第2話
そこにはなんと、トオルくんが立っています。
しかも真っ白な大きな布に穴を空けて、そこから頭を出し首を直角に曲げ、まるでてるてる坊主のような恰好で、必死にドアを叩いてます。
朝、僕が言った言葉を呪文のように繰り返しながら。
「あ~あ、トオルくん、てるてる坊主にでも
なって雨を止めてくれないかな」
「あ~あ、トオルくん、てるてる坊主にでも
なって雨を止めてくれないかな」
「あ~あ、トオルくん、てるてる坊主にでも
なって雨を止めてくれないかな」
……
疲れとストレスもあったせいか、
僕はドアを開け、つい、
「止めろー!!」
と怒鳴りました。
トオルくんは一瞬驚いたような顔をすると、さっきの言葉を小さく呟きながら、また自分の部屋に向かって歩いていきました。
「あ~あ、トオルくん、てるてる坊主にでも
なって雨を止めてくれないかな」
「あ~あ、トオルくん、てるてる坊主にでも
なって雨を止めてくれないかな」
「あ~あ、トオルくん、てるてる坊主にでも
なって雨を止めてくれないかな」
……
それからは、ドアを叩く音は止みました。
翌朝、いつも通り仕事の支度をして、玄関のドアを開けると、突き当たりのトオルくんの部屋のドア前に、1人の警察官が立っているのが見えました。
─どうしたんだろう
と、しばらく様子を見ていると、
ドアが開き救急隊員が現れ、誰かが担架に乗せられて、出てきました。年老いた母親が泣きながら後を追います。
─トオルくん、何かあったのかな?
僕の心は嫌な不安感に包まれました。
その日の夜遅くに聞き込みで訪問した警察官から、僕はトオルくんが亡くなったことを聞きました。
早朝、自宅のベランダから首を吊っていたそうで、エントランスからマンションを何気なく見上げて発見した新聞配達員によると、それはまるで、ベランダから吊り下げられたてるてる坊主みたいだったようです。
このことがあってから、雨の日の夜中になると、マンションのドアを叩く音が……
ドン!ドン!ドン!
……
玄関の覗き穴を覗くと、そこには……
トオルくん ねこじろう @nekojiro
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