第九十回 劉曜は長安城より退去す
漢兵は
「晋兵の強弱は如何でしたか。大王がこれほど早く戻られたということは、一敗を喫されたのではありますまいか」
「驕った軍勢は破れるとはよく言ったものだ。二度の戦で長安を抜いて
「調べるところ、晋兵は
劉曜の話を聞くと、姜發は掌を指すように彼我の優劣を示してみせた。それを聞いた劉曜は躊躇して言う。
「
「晋兵が長安を包囲するにあたっては、これまでにない大軍となりましょう。軍営前後の警戒を怠るとは思えません。吉凶を占えば、長安を守り抜くことは難しいでしょう。晋兵は勝勢に乗じており、吾らはそれを迎える備えを欠きます。長安一城に拘泥してはなりません」
姜發の言葉が終わらぬうちに、馳せ戻った斥候が報せる。
「
それを聞くと、劉曜は天を仰いで嘆いた。
「天はまだ吾に長安を与えぬつもりであったか。そうと知っておれば、長安など捨てて顧みぬものを」
姜飛、
三将は馬を責めて劉燦の許に向かい、加勢を知った晋将たちは追撃を手控える。劉燦はようやく晋将から解放され、長安の城に逃げ込んだ。
※
劉曜は劉燦の敗戦を知ると、姜發に謝して言う。
「存忠の良策に従わず、重ねて将兵を損なってしまった。晋兵たちは勝勢に乗じて敵し難い。どうしたものであろうか」
「間諜によると、索綝と
「撤退するよりないが、二度の敗戦の怨みに報いておらぬ。ただ長安の城に入っただけのことだ、と世人に哂われよう」
「勝てば進み、敗れれば退くのが兵家の常です。敗戦の怨みはいずれ雪げましょう。ここは隠忍するよりありますまい」
姜發はそう言って撤退を勧めた。そこに晋の降将の
「
劉曜は王植の勧めに従い、五人に軍号を許した。
※
翌日、韓豹、華勍、胡忠、魯充たちの軍勢が城下に到着し、軍営を置いた。
王植は劉曜の許しを得ると、軍勢を率いて晋の軍営に攻めかかる。晋将の胡忠が大刀を振るって馬を出し、王植を迎え撃った。十合を過ぎぬうちに葉権たち五将が斬り込みをかけ、韓豹と華勍も陣頭に出て前を阻む。
晋の軍営前で混戦となるも、張鉄脚は韓豹の大刀を受けて両断される。許蓬頭が仇討ちに向かえば、韓豹の大刀の前に手もなく張鉄脚の後を追う。
王植が怖れて馬頭を返せば、胡忠に肩を斬られて落馬した。李軫、趙本、葉権の三将は戦を捨てて逃げ奔る。華勍と魯充が後を追い、葉権は逃げ切れず背に一刀を受けて馬下に斃れた。その隙に李軫と趙本だけは長安の城に逃げ戻り、戦の始末を劉曜に報告した。
※
晋兵に敵し得ぬと知った劉曜は、ついに撤退の命を下した。
「黄昏時には長安を離れる準備を終え、二更(午後十時)を過ぎて月が中天に懸からぬうちに城を出る。誤って晋兵に覚らせるな」
漢の将兵は長安の府庫から銭穀を収め、輜重に積んで準備する。二更を過ぎた頃、姜飛と関山の二先鋒は先に立って城門を抜け、関心と
長安を離れた漢の将兵は一路山西を目指して軍勢を進める。
晋の軍営にある胡忠と華勍は人馬の声を聞くと、漢兵が長安を捨てたと覚る。二将は軍令を待つことなく、一万の軍勢を率いて暗夜の中、逃げる漢兵の後を追う。
世が明けて旗幟を見分けられるようになると、晋兵は鬨の声を挙げて漢兵を追った。三十里(約16.8km)も行かぬうちに先を行く輜重が見えてくる。さらに追い迫るべく馬を呷ると、砲声の響きとともに二人の漢将が大刀を手に前を阻み、胡忠と華勍を罵って言う。
「晋賊に与する馬鹿者どもよ、考えもなしに追って来おったか。吾は
◆「関義勇」は追贈された諡号によると思われる。関羽には北宋の
言い終わると、関河と関心は大刀を振るって斬りかかる。胡忠と華勍が迎え撃つも、わずか五合のうちに関河の大刀が胡忠の頸を刎ね飛ばす。華勍は到底敵わぬと思い知り、ほうほうの態で軍勢を還した。
関河と関心もその後を追わず、軍勢を整えると緩々と最後尾について進んだ。
劉曜は長安を保つことができず、面目を失って
「李矩は
劉曜は間諜の報告を聞くと、軍勢を四つに分けて一斉に滎陽城下に攻め込んだ。郭誦は愕き慌てて防ぎきれず、劉燦が東門から突入すると、城を捨てて逃げ出した。
劉曜は滎陽の城に入ると、しばらく其処に腰を落ち着けると定めたことであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます