第二十四回 石勒は張顕と戦う
「まだ大郡を攻めるには時機尚早です。このあたりは
▼「渤海」が
この献策により
これらの
晋将の
降兵を加えた北路の軍勢は二十万に達し、ついに渤海に軍を向ける。
※
渤海太守の
漢兵が渤海に向かったと知り、張顕は僚佐を集めて方策を諮る。その席で
「漢賊は隣縣を落として攻め寄せており、その鋭気は盛んでありましょう。軽々しく城を出て戦ってはなりません。濠を深くして塁を高くし、城池を堅守するとともに朝廷に急を告げ、救援を求めねばなりません。あわせて人を
それを聞いた張顕が言う。
「朝廷は乱を避けて
張榮もそれに同じて言う。
「お言葉のとおり、援軍を頼みとはできますまい。軍勢を発して
▼「高陽関」は『宋史』地理志の河北西路順安軍には宋の神宗の熙寧六年(一〇七三)に
▼「樊籠」は鳥籠の意。
張顕はその言を
※
漢賊の進軍は思いのほか早く、高陽関に入る前に攻め寄せてきた。張顕は軍勢を率いて山を下り、平地に陣を布いて対峙に入る。漢軍を率いる石勒は自ら陣頭に立つ。その姿は頭に金兜を頂いて黄金の鎧を身に纏い、三尖の
「今や晋の命数は尽きんとし、愚者も智者も等しくそれを知っておる。干戈を投じて漢に降れば、上は封侯の位を失わず、下は
石勒の言を聞いた張顕は哂って言う。
「吾ら兄弟はお前たち漢賊と戦って全力を尽くすこともない。援軍など考えもせぬわ。恩に叛く
言うや鎗を捻って漢の陣に向かい、石勒に攻めかかる。石勒も刀を抜いて迎え撃つ。二人の馬が力を比べて一来一往し、戦は五十合を過ぎても勝敗を見ない。
「互いの馬が疲れては存分に戦えぬ。吾を畏れなければ馬を換えて再戦せよ」
張顕の言葉に石勒が言う。
「お前が逃げ出さなければよいがな」
「大丈夫が敵にあたって背を見せるはずもない」
ついに二人は陣に還って馬を換え、再び陣頭に立って戦に入る。石勒の勇猛と張顕の老練はいずれも甲乙付けがたく、さらに四十合を戦って勝敗を決さない。それでも二人は戦を棄てず、天は暮れて日が沈まんとするに至り、ようやくそれぞれの陣に退いた。
※
石勒は陣に還ると諸将が労い、張賓が言う。
「張顕の武勇を讃える者は多く、それは事実だったようです。都督(石勒)が出戦せねば、食い止めることは難しかったでしょう」
張賓の言葉を聞いた王彌が不満げに言う。
「軍師は諸将を軽視される。吾が五十合のうちに張顕を
「そうではない。計略によって張顕を擒とすれば、必ずや敵を破れよう。張顕を討ち取るには
「どのような計略によって張顕を擒とするのか」
「すでに一計を案じている。虎を引いて林を出るの計略によれば擒とできよう。この高陽関の傍らにある
▼「東郡」とは通常、
張賓は諸将への指示を終えると、さらに范隆、
「都督(石勒)は旧によって軍勢とともに張顕にあたって頂きます。戦が
石勒はその計略に従うこととし、命を受けた諸将は
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