第二十七回 石勒は襄國郡を奪い取る
幽州からは
軍議の席にあって石勒が言う。
「徐玖珮と徐玖瓊は智勇に優れてにわかに城を陥れられぬ。救援が到来してはますます陥落は難しくなろう。良策があれば申し出よ。陥落の暁には功績を論じて官職を進めるべく主上に申し上げよう」
その時、哨戒に出ていた兵が戻って言う。
「幽州より王浚の軍勢が鮮卑段部の兵と道を分けて進んでおります。近日仲にはこの襄國に到着する見込みです」
それを聞いた石勒が言う。
「城を抜かぬうちに外援が到着すれば、吾らはどのように処したものか」
諸将は口を揃えて言う。
「堅城を前に背後を
▼「遼薊」の遼は遼西、薊は幽州を意味する。
石勒は
「諸将の議論は一致せず、進退を定められぬ。軍師から何か言うことはあるか」
「軍勢は進むことはあっても退くことは許されません。
「これこそ
石勒の言葉を聞くと、張賓は幕舎から出ていく。
※
石勒はついに断を下した。間道より進んで北方に向かわせ、偽装の計略を行わせる。その一方、
城壁の上では、徐玖珮が弓兵を率いて趙染たちの攻撃を退けんと奮戦する。未の刻(午後二時)に至る頃、
軍旗を掲げた夷狄の兵が馬を馳せて城下にまで到り、大音声に叫んで言う。
「吾は遼西の段部の者である。部長の
城壁上で防戦の指揮を執る徐玖珮はそれを聞くと、打って出る軍勢を揃えて自ら指揮にあたることとし、徐玖瓊には城壁から形勢を観望するように申し伝えた。
徐玖瓊が諌めて言う。
「段部は王浚の姻戚であり、そのために出兵したのでしょう。心中は測りがたく、油断はできません。城下に到着しても辞を設けて城外に駐屯させ、その行いを観てから対処を定めるべきです」
徐玖珮がその言を
段部の軍勢は段文鴦につづいて漢軍に攻めかかり、それを見た趙染も戦を捨てて逃げ奔る。これにより漢兵は陣を崩して潰走を始める。徐玖珮は城門を開いて突出し、一軍を率いて漢兵を蹴散らした。
漢兵が逃げた跡には鎧兜や器械が投げ出されており、十里(約5.6km)ほども追ったところ、漢将の
漢兵が逃げ去ったところで段末杯が言う。
「すでに日も暮れかかっており、此処で軍勢を返すべきであろう。明日には必ずや漢兵を駆逐できよう」
徐玖珮はそれに駁して言う。
「漢賊どもはこの敗戦で混乱していよう。日が暮れるまでは押し込んで戦果を広げるべきであろう」
そこに王彌、張實、張敬、
「軍勢を城内に入れて戦を避け、明日を待って勝敗を決するよりなかろう」
段部の者がそう言い、徐玖珮も城に軍勢を返す。王彌たちはその後を追って日が暮れた頃には城下にまで到った。
※
徐玖瓊が城門を開いて迎え入れるところ、徐玖珮が段部の将に言う。
「漢賊どもが包囲できぬよう、段将軍は城外に軍営を置かれよ」
「二軍はすでに入り混じって一軍になっている。その上、後に迫る漢賊が軍営を置くのを許すまい。ともに城内に入って漢賊を退け、王幽州の軍勢を待つのがよかろう」
この時、段部の将に扮する呼延莫及が先に立って城門を入り、鮮于登もそれに続く。徐玖珮が止めようにも止められず、段部の将兵に言う。
「百姓への掠奪や暴行は許さぬ。ただし、敵を退ければ重賞を与える」
そこに城壁上の徐玖瓊からの伝令が駆けつける。
「すぐ城壁にお戻り下さい。漢将が各城門に攻め寄せております」
徐玖珮は馬頭を返して段部の将兵を置いて奔り去る。呼延莫及と鮮于登はその跡を追い、背後からの一刀で徐玖珮を馬下に斬り落とした。漢兵は城門を開けて軍勢を差し招き、二将は叫んで言う。
「吾は漢将の呼延莫及と鮮于登である。すでに城門は破られた。降る者は生き、抗う者は死ぬ。降参を願わぬ者は逃げ去って殺戮を免れよ」
それを聞いた晋兵の大半は逃げ去り、城に入った王彌たちは火災を鎮めつつ進んで府蔵にまで到る。この時、徐玖瓊は家眷とともに南門から逃れ去っていた。
「徐玖瓊に怨みがあるわけではない。その兄を殺したのであるから、家累を保つためにも放っておいてやれ」
張賓は報告を聞いてそう言って後を追わなかった。
一更(午後八時)の頃、襄國の城に向かう
翌日、石勒は襄國の城に入るも、将兵に掠奪を厳禁して百姓を安撫する。その後は祝勝の宴を開いて諸将を労い、賞を行う。その酒宴の最中に哨戒の兵が駆け込んで言った。
「王浚の軍勢が四十里のところに軍営を置き、明日には城下に攻め寄せる見込みです」
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