大掛かりなPOPを設置した書店員さんについて
毎日なにかしら新しい話題があり炎上もあるインターネットの世界ではありますが、この数日書店絡みで大きな波紋を呼んでいるのが、ある名物書店員さんのツイートに対しての反応です。
「Amazonには絶対負けないと思うんだけどなぁ……」
というその方の設置した大掛かりなPOPの写真を添えたツイートに対して、
「だからアマゾンに負けるんだ」
「この勘違い書店員に多い。仕入れ管理を疎かにして一日中POP作る」
といった趣旨の反論が寄せられる事態になってしまい、インターネット上で大論争に発展しました。
私がフォローしている人のツイートがこのような形で大きな話題になってしまったのはショックで、ソーシャル上では極力触れないようにしていましたが、少しここで気持ちの整理を兼ねていくつか思ったところを書いていこうと思います。
まずは「一日中POPを作る」という点について多くの書店員さんと思われる人たちのご意見を見ていきましたが、「いやいやPOPを一日じゅう作れる時間なんてないよ!」といった趣旨のことをおっしゃってる方がいて、そうだよなあと。
そもそも多くの方に誤解があると思うのですよね。
今の職業の上司にも言われました。
「書店なんて忙しくないでしょ?」
と。
書店員なんてレジに突っ立って暇そうにボーッとしてるだけだ、みたいなイメージがかなり強いのが原因だろうなと。
その時私は、
「いやいや案外お客さまに見えないところで忙しいんですよ」
とお答えしましたが……
言い訳みたいに聞こえるかもしれませんが、POPを一日じゅう作れる時間なんて取れないところが多いのではないでしょうか。
書店員の一日、みたいなのを別の機会でしっかりと描きたいと思っているのですが、やらないといけないことって実はけっこう多いんですよ。
私自身、POPをまともに作れるようになったのは閉店が決まって発注業務が減ってから、というのが実態です。それまでは一日10分空きが作れるか作れないか、みたいな勝負でしたから。
POPについては前作のエッセイ『私書店員~』でも『手書きPOPはハードルが高い!』と題して触れていますのでご興味があれば参照いただきたいのですが……
自作のPOPを作ってお客さまにアピールする、というのはもう自分をすべてさらけ出しているようなもので、ものすごく恥ずかしいし、私もなかなか踏み出せませんし最後まで苦手な仕事のひとつでした。
わたし自身はものすごく苦手でしたが、もう一人メインで入っていらっしゃったベテランの方がPOPづくりがうまかったのですよね。そこそこ大掛かりに作ってましたし。でもそういうお仕事も、優先事項が終わったあとの残り時間で、という感じでした。だから完成まで数日かかるのが当たり前だったんですね。
なので、書店員やってた側から見ましたら、時間的に制約がある中で、ちゃちゃっと絵を描いたり、創意工夫で目を引くPOPを工作できる人って、それだけで尊敬の対象なんですよね。
POPなんて効果がない、というご意見もあろうかと思います。わたしが現場に立っていた肌感覚でしか申し上げられませんが、効果は間違いなくありますよ。それが適切にお客さまに訴えかけられる形でなされていればいるほど、普通に何もない状態でただ並べているよりも商品の回転率は上がってました。私自身はその才能がなかったのですが、コミック担当の方は間違いなくそれで結果を出し続けてましたよ。
それだけに、ネガティブな方向で話題にする方が多かったのは残念です。
書店をご利用するお客さまからしたら、「POPを作る暇があるならもっと欲しい本を仕入れてくれよ。力を入れるところが違うよ」という鬱屈した思いがある。
お客さまの立場としてそう思うだろうなというのはわかります。
ですが、どこの書店さんも発注について末端でできることはすべて手を尽くしたうえでおこなっているところばかりだと思います。
特に売れ筋の本ですと、全国1万店ほどある書店どうしで争奪戦を繰り広げなければならず、1分1秒の差で品切れになっちゃう。多くの方は重版情報などを細かくチェックしてると思うのですが、それでもどうにもならないことが多く……不甲斐なさというか、鬱屈した思いを抱いてるのは、書店員さんも同じだと思います。
私自身、この本をこれだけ配本してくれればもっと売っていけるのに……! と思うこともしょっちゅうでしたしね。出版社さん運営のサイトでこのようなことを書くのも申し訳ないんですけど……
あと書店の入荷が遅いと思われているのは、入荷に1週間か2週間かかるって言われるからなんだと思うのですが、これも実は出版社さんと取次さんに在庫があればわりかし早いのですが、間に取次さんや運送業者さんを挟んでいる以上、こちら側だけの都合で100%その早さで届く、とは言い切れないのですよね。
だから歯切れ悪く、入荷に1週間か2週間かかることもあります、と言うしかないのですよね。変に早い納期を伝えてしまうとクレームに発展するので。
「Amazonのほうが早いじゃん」というのはわたしが現役のときからお客さまからものすごく言われた(頻度で言うと月イチくらい)ので、悔しいところではありましたが……個人的にはAmazonさんをはじめとした通販サイトと敵対しても仕方ないと思うところはありますね。
たしかにAmazonさんはすごいのですが、届ける早さはクロネコヤマトさんをはじめとした運送業者さんの協力なくしてはありえません。書店の代わりにすべての需要をAmazonさんをはじめとした通販サイトが満たすことは物理的に不可能です。通販サイトさんにも扱える量に限界があるんですよね。
書店と通販サイトどうしでいがみ合うのではなく、相互に補完し合うのがいちばんなんです。
これは電子書籍に関しても同様のことが言えると思います。
電子書籍だけでは需要をすべてまかなえない。
まかなおうとしたらさらに莫大なコストを要する。
電子書籍だって売上の一部をECサイト運営さんに払わなければいけませんし、ECサイトさん側に立って考えましても、取引を安全かつ円滑に行えるためのセキュリティに莫大なコストがかかります。今後さらに取引が増えるなら、そこのコストはさらに跳ね上がります。電書は置いてさえいれば勝手に儲かる魔法の商売ではない。
今後紙の本の需要が下がるとしても、完全になくなるということはありえないでしょう。
優等生的な回答に思えるかもしれませんが、リアル書店もオンライン書店も、敵対せず、うまく共存していく道を探るしかないんですよね。
それにしても、どうしてそのような騒ぎになったのでしょう。
これは私の推測なんですけど、書店業界が典型的な「問題があるのに変わることのできない人たち」と一部の方たちに映っているからなんだと思っています。
組体操を廃止できない学校に対するニュ-スを見て感じる義憤と根っこは同じで、「旧態依然とした組織」を見た時に感じるイライラなんだと思います。
ご不便をおかけしている面があるのは確かで、書店業界が変わらないといけないというのもまた確かなんですが……関係者で危機感を持っていない人はおそらくいらっしゃらないのではないでしょうか。変わろうとしているし、現場では色々なアイデアを出しているところであると信じています。
近年まれに見るレベルで『鬼滅の刃』が大ヒットしているので、衰退産業みたいに言われますけど、まだまだ力はありますよ。
そもそもそれだけ売り場に出てなければ売れることもなかったわけで。
まだ書店にできることはあるし、こんなところで産業じたいが潰れてしまってはいけない、と思います。
では「ほしいと思った本がない!」という時に、お客さまとしてはどのような手段が考えられるでしょうか。
まず新刊の場合、どうか予約をしていただければ確実にご用意できます。
そして、既刊も含めて、なかった時にはどうか書店で注文していただければ。
『私書店員~』のほうで、かつて「あなた色に染め上げて」という話を書かせていただいたのですが、ぜひあなたの最寄りのお店を貴方好みにカスタムなさってくださると嬉しいです。
注文なんて億劫だし恥ずかしいと思われるかもしれません。
最初は通販サイトに比べれば遅いかもしれません。
ですが、多くの方から注文いただければ、
「もしかしたらこれは売れるタイトルなのかもしれない」
と店員さんが感じて、次行った時には平積みにしてくれるかもしれない。
出版社さんも、いっぱい注文入ってるしこれは売れるんだ、と強気な部数を刷ってくれるかもしれない。そうすれば多くの書店に行き渡り、次からはわざわざ探したりせずに済むわけです。
それに、KADOKAWAさんの取り組みなのですが、自社で印刷できる仕組みを作ったそうで、注文が入れば少部数でも刷ることのできる体制を構築しつつあります。
品切れしたらそれで終わり、重版もしない、二度と手に入らない……といった問題の克服に一役買いそうで、出版社さんも変わっていってます。
あなたの注文が、売り場を変えていく。書店側もお客さまの熱意に応えていく。
あなたと書店、出版社いっしょになって次のベストセラーを作っていく。そういった喜びを感じていただけたら……という願いを最後の言葉としましてこの更新を終えたいと思います。ご覧いただきありがとうございました。
書店通になろう コミナトケイ @Kei_Kominato
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