第10話 奴隷のようにこき使って差し上げますわ
口元にうっすらと笑みを浮かべながら現れたのは、生徒会副会長のサワジリ・エリカ先輩、高等五年生だった。サワジリ先輩は貴族、それもサワジリ
「話をうかがっておりましたがタノクラさん、後輩を脅かしていたように見えましたけど、私の見間違いかしら?」
「さ、サワジリ先輩、ユキさんは決してそのような……」
「サワジリ先輩の目に映った通りです。そちらのシオヤ先輩が貴族の私に対して無礼なことを申されましたので」
「ゆ、ユキさん、マズいよ」
シオヤさんを始めとした五人はサワジリ先輩の登場で形勢逆転と見たのか、蒼白だった表情から一転勝ち誇った笑みを浮かべていた。対するユキさんも一歩も引く気配がない。
「そうですか、それで名前を聞いて放課後に無礼討ちをなさるおつもりだったのかしら?」
校内では貴族の子息による無礼討ちは禁止されている。だからサワジリ先輩は放課後と言ったのだ。
「さあ、そこまでは」
「ところでコムロ君だったかしら。陛下の騎士になられたんですね。おめでとうございます」
「い、いえ」
「それはそうとコムロ君、姫殿下のご命令でそこのタノクラさんの護衛をされているということのようですが、それは間違いないことなのですか?」
「え? は、はい、間違いありません」
「そうですか。姫殿下のお名前まで出して冗談では済みませんが、そのお覚悟はおありですか?」
「サワジリ先輩、何がおっしゃりたいんですか?」
いくら何でもこの物言いにはさすがの俺もカチンときたよ。これじゃまるで俺とユキさんが姫殿下の名前を
「あら、悪気はありませんのよ。ただ私も出来ればナルと同じく証拠を見たいと思いますの。もちろんそんなものがあれば、のお話しですけど」
「サワジリ先輩、そんなことを言われてもしヒコザ先輩が証拠をお見せ出来たら、逆に大変なことになりますけどそのお覚悟はおありですか?」
ユキさん、完全にキレちゃったみたいだ。まあこの場は俺もユキさんと同じ気分だから止めるつもりはないけどね。
「あ、あの、私が悪いんです。私が……」
ところがそこでカシワバラさんが泣きそうになりながら仲裁に入ろうとした。カシワバラさんは何も悪くないから。
「誰です? そのブサイ……そちらの方は?」
この人、今カシワバラさんのことをブサイクって言おうとしたよね。俺から見たらサワジリ先輩の方が遥かにブサイクなんだけど。
「カシワバラ先輩のせいじゃありません。気にしないでいいですから」
どうやらユキさんも今の言葉は許せなかったようだ。サワジリ先輩を見る目が敵意に燃えている。
「カシワバラ……? ああ、転校生ですわね。なるほど、転校生の分際でナルを差し置いてコムロ君と仲良くしているからナルたちが怒ったと」
「サワジリ先輩、いくら何でもそれは言い過ぎですよ」
「まあ怖い、陛下の騎士殿は階級の差などお気になさいませんのね」
「あいにく俺には貴族のしきたりなんか分からないもんで。失礼があったらすみませんね」
「コムロ君はご存じかしら? 私はあなたを無礼討ちに出来ますけど、あなたは私を斬ることは出来ませんのよ」
サワジリ先輩もエキサイトしてきたようだ。
「俺を斬りますか?」
「さあ、でもそうするとナルが悲しむでしょうし、陛下の騎士殿でしたらうちで召し抱えるというのはいかがかしら。そして奴隷のようにこき使って差し上げますわ」
「ユキさん、先輩はああ言ってますけど、これはもはや陛下に申し上げた方がいいんじゃないですかね」
「そうですね、陛下の騎士を召し抱えるなど、反逆の意思を疑われても仕方ないでしょうね」
「な、何ですって! 誰が反逆など……!」
「ヒコザ先輩、
そうくると思っていたよ。俺はユキさんに肯くと、
「お控えなさい! ヒコザ先輩の手にある懐剣は王女殿下からの賜り物です。これでもまだお疑いですか?」
「そ……それは……!」
「サワジリ先輩、よもやこれまでニセモノ呼ばわりはしませんよね? そんなことをしたら先輩だけではなくサワジリ家も潰れますよ」
これで勝負ありだ。生徒会副会長はガックリと膝を折り、クラスメイトたちも懐剣に対して
「今回のことは誰にも他言しないという条件で陛下には申し上げないことにします。サワジリ先輩、よろしいですね?」
俺はこう言い放ち、結局その日は弁当を食べる時間がないままに昼休みが終わることとなった。
///////
次回更新は2/3です。
///////
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます