第二十回 王浚は大いに成都王司馬穎を破る
逃げる
成都王は
一方、戦に敗れた東海王は、十万の軍勢とともに
生き残った
自らは鎮所に還って司馬の
「孤の本意は逆臣を討って朝廷を靖めるにある。図らずも
孫恵がそれに答えて言う。
「憂慮されるには及びません。漢の
東海王は懸念して言う。
「おそらく、王浚は孤の命に従うまい。また、成都王がこのことを知れば、さらに怨みを深めよう」
孫恵は笑って言う。
「先に成都王は己の麾下の
東海王はその言葉を
※
東瀛公の司馬騰は東海王の檄文を読むと、王浚と軍勢を合わせるべく人を遣わした。王浚は東海王の檄文と東瀛公からの書状を読み、麾下の謀士を集めて方策を諮る。
「東海王の檄文に応じられるのがよろしいでしょう。一には聖上を
王浚はその言に従い、三人の使者を遣わした。
日ならず平城に
▼「烏桓」は「烏丸」とも書き、鮮卑語で「雑種、雑人」の意であったらしい。ここでの烏桓羯朱は、烏桓の長の羯朱を意味すると考えられ、「烏桓の長の羯朱」とすべきであるが、『後傳』『通俗』ともに姓名のように表記するため、それに従う。
三軍が到着すると、王浚は即日に軍勢を発し、
▼「平棘」は鄴の北方に位置する。
哨戒する兵はそれを知ると早馬を出して鄴城に伝えた。
「東海王の檄文に応じて東瀛公の司馬騰と
成都王はその報せに
「王浚の軍勢はともかく、鮮卑、烏桓の軍勢は危険です。この二部の主将に利を食らわせ、蘇恕延と烏桓羯朱の進軍を遅らせれば、王浚など怖れるに足りません。まずは離間を図るのが得策です」
それを聞いた牽秀が言う。
「尚書令(王戎)のお言葉とおり藩王が胡虜と結んだというならば、国威を損う行いです。鮮卑には
「胡虜は利に従って動くもの、中原で財貨糧秣を掠奪せんと望むだけのこと、心から国家のために尽力しようなどとは思いますまい。利を得れば軍勢を留め、利を得なければ怒り狂うのが胡虜というものです。しかし、怒り狂った胡虜との戦は避けるべきです」
あくまで鮮卑の離間を主張する王戎に、石超が向き合って言う。
「先に東海王が洛陽の軍勢を傾けて攻め寄せたところで、吾らは数万の軍勢で討ち破って鎧の欠片をも残さなかった。ましてや、王浚が遠路から攻め寄せたとて、何ほどの事があろうか」
成都王はその言を善しとして軍勢を三路に分け、石超に
※
石超は平棘に到り、王浚の軍勢から十余里ほど離れたところまで進んだ。間者より王浚の軍勢がまだ揃っていないとの報告を受けて言う。
「全軍が到着していないのであれば、先に一戦してその軍勢を破れば、士気は下がって再戦さえできぬようになろう」
王斌と李毅が諌めて言う。
「王浚の軍勢は
「祁弘との付き合いは長く、その手並みは知り尽くしている。ただ、勝つには二公の協力がいる。王浚は遠路を経た後であり、戦って勝つことは容易い」
そう言うと、軍勢を進めて布陣し、王浚も軍勢を出して対峙に入る。
成都王の軍勢から石超が馬を進めて言う。
「王幽州(王浚、幽州は官名)は忠義で知られた人にして中原の名家の出自、何故に夷狄を引き込んで漢人を攻めようとされるのか。これは愚夫もなさぬ行いである。堂々たる大国の朝臣が、鮮卑の如き禽獣を使って
王浚も陣頭に馬を進めて言う。
「吾は歴世の勲旧の家柄、成都王の賊が聖上を欺いて国家を蝕み、ついに民を乱すのを座視できようか。さらに長沙王の忠心は天下の誰もが知るところ、羊皇后と皇太子には何ら過失がない。廃位や誅戮にはあたるまい。また、東安王は成都王の逆心を憎んで従わず、ついに殺されるに至った。加えて、妄りに不軌を図って巧言で政道を乱し、大臣に逆らった。これらはお前たち逆賊がおこなった悪行である。誰ぞ馬を出してこの逆賊を
その言葉に応じて祁弘が馬を拍ち、陣頭に出ると石超に馳せ向かう。石超は大刀を振るって斬り止めると戦に入る。二人が交える刀鎗は、刀が行けば鎗が返り、左右に廻り回ってたちまち五十合を越える。人は気息を乱さず、馬は
王斌は石超の技量が祁弘に及ばぬと見て取り、馬を拍って加勢に向かい、幽州の陣営からは
李毅は急ぎ軍勢を進めて食い止める。牽秀は濛々と上がる土煙から両軍が開戦したと覚り、先頭に立って軍勢を進めると乱戦の巷に斬り込んでいく。
ついに王彦と和淳も軍勢を出して一団となり、平棘の一帯は
※
塵埃が立ち籠める中を割って忽然と野を蔽うほどの旌旗が姿を現し、鬨の声が山岳を震わせた。段文鴦、蘇恕延、烏桓羯朱の軍勢が到着し、成都王の軍勢を易々と衝き破っていく。
牽秀は諸将を顧みて叫んだ。
「すみやかに軍勢を鄴城に返して再起を期すのだ」
言うが早いか馬頭を返して逃げ去っていく。
王浚は
石超、李毅、牽秀、王斌、和淳たちも斬り破ろうと奮戦するも、祁弘、胡矩、段文鴦、蘇恕延、東瀛公の軍勢に追撃されて前後に敵を受け、ついに脱出できない。和淳は馬を失ったところを蘇恕廻に討ち取られた。
石超は間道から逃れようとして祁弘と胡矩に追いつかれ、大刀を抜いて迎え撃つ。そこに新たな一将が攻め寄せた。紅の髯に赤い髪、黒い瞼に黄色い眼、獰猛な容貌の猛将は鮮卑の蘇恕廻である。追い迫られた石超が急ぎ離れようとするも祁弘の鎗に阻まれ、前後を挟まれた末に祁弘の一鎗に刺し殺された。
王斌は石超の戦死を見ると戦を捨てて逃げ奔る。そこを東瀛公麾下の
牽秀は包囲を逃れるべく斬り込むこと三度、それでも陣を崩せない。ついに天を仰いで嘆いた。
「戦陣に出て久しいが、これほどの苦戦は初めてのことだ。成都王の行いが仁ならず、吾らが悪行を助けたため、天佑を得られぬためであろう。もはや生命など要らぬ。擒となっては勇士とは言えず、何の面目があって王浚と天下の人に顔向けできよう」
言い終わると剣を抜いて
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます