第二章 ユキさんの秘密
第1話 身分を考えたらユキさんと俺もマズいのかな
「ユキ、そなたヒコザの彼女になったそうじゃの」
「あ、アヤカ姫! なぜそれを!」
「お前に付けていた護衛からの報告よ」
「そ、そんな……あれはヒコザさんの方便です! 私なんかがあの方と……」
ユキさんは仕えている主人、つまりアヤカ姫からそんなことを言われたらしい。
「あの、すみません、姫殿下にまで誤解されてしまって……」
「あはは、気にしなくていいって。それより学校が同じだったなんてビックリだね」
そう、ユキさん実は俺と同じ学校の高等三年生だったのである。俺とユキさんは今、校舎裏の人があまり来ない外階段の下にあるベンチで弁当を広げていた。
俺たちが校内で顔を合わせたのはついさっき、昼休みに入った時だった。俺はクラスメイト数人といつものように弁当を持って校庭に向かったのだが、そこで見慣れた人影を見つけたのである。普段ならあまり気にしないのだが、何やらコソコソと人目を気にしながら校舎裏に消えて行くその人影が妙に気になって、追ってきてみたらユキさんだったというわけだ。
ユキさんは学校でも極力貴族の娘であることを隠しているそうで、先生とクラスメイト以外で彼女があのタノクラ家の娘だということを知っているのはごく限られた者だけとのことだった。さらにもともと引っ込み思案なユキさんはそれほどクラスに
トイレじゃないだけまだマシだが、真性のぼっちじゃんか。もちろん本人にそんなことを言えるわけはないが。
「友達がいないってわけじゃないよね?」
「も、もちろんです! ただ……」
「ただ?」
「みんな可愛いから、私だけ浮いちゃうんです……」
「そうかなあ。俺はユキさんが一番可愛いと思うんだけど」
「なっ! またそんなこと! 学校でまで気を遣っていただかなくて結構ですから」
「いや、そうじゃなくて……」
「だいたいヒコザさ……ヒコザ先輩はどうしてそんなに私にばかり構うんですか?」
先輩呼び、なかなかグッとくるものがあるね。
「うん? ユキさんと話してると楽しいからだけど」
「嘘です! 私なんかと話したって楽しいはずありません! きっとからかってるだけなんです」
「ユキさん、そんな風に思われてるといくら俺だって悲しいよ。俺は嘘なんて言ってないから」
「じゃ、じゃあ、私の質問に答えてくれますか?」
「質問? いいよ。答えられることなら」
「ヒコザ先輩、二人の女の子のうちどちらかと旅行に行けるとしたら、私と……キミエ先輩ならどっちを選びますか?」
「ユキさん」
「と、泊まりですよ」
「うん、俺はユキさんと行きたい」
「そ、それじゃ第二問です」
「第二問って……クイズかい……」
「い、いいから第二問です! い、一緒にお風呂に入れるとしたら、クミ先輩と私と……」
「ユキさん」
「あ、あの、混浴で全裸ですよ」
「うん、ユキさん!」
「は、
「ええ! それは理不尽な」
「で、では第三問です」
「まだやるんだ……」
「当然です! 結婚出来るとしたら、ケイ先輩と……」
「そんなのユキさんに決まってるじゃないか」
「も、もう! それは絶対に嘘です!」
「嘘なもんか。絶対にユキさんだって」
「だってヒコザ先輩とケイ先輩って付き合ってるんじゃ……」
「え? 誰がそんなこと言ったの?」
「ケイ先輩が、私のヒコザにちょっかい出すなって……」
「俺はケイ先輩となんか付き合ってないから。それはあの人の勝手な独りよがりだから。これだけは信じてほしい」
「うう……分かりました。それは信じてあげます。それじゃ最後の問題……」
「これって正解あるの?」
「最後の問題です!」
「はいはい」
「結婚出来るとしたら……」
「あれ? またその問題?」
「姫殿下と私とでは……」
「ユキさんだって」
「あ、相手は王女殿下ですよ! 果ては王族ですよ!」
「身分は関係ないから。あ、でも身分を考えたらユキさんと俺もマズいのかな」
「そ、そんなことはありません! って……あ!」
語るに落ちるとはこのことを言うのだろう。ユキさんはつい熱くなってうっかり言うつもりのないことを言ってしまったようだ。
「どう? これで信じてくれた?」
「う……うう……ちょっと考えます!……もう! 私の気も知らないで……」
その時ちょうど昼休みの終わりが近づいたことを知らせる鐘がなり、ユキさんの最後の一言は俺の耳には聞こえてこなかった。
「実はの、ユキ。それが好都合なんじゃよ」
「好都合? 何がですか?」
「あのヒコザと申すそなたの想い人な……」
「なっ! 姫殿下、想い人だなんて!」
「まあ聞け、あの者はオーガライトが埋まってる山の持ち主の息子だそうじゃな」
「え? あ、はい、そう聞いております」
「それでな、これは陛下からの
「へ、陛下から……私に?」
「そなたは……小難しいことはよいか。とにかく出来るだけあのヒコザの傍に付いて、変な虫が近寄らないようにするのじゃ」
「変な虫……ですか?」
「そう、例えば……」
アヤカ姫は周囲に聞き取れないほど小さな声でボソボソと続ける。
「はい? それは……でも……」
「段取りは任せておけ。明日にでもヒコザをこの場所に連れてくるとよかろう」
「あの、ここって……」
「
「も、もう! 殿下!」
もちろんこのやり取りは俺の知るところではなかった。
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