第11話 今日は父も母も留守なので帰っても私一人なんです

「あれ、カシワバラさん?」


 毎度のごとくサシマ豆腐店、つまりキミエさんのお店で豆腐を買った帰り道で、俺はカシワバラさんの姿を見つけた。転校してきてからかれこれ一月近くになるが、思えば彼女と校外で会うのは初めてである。


「あ、コムロさん、こんばんは」

「こんなところでどうしたの?」


 カシワバラさんの私服姿も新鮮だ。ワインレッドのフレアミニにネイビーブルーのシャツ、その上から襟にレース飾りが付いたベージュのピーコートを羽織っている。コートの裾から僅かばかり覗くスカートがめちゃくちゃ可愛い。そしてやっぱりカシワバラさんはエロい。


「お散歩してたら迷っちゃいました。実はちょっとだけ途方とほうに暮れていたところです」


 言いながら恥ずかしさを紛らわすためなのか、カシワバラさんはペロッと舌をだす。エロい上にそんな可愛い仕草されたら子作りしたくなっちゃうから許して。おっといかんいかん、俺にはユキさんとアカネさん、未確定だけどサトさんというスリートップが控えているのだ。いくらカシワバラさんが可愛くても、この三人の順番を崩すわけにはいかない。それにしてもカシワバラさんからは相変わらずほんのりといい香りが漂ってくる。


「どこに帰るの? 俺でよければ送るよ」

「えっと……オガワ村です」

「ああ、それなら隣村だよ。ずいぶん近くに越してきたんだね」

「そうなんですか? あの、それではお言葉に甘えてしまってもいいですか?」

「いいよ。じゃこれ置いてくるからここで少し待っててくれるかな」

「はい、お待ちしてますね」


 俺の住むヒガ村とオガワ村は隣接していて、それぞれの村長の家は歩いて小半時こはんとき、だいたい三十分くらいの距離にある。さらに村長たちの仲がいいため村人同士の交流も盛んで、税など形式的なものを除いて両村の垣根はないに等しい。俺は買ってきた豆腐を母ちゃんに届けてから、再びカシワバラさんのもとに戻った。


「お待たせ。行こうか」

「はい……あの……」

「うん?」

「どうしてコムロさんは私によくしてくれるんですか?」

「え? うーん、特に意識はしてないんだけど」

「コムロさん、すごくカッコいいから絶対女の子にモテるはずなのに、クラスでも私のことを気にかけてくれているみたいですし」


 実は未だにカシワバラさんはクラスに馴染めていなかった。容姿のせいで男子からはあまり相手にされず、俺と仲よくしていることで女子からも敬遠されているのだ。つまり彼女の現在の状況は、言ってみれば半分は俺の責任のようなものなのである。そんな彼女を放っておくことなど出来るわけがない。それにカシワバラさんは顔もスタイルも俺好みだしエロいし、とはさすがに言えないけどね。


「カシワバラさんと話してると楽しいからかな。あんまり深い意味はないよ」

「たの……そんなこと言われたの、初めてです」


 ウソです、ごめんなさい。いや、決して楽しいというのがウソというわけではないけど、実は第四夫人辺りに迎えたいという下心で溢れかえってます。それにしてもカシワバラさんは陽が落ちて暗くなり始めているのに、はっきり分かるほど頬を染めている。可愛い、抱きしめたい。


「そうだ、よかったらうちでご飯食べて行きませんか? 今日は父も母も留守なので帰っても私一人なんです」


 な、なんですと! それはご飯の後に私もどうぞ的な展開を期待してしまうじゃないですか。


 でも待て、それでついこないだも大変な目に遭ったばかりじゃないか。アタマでは分かっていてもそういう状況になった時に、俺は自分にブレーキがかけられないことを身をもって学んだはずだ。しかもまずはユキさん、次にアカネさん、そして未確定のサトさんからのカシワバラさんじゃないと将来設計が狂うどころか、男爵閣下に知れたら俺の命すら危うくなる。ここは欲望を抑えて冷静にならなければいけないと思う。


「それじゃご馳走になろうかな」


 っておい俺、何言っちゃってくれてんのさ。しかしそう応えた時のカシワバラさんの嬉しそうな表情を見て俺は考えを改めた。きっと彼女は本当に好意で食事をご馳走してくれると言っただけだ。よこしまなことを妄想するのはやめようと。


 それから俺たちは小ぎれいな一軒家、カシワバラさんの住む家に辿り着いた。



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次回更新は2/7です。

ちょっとドキドキシーンあるかも。

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