第二十一回 晋帝司馬衷は長安城に行幸す
「大軍は覆滅した。このまま鄴城に留まることはできまい。
すぐさま軍勢を整えて
にわかなことで糧秣を積んだ輜重は、
それでも食糧は集らず、ついに黄門は三千文の私財を取り出して民間にて飯を買い、
一行が
晋帝は
※
王浚は鄴城を包囲すべく軍勢を進める。
すでに成都王は洛陽に去り、百姓も
夷狄の兵士が掠奪を働いたため、鄴城の治安は悪化の一途を辿る。王浚と
この頃、
「成都王は王浚に大敗を喫し、全軍は覆没して鄴城は陥りました。聖上とともに洛陽に移ったものの、軍勢も百官もいまだ集ってはいないようです。大王が軍勢とともに洛陽に入って成都王と東海王を仲裁されれば、
河間王は謀士と諸将を集めて方策を諮ると、
▼李含は長沙王との戦で
「かつて、晋の文公は周の
河間王もその言に従って軍勢を発そうとするところ、
▼「僕射」は
「大王が大義を奉じて洛陽に向かわれ、朝廷を正して聖上を輔け、宗室を安んじて乱を収められれば、これは五覇の功となりましょう。しかしながら、大王に従われる諸将の心事も一つではありますまい。ここは長安に留まって推移を観望されるのが上策というものです。聖上が洛陽に入られれば、大官たちは庫蔵の空虚と洛陽の荒廃を観て『しばらく長安に遷られれば、天下は安泰となりましょう』とでも言い、自ずから人心もそれに従うでしょう。聖上が長安に行幸されるとなれば、遠近の人心を従える好機です。しばらく長安を動かれるべきではありません。大王が自ら聖上を長安に遷されては、人心が従うとは限りません。非常の事を行えば、非常の功を挙げられるものですが、よりよい方策を測って行われるべきです」
河間王はその策に同じて笑い、さらに問うて言う。
「王浚は北にあり、聖上と成都王は洛陽にあり、東海王は鎮所にあり、孤が洛陽に向かうにはどのような策をおこなうべきか」
「難しいことはございません。王浚は書状を遣って安心させてやればよろしいでしょう。東海王が従われぬようであれば、諸大臣の心事を問うた後に国事を諮るためと称して呼び出せばよいのです。その場では、『今や洛陽の府蔵は空虚となって人民も離散し、宮室も破壊されている。近隣から食糧を給することができぬゆえ、しばらく聖上には長安に遷って頂くのがよかろう。関中の食糧は不足しておらず、周辺からの
「卿は孤に従って及ばぬところを補え。事が成った暁には厚く報いるであろう」
荀藩にそう言うと、河間王は意を決して張方に五千の軍勢を与えて洛陽に差し向けることとした。その出発にあたって密かに李含と荀藩の策を言い含め、張方は頷くと
※
洛陽の成都王は張方の到着を悦び、晋帝に謁見させた。その場で張方が上奏して言う。
「臣が主の河間王は、王浚めが鮮卑、烏桓の夷兵を率いて鄴城を侵したと聞き知り、賊を破って聖上の護衛を務めるべく、臣を遣わされました。しかし、烏桓らは臣の到着を見て逃げ去っており、
晋帝はその言葉を喜んで言う。
「河間王は
「臣が主は軍勢を率いて後詰となっております。日ならず到着されましょう」
張方はそう言うと晋帝の御前を辞した。それより一通の書状を認める。
「洛陽は戦乱により荒廃して宮殿民家はともに破壊されております。民の生活は安んぜず、聖上は臣らにその困苦を嘆かれておりました。御駕を遷す一事については、賛否両論が分かれましょう。臣は口を閉じて漏らしておりません。大王におかれては軍勢を率いて中途まで進み、臣が
その書状は使者により関中に送られる。河間王は関中にあって李含、荀藩と洛陽の事を論じており、張方がこの大任に堪えるか不安に思っていた。
そこに早馬があって張方の書状を呈する。河間王が
すぐさま
張方は成都王を説得した後、公師藩、王彦、
この時、兵士たちは路にあって妃嬪や官女を分かたず姦淫して欲を
司州の西境に到る頃、王彦や公師藩たちは関中兵の狼藉を見て張方に何か謀があろうと疑うところ、前方より日を
それより、一軍となって御駕を奉じて関中に入ろうとしたところ、河間王の司馬顒、苟藩、李含、
河間王たちは晋帝を奉じて関中に入るも、王彦や公師藩は疑心を生じてしばらく其処に留まることとした。
晋帝が長安に入ると、河間王は
張方は河間王に説いて言う。
「成都王は多能にして明敏です。彼が皇太弟である限り、大王が志を行うことは難しいでしょう。皇太弟を廃して余人を立てるべきです。さらに言えば、成都王は罪過が多く、これを憎む者も多くおります」
河間王はその言を
武帝司馬炎の子は二十五人あり、この時に存命していた者は、成都王の
このうち、呉王は才知が
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