第九十五回 劉曜は再び長安城を打つ
晋の
さらに、勝勢に乗じて
「吾が軍勢は代からの遠路を経ており、疲弊している。漢は軍勢を退いたとはいえ、これは弓弩に怯んだに過ぎぬ。それに、戦勝しても漢の上将を討ち取ってはおらぬ。侮って深追いすれば窮地に陥ろう」
「ここで劉曜を打ち果たしておかねば、明公が軍勢を返した後に再び攻め寄せて参りましょう」
「再び攻め寄せて来ようとも、吾は軍勢を発して加勢する。それはもう決めたことである」
拓跋猗盧がそう言うと、劉琨も継ぐべき言葉がない。
翌日、拓跋猗盧と劉琨は并州の端にある
それより数日、拓跋猗盧は
「危急の一報があれば、吾が自ら加勢に来よう。軽挙を慎んで事を誤られるな」
拓跋猗盧の軍勢が去ると、劉琨は漢に損なわれた
◆「陽曲」は『
劉琨に投じる者は後を絶たず、軍勢の士気は日に盛んとなる。そのため、人を長安に遣わして上奏した。
「劉曜を打ち破って并州を恢復いたしました。漢の将兵は大いに胆を冷やしたことでしょう。この機に軍勢を合わせて漢賊どもを掃討せねばなりません」
この時、司馬業は長安に戻っていた。その左右には
劉琨の上奏を受け、司馬業は百官を召して事を諮ると、
「劉琨は代公の軍勢を借りて劉曜を破りました。南北に散った大晋の将兵を会すれば、漢賊など怖れるに足りません。すみやかに詔を発し、
その献策が容れられ、司馬業は索綝たちを各地に向かわせた。
※
長安で
王因はそれを知ると、密かに漢主に上奏する。漢主の
「古人は、先んじれば人を制すると申しました。晋の軍勢が動き出すに先んじ、
陳元達は言葉を切ったものの、さらに語を継ぐ。
「さらに、
▼「邯鄲」は山東にあり、張軌は
劉聰は陳元達の献策に同じ、劉曜を召し出して言う。
「卿は并州から帰って矢傷もすでに癒えていよう。晋の司馬業が復仇のためにこの晋陽を攻めんと企てているという。そのため、朕は各地に人を遣って晋兵の動きを阻ませようとしておる。ただ、晋の本拠地である関中だけは誰を遣わすか決めておらぬ。朕はこの機に長安を覆そうと考えておるが、それには卿を煩わさざるを得ぬ。長安攻めを差配する意志があるか」
「将たる身は平生にあっても甲冑を解かず、馬の鞍を下ろさぬものです。攻めよと命じられて拒むことなどありましょうか。まして、臣は平陽に還るより武を振るう場を得ておりません。長安攻めとあれば、問われるにも及びますまい」
劉聰はその言葉を聞くと、劉曜を
その他に
※
進路にあたる晋の郡縣では備えもなく、先鋒にあたる喬智明は勇躍して軍勢を進める。軍勢が通る関津も郡縣も、抵抗にも及ばず半ばは自ら降った。抵抗する郡縣を踏み破って軍勢は
晋の将兵のうち、漢兵から逃れた者たちは
まだ年若い司馬業は、漢兵の侵攻を知ると大いに畏れて百官に事を諮った。
「先に漢賊の劉曜に長安を襲われ、朕は西に逃れたものの、諸卿の忠勤と涼州からの援軍により長安を恢復できた。ようやく長安も落ち着いたかと思うところ、再び劉曜が攻め寄せて来るという。どうしたものであろうか」
索綝が進み出て言う。
「水が溢れた際には土でもって塞ぐに同じく、敵が攻め寄せてきたのであれば、軍勢を発して防がねばなりません。何を怖れることがありましょうか。まずは人を遣わして
司馬業はその献策を容れ、韓豹をはじめとする四将に詔を下して藍田に差し向ける。軍勢はすみやかに藍田に入って軍営を置こうとするところ、斥候が駆け戻って漢兵の到来を告げた。
※
韓豹は一報に接すると梁緯に軍営の設置を命じ、自らは魯充と華勍とともに布陣を始める。そこに劉曜が率いる軍勢が現れると、互いに布陣して睨みあいとなった。
陣頭に馬を出すと、韓豹が叫ぶ。
「古より、足るを知れば辱められず、止まるを知れば恥なしと言う。お前たち漢賊どもはまさしく人面獣心、浅深と利害を知らず、千里の外に軍を出して険路を越え、他国を討とうと求めて敗れなかった者はないぞ」
「多言に及ばず、古より虎の尾を踏まねば虎は人を害さぬという。お前たちは各地の軍勢を会して吾が大漢を損なおうとしておる。それを防ぐために長安を覆さんとするだけのことよ。先に
「先の敗戦で逃げ遅れたならば、お前はすでに長安の死灰となっていたであろう。虚言でもって人を誑かすのもほどほどにせよ」
劉曜は怒って馬を飛ばし、鞭を振るって晋陣を切り抜ける。韓豹もそれに応じて大刀を振るい、指差して言う。
「そう慌てるにも及ぶまい。今日こそお前との決着をつけてくれよう。気力を使い果たしてすぐ逃げるような真似はするなよ」
「妄言を抜かすな。十合の間にお前を擒とできねば、男児と呼ばれるまい」
晋漢の陣頭に二将が馬を飛ばして悪戦すること八十余合、いずれが勝つとも見通せぬ乱戦がつづく。劉曜の驍勇を知る華勍が加勢に馬を出せば、漢陣からは
華勍が止められると、魯充と梁緯も馬を出して攻めかかった。漢の先鋒の喬智明はそれを見ると鎗を捻って架け支え、その間に王騰と馬冲が加勢に出る。
陣頭に戦う晋漢の将たちは縦横に馬を駆け、鬨の声が響く中で塵埃が天を蔽って日を晦ませる。戦がまさに酣の頃合、砲声が天に響いて漢の後軍を率いる関河が邢延と傅武を率いて到着した。
後軍は左右に分かれると塵埃の中を衝いて晋の軍列に攻めかかる。晋兵たちはその勢いを止められず、次々に崩れていく。関河は晋の軍列を破って中央の陣をも攻め破る。
韓豹は陣頭で戦をつづけていたものの、関心が率いる一軍が乱入したのを潮に馬頭を返す。それまで踏み止まっていた晋兵たちも総崩れとなり、長安を指して逃げ奔る。
関心、関河、喬智明の三将は厳しく追撃して
▼「龍尾坡」は『
晋兵たちは城門に拠って抵抗するも、漢兵がすでに攻め入ったとの流言が広がる。城民たちはそれを聞くと城に逃げ込み、城門の下は漢兵と晋兵、それに城民が混じって見分けがつかない騒動になる。
門を争って踏み殺される者が数え切れず、哭声が地を震わせた。長安の市も大混乱になり、司馬業もそれを知ると
関河たちは城内の様子が分からず、伏兵があるかと疑って軍勢を城下に止めた。城下に設けられた砦を焼き払うと、
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