二十一章 晋漢争覇:天水訟
第五十六回 王彌と劉曜は許昌を攻む
▼章名の「
※
▼「轘轅關」は『通俗』『後傳』ともに「闤轅關」としているが、誤字と見て改めた。洛陽八関の一つ。『
━━━━━━━━黄河━━━━━━━━━
●洛陽 ●成臯
▲▲ ▲▲▲
▲▲ 緱氏● ▲▲▲
▲▲▲▲◇▲▲▲
轘轅關
●陽翟
→許昌方面
国都の
「
劉淵は
「二軍を発した目的は、許昌と
「晋室の命数はまだ尽きておりません。三年の後には歳は
「天道は深遠であり、推移に常なく変転して定まらぬ。将来を読むことは難しい。まずはこの機に乗じて軍勢を進め、晋室の虚実を測るべきであろう。晋室の命数に拘泥してはおられぬ」
議論が定まらないうちに、晋に仕える
「司馬越は威勢を恃んで妄りに忠良の臣を誅戮しております。吾が叔父の繆播のみならず、
劉淵はそれを聞くと、諸葛宣于を劉聰の許に向かわせ、軍勢を先に進めるよう命じる。また、王彌と石勒には洛陽に向かうよう詔を下した。
※
劉淵の詔を拝した石勒が
「王彌とともに洛陽に向かえとの勅命を受けた。軍勢を南下させれば背後の
「緩やかに軍勢を発するのがよいでしょう。まずは王彌に書状を遣って劉曜と軍勢を合わせるよう言い、その動きを観た後に進退を決するのです。これにより王浚を牽制するのみならず、王彌の心中も図れましょう。一挙両得というものです」
この時、王彌は三万の軍勢を率いて轘轅關にある。周囲の賊徒を下してさらに一万を超える将兵を併せ、賊将の
許昌に向かう王彌の軍勢に抗う晋兵はなく、郡縣はいずれも降って攻囲を避けた。そのため、さらに降兵一万を加え、都合五万の軍勢を率いて道を進む。
許昌には斥候からの報告が矢のように届き、関津の守りを委ねられていた将帥の
▼「楼裒」は原文では「楼哀」と記すが、後段で丘光と行動を共にする同輩が楼裒であるため、誤りと見て改めた。
洛陽にある東海王は王彌の侵攻を知ると、何倫たちとともに洛陽から許昌に取って返し、城外に複数の軍営を置いて防備を固める。
王彌も斥候から許昌の様子を聞き知り、急攻を控えて軍勢を留め、間道から劉曜の陣営に向かった。
※
王彌を迎えた劉曜が問うて言う。
「将軍は許昌の強弱を観られたか」
「許昌を守る軍勢は多い。それゆえに軍勢を合わせる相談に来たのだ」
王彌の言葉を聞くと、平陽から出張ってきた諸葛宣于が言う。
「軍勢が多くとも、司馬越は兵法を知りません。戦の場数を踏んではおりましょうが、いずれも敗戦を喫しており、この戦でも守りに徹して出戦しようとは思いますまい。将軍と
諸葛宣于の画策により、王彌と
漢兵が洛陽に向かったという報告が伝わり、晋帝は大いに懼れて各地に救援を命じる使者を遣わし、さらに諸大臣と防禦の策を講じた。
王衍が進み出て言う。
「臣はすでに各城門に軍勢を置いており、万が一、漢兵が攻め寄せたところで憂えるには及びません。敵を退けるには、
それでも晋帝は漢兵を恐れて言う。
「漢の将兵は勇猛、侮ってはならぬ」
「張騏と
王衍が重ねて言い、晋帝はようやく安心したのか、漢兵を退けた暁には重賞を授ける旨の勅命が下された。あわせて上官己は元帥、張騏は先鋒に任じられ、張驥と王秉忠は
※
翌日、漢兵の進軍路を知ると、晋軍は要害の地に軍営を置いて前を阻んだ。
午の刻(正午頃)が近づくと、王彌と呼延晏の軍勢が境に至って晋の軍営に対する。すぐさま軍使が遣わされて両軍で戦が約され、陣を披いて向かい合う。晋将の張騏は軍袍をまとって長鎗を手に馬を進め、王彌を指して言う。
「
王彌が哂って言う。
「虎を描いて狗に似るとはお前のことだ。晋朝の者どもは口ばかり達者で大言するのみ、この王将軍は遺さず生きながら擒としてきた。わずかでも強弱を知る者であれば虎を起こすような真似をせず、さっさと投降するがよい。それならば洛陽が落ちても首が胴体と離れずに済む。後悔せぬようにするがいい」
「賊徒めが大言をほざくな。官将を愚弄するか」
王彌の罵言を怒った張騏が、鎗を引っ提げ馬を駆る。王彌が馬を拍って進み出ようとしたところ、早くも呼延晏が鎗を振るって突きかかる。呼延晏は張騏の技量を知らず、張騏も呼延晏の武勇を測らず、鎗を合わせて一連の戦に砂塵は滾々と天に揚がり、四十合を過ぎて日が翳っても勝敗を決しない。
王彌は張騏の勇猛がこれまでの晋将の比ではないと観ると、大刀を振るって馬を出す。対する晋陣からも張驥が同じく大刀を抜きつれて馬を馳せ、加勢に向かう王彌を阻む。
四将が一団となって鎗は鎗に対して一突きも抜けるを許さず、刀は刀を迎えて半瞬の乱れも見せない。ただ両者の気合のみが戦場に響いて殺気は天を覆い、両陣の部将たちは兵に禁じて戦場を乱すことを許さない。兵士たちは喚声を挙げるのみで一歩も進み出ず成り行きを見守るばかり。
四将が緊々として悪戦すること二刻(四時間)ばかり、ついに日も西山に没して暗闇となり、両軍は鉦を鳴らして兵を収めたことであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます