第四十二回 東海王司馬越は晋帝司馬衷を毒害す
劉輿は苟晞と争ってはかえって害されると懼れ、洛陽に還って東海王に別の官職を与えられるよう願い出る。東海王は
「
これを聞いた東海王はついに劉輿を用いなかった。これは、盧志が成都王を害した劉輿を恨み、先んじて讒言を撒いたものであった。劉洽は盧志の忠節を知るがゆえ、その讒言を信じたのである。
劉輿は盧刺と劉洽に謀られたと思い、洛陽で閑居する間に天下の兵馬銭糧、兵士の多寡、倉庫に収められている穀物や布帛の品目、器械や兵器、さらには地理や関津、水陸の形勝を調べて諳んじ、ついに地名を聞くだけですべての知識を引き出せるまでになった。
東海王が官署や司職の考課を行うにあたっては、劉輿はその傍らにあって東海王に代わって報告を読み、資料を繰ることなく疑義を正して誤りがない。東海王は劉輿を長史に抜擢して腹心とし、軍国の大事までともに諮るまでになった。
※
「聖上は国を治めるに足りず、民を安んじられません。位を皇太弟に譲って国統を継がせれば、新帝は大王により擁されることとなり、出来ぬことなどなくなりましょう」
「聖上を廃さんとした者は多い。しかし、ことごとく諸親王の叛乱を招いて身を滅ぼしておる。これは聖上が存命であるためのこと、行うならば除かねばならぬ。この策をどう思うか」
東海王の言葉に劉輿が言う。
「掌を反すようなものです。
東海王は劉輿に無言で金帛を渡す。劉輿は晋帝に近侍する者に
皇后の羊氏は晋帝の遺骸を見て近侍に命じる。
「皇太弟が即位すれば、妾とは嫂と義弟の間柄、朝に立って事を共にはできません。
何倫がそれを諌めて言う。
「天下には一日たりとも帝を欠くわけにはまいりません。聖上はすでに世を棄てられ、哭したところで無益です。すみやかに百官を召して大事を定め、その後に喪を発さねばなりません」
東海王はにわかに立ち上がり、正殿に出て百官を集めた。
それより、皇太弟の
皇太弟の司馬熾は
新帝は詔を下すと、恵帝を太陽の陵墓に葬るよう百官に命じた。恵帝の在位は十七年、改元を四度おこなった。政事を自ら執ることはなく、すべて臣下により行われたことであった。
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