第4話 勉強で分からないところがあるんです
「名前はコムロ・ヒコザ、現在十六歳で準貴族です」
タケダ王国王城の玉座の間で、ヤシチは命じられた任務の報告を行っていた。そこに王の姿はなく、代わりにタケダ・イチノジョウとツチヤ・マサツグが彼の話を興味深げに聞いている。
「準貴族?
「つい最近名誉
「ほう、それはまた興味深いな。しかし
「殿下、それでは堂々と招待してはいかがでしょう。私によき考えがございます」
「申してみよ」
「ササ殿下……トラノスケ殿下の所業を詫びるということでよいかと。本来ならばこちらから出向くべきところ、殿下は
「うむ、招いてしまえばこちらのものか。よし、すぐに親書をしたためるとしよう。伝令は任せたぞ、ヤシチ」
「はっ!」
それからほどなくしてイチノジョウの親書を携えたヤシチは、
「オダ帝国の動きがおかしい、ですか?」
俺はタノクラ男爵閣下に呼ばれて、お城の食堂で
「うむ。
「睨んでいるらしい? 誰がですか?」
「陛下だよ。詳細はお話しにならなかったが、陛下はタケダに何かあったとお考えのようだ」
「何か、とは?」
「そこまでは私にも分からん。だが陛下は確信を持たれているようでな」
タノクラ家の食事はいつもながら本当に美味いと思う。最初に呼ばれた時には色々と失態をやらかしてしまったが、今では味を楽しみながら閣下と普通に会話する余裕すら生まれている。さすがにチカコさんとはまだまともに目を合わせることは出来ないが、おそらく向こうは何も気にしていないのだろう。俺と閣下の会話をにこやかな表情で楽しんでいる雰囲気さえ窺えるからだ。もちろん、酒はあれ以来
「あんまり穏やかではなさそうですね」
「国境の封鎖は事実上の戦争状態と変わらんからな。自国の民でさえオダ方からの入国は禁止されているようだ」
「でもそれなら
「君は国外へ出たことはないのか。知らないのも無理はないが迂回しての帰国は不可能だ」
「何故です?」
「国外へ出る時には出国手形が必要でな。そこに行き先が記載されているから、迂回しても出国時にオダ方へ向かったことが分かってしまうんだよ」
「なるほど」
「それでも戻ろうとすれば手形を偽造するか改ざんするしかないのだが、発覚すれば
「き、厳しいですね」
「当然その前に恐ろしい拷問もあるからな。絶対にやろうとするなよ」
「拷問……や、やりませんよ、そんなこと」
国外へ出たり国外から戻ったりするのも大変なんだな、と俺は
「ところで山の方の警戒は厳重なままなのか?」
「はい、例のオーガライトが盗まれた一件以降はずっと警備の人が増員されたままです」
「そうか、一度山の見学に行ってみたいと思っていたが、今はやめた方がよさそうだな」
「閣下、それ以前に閣下がお見えになるとうちの母ちゃ……母が腰を抜かすので出来ればおやめ下さい」
俺の言葉にユキさんとアカネさんが笑いを
「おお、ユキから聞いているぞ。愉快な
「ユキさん……」
俺がユキさんをジト目で睨むと、ユキさんはふいっとそっぽを向いてしまった。これはまた何かお仕置きを考えておこう。多分その後で手痛いしっぺ返しを食らうんだろうけど。
「そ、そうですヒコザ先輩、この後ちょっとお時間いただけますか? 勉強で分からないところがあるんです」
「ん? 構わないけど」
さっそくお仕置きのチャンス到来だ。ユキさんのことだから分からないというのは多分数学じゃないかと思う。俺は心の中でほくそ笑んで、食事を終えてからユキさんに連れられ彼女の部屋に向かった。
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