最終話

 その夜、いつものように缶ビール片手に、テレビの前に座っていた。ガラステーブルの上には今日、ビデオ屋の店主が貸してくれたDVDがある。


「まあ、どうせ、ただで借りたものだし」

そう呟くと私は、白いパッケージを開け、DVDを取り出すと、テレビの下のプレーヤーにセットし、再生ボタンを押した。


 画面はやはりしばらく暗闇を映し出していた。するといきなり、どこかの部屋の白い襖が映った。

前と同じく、ハンディカメラで撮っているように画面は粗く、微妙に揺れている。襖はゆっくりと左右に開いていく。いつの間にか私は画面を凝視していた。

その先には6畳くらいの畳部屋が見える。

隅っこに三面鏡、中央には古い和箪笥、そしてその上には、

ガラスケースに収まった博多人形。


「!!!」

その瞬間、心臓が激しく拍動しだしていた。

思わず、後ろを振り返る。

開けっ放した襖の向こうには、薄暗い和室があり、そこには三面鏡、古い和箪笥、そしてその上には……ガラスケースに収まった博多人形!

画面はすっと上に動き、襖の上の鴨居を映し出した。右端から白く細い女性の腕がぬっと現れる。

その手は、赤い帯紐を持っていた。帯の先端には、三十㎝くらいの輪っかが作られている。

すると今度は左端からまた、帯紐の先端を握った白い手が現れ、鴨居の枠に通すと、先ほどの手と共に、しっかり結んだ。

やがて画面はふっと上に上がると、格子状の古い天井を映し出す。そして、赤い帯紐で作られた輪っかを持った両手が映ると、画面いっぱいに近づいて消えた。

しばらく、また格子状の天井が映っていたが、突然、ガクンと画面は下方向に下がり、激しく上下に古い和箪笥と日本人形が揺れた。

しばらくして、揺れが収まった後もまだ、それらは映っていたのだが、少しづつぼやけだし、やがて画面は再び暗闇になった。

……

それからは、何も映ることはなかった。


 私は激しく息をしながら、テーブルの前に座っていた。額にはうっすらと汗をかいている。

目の前のテレビ画面は、ずっと暗闇のままである。

どれくらい経ったのだろうか。

呼吸を整えると、ゆっくりと立ち上がり、リビングのサッシを開け、ベランダに出た。

冷たい秋の風が心地よい。

雲一つ無い満天の星空が広がっていた。


 私はポツリと呟いた。

─秋枝、そろそろ、私もそっちに行くよ……



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究極のホラー映画 ねこじろう @nekojiro

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