夢と現
寝る犬
夢と現
もう数週間、現実と見分けの付かない夢を見続けていた。
現実で眠った私は、夢の中で目覚める。
歯を磨いて顔を洗い、朝食を食べて仕事へ行き、残業を終えて帰宅すると夕食を取り、風呂に入って酒を飲んで眠る所まで。
夢の中での1日を終えると、そこで私はやっと目を覚まし、現実世界へ戻るのだ。
夢から覚めた私は、歯を磨いて顔を洗い、朝食を食べて仕事へ……行くのをやめた。
会社へ連絡を取り、有給休暇にしてもらう。
その足で向かった先は、近所の総合病院だった。
「どうも毎日2日分の仕事をしているような気分で、眠っても身体が休まらない。なんとかしてもらえませんか」
そう医者に切り出すと、彼は「最近よくある症状です」と笑い、「今はいい薬があるから1週間ほどで完治します」と受けあった。
処方箋をもらい、1週間分の薬を持って、私は家に帰る。
夕食を取って風呂に入り、今日は酒を飲む代わりに薬を飲んで、床についた。
夢の中の私はいつもの通り目を覚ます。
急いで歯を磨き、朝食をとる時間も惜しんで夢の中の病院へと向かった。
現実でも受診した総合病院で、同じ顔の医者に相談を持ちかける。
「どうも夢の中の自分が、現実の私を薬で消そうとしているようなんです。その薬は1週間で効くと言っていた。なんとかしてもらえませんか」
医者は「最近よくある症状です」と笑い、「今はいい薬があるから2~3日で完治します」と受けあった。
処方箋をもらい、3日分の薬を持って、夢の中の私は家に帰る。
夕食を取って風呂に入り、今日は酒を飲む代わりに薬を飲んで、一瞬にやりと笑うと床についた。
夢から覚めた私は、歯を磨きながら夢の内容を考える。
昨日に続き、今日も会社へ連絡して有給休暇にしてもらうと、また病院へと向かった。
医者に相談し、保険は効かないが、一晩で効力を発揮する強力な薬を出してもらう。
私は薬を飲み、夢の中の自分を出し抜けたことに安堵のため息を付いて眠った。
夢の中の私は、もう歯を磨きもせずに病院へ向かう。
医者に相談すると、危険はあるが、飲んだその瞬間に効く強力な薬を勧められる。
夢の中の私は、ためらうこと無くその薬を飲んだ。
今となってはどちらが夢でどちらが現実なのかはもう分からない。もうどうでもいいことだ。
とにかく私が飲んだ薬は効果を発揮し、夢の中の私が飲んだ薬も効いた。
そう、現実に飲んだ薬は夢の私を消し、夢の中の薬は現実の私を消す。
……その日、私はこの世界から消えたのだった。
――終
夢と現 寝る犬 @neru-inu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます