にあり、一所が攻められれば互いに軍勢を発して加勢するでしょう。吾らからすれば、并州はともかくとして代や遼西は実質的に晋の領域ではなく、得たところで守りきれるものではありません。臣の見るところ、ただ長安を破って司馬業を擒とするのが肝要、晋主を欠けば劉琨が鮮卑を糾合せんと図ったところで、事を果たせますまい」
「長安はすでに二度に渡って攻め、いずれも晋兵に奪い返された。これはその軍勢がなお強く、司馬業を輔佐する臣下が揃っているためであろう。思うに、并州と幽州はその躯体をなしている。これを先に破れば何事もなせまい」
「顧みるに、先に
「丞相の高見は傾聴に値するものであった。実にその通りであろう。しかし、宿将の多くは外に出て鎮守の任に就いておる。関氏と黄氏の兄弟は劉曜に従って崤池にある。石勒の軍勢を呼び寄せれば長安を落とすのは容易いであろうが、石勒は劉演を破って劉琨と怨みを結んでいる。軍勢を関中に移せば、劉琨は必ずや報復を謀り、段部と拓跋部を糾合して
劉聰が見遣ると、陳元達は鬚をしごきつつ言う。
「臣を知る者は君に過ぎる者はないと申しますが、ご下問を受けたからには申し上げざるを得ますまい。まず、
挙げられた者たちはいずれも漢建国の功臣の子である。陳元達が居住まいを正して語を継ぐ。
「長安攻めにあたっては、始安王を
劉聰はその献策に従い、諸将を召し出すと殿上に登らせてそれぞれの任を命じる。その日より諸将は人馬を整えると順次に平陽を発する。平陽を発する軍勢は一路崤池を目指した。崤池からは劉曜がある安定関に人が遣わされ、軍勢を進める期日を約する。
「長らく長安への再戦を望んでおったが、軍勢が足りず隙を窺うこともできず、時を過ごすばかりであった。軍師が軍勢とともに遣わされたからには、必ずや先の恥を雪がねばならぬ」
劉曜はそう言うと、即日に軍勢を返して崤池に到り、姜發たちと会して進取の策を諮ったことであった。
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