第三回 顧榮と張翰は呉郡に奔る
酒に
毎日現れて正理を一言も口にしない顧榮を
「
顧榮は頷いて言う。
「儒書は読んでおるのだから、酒が身を滅ぼす源であると知らぬはずもない。君は吾が心を知らぬのだ。今や齊王の
「どのような理由かね」
「君から良策を得て齊王の許を離れ、余生を保ちたいと望んでいるのだ。吾がために一計を案じてもらえぬだろうか」
「そのような理由であるとは思い至らなかった」
馮熊はそう言うと、しばらく
「難しいことではない。一計を得たので望むとおりに齊王の許から離れられよう」
そこから先は顧榮に一計を耳打ちし、聞き終えた顧榮は喜んで帰っていった。
※
翌日、馮熊は他事に
「府内の官員賓客ともに大変よろしい。ただ心配なのは顧榮だけです。この人は大酒飲みで虚名だけあり、大任に堪える器ではありません。それにも関わらず、
それを聞くと葛旟も同じて言う。
「常々そう思っているのですが、齊王が自ら招聘されたこともあり、敢えてまだ申し上げてはいないのです」
「それは理由になりますまい。知って言わねば忠臣ではなく、疑って去らねば智士ではありません」
そう言うと、馮熊は起ち上がって辞去し、葛旟は礼をもって送り出した。翌日、齊王の閑暇に乗じて言う。
「臣の観るところ、王府にあって顧榮が
「孤もその名を聞いておったがゆえに召し出したが、ただの酒徒とは思わなんだ」
そう言うと、すぐさま顧榮を王府の主簿から
▼「中書郎」は中書省の官吏であるため、齊王府を離れて朝廷の官吏となったことを意味する。
※
その同郷に
「齊王は自らの知恵を誇って忠諫の言を
それを聞いて顧榮が言う。
「仰るとおり、刀刃の危険を冒してつまらぬ官職にしがみつくより、身を脱して故郷に帰り、同心の友人たちとともに
「吾もそのように思って久しい。ただ官職の
張翰はそう約すると顧榮と別れた。
後日、二人が酒を飲んで楽しんでいると、西風が桐の葉を動かす音に秋の訪れを感じた。
「今や秋天の気が訪れてもそれに気づかず、行く雁の声を聞いてにわかに悲しい思いがこみ上げてきた」
顧榮が言うと、張翰も同じて言う。
「繁華の地である
二人はその日のうちに密かに洛陽を発ち、呉郡に逃れ去った。
※
齊王は顧榮と張翰が洛陽から逃げ去ったと聞いて怒りが止まず、追手をかけて召し捕らえ、誅殺せよと罵った。
それを聞いた
「官吏に登用すべき人材がなければ彼らの逃亡を制するべきですが、天下泰平にして招くべき人には事欠きません。顧榮や張翰など意に介するにもあたりますまい」
齊王もそれを聞いて怒りを抑え、二人を捨て置くこととした。
その後、齊王が例によって宴会を開いて音楽が終わろうとした時、董艾が言う。
「
▼「嵇紹」は竹林の七賢の一人である
▼「絲竹」は弦楽器の総称、父の嵇康は
齊王はそれを聞くと、一曲を
「殿下は
齊王はその言を聞いて嵇紹を
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