最終話

『2016年2月29日 午前5時31分 進学校に通う女子高生、亜由美17歳の場合』


続いて、ピエロのナレーション……

「都内屈指の進学校、D学園に通う17歳の女子高生亜由美ちゃんは、クラスの全員から無視されたり、いろいろな嫌がらせを受けてました。ああ、イジメですねえ、いけませんねえ。

ボク、許せな~い!ウヒヒヒ……

ある寒い日の朝早く、彼女は学校に行き、校舎の屋上に上がりました。

ああ、怖い!恐すぎる!どうするの!?

さあ、果たして彼女の運命は?……」


再びサトルの頭部に強力な電流が通ったような、強烈な痛みが走る。


――うわあああ!……

彼の目の前は真っ白になった。

……

 目覚めたとき、サトルは顔に、強くて冷たい風を感じていた。

目の前には、街の景色がはるか遠くまで広がっている。地平線の辺りには、霞のかかった小高い山が連なっている。


─どこだ、ここは?ビルの屋上か?

またもや、彼の意思とは関係なく、顔が下を向く。視界の下方には、紺のハイソックスに革靴の足元が見え隠れし、その上には、コンクリートの通路、駐輪場の屋根、植え込み、そして、広々としたグラウンドが見えている。


─どこかの学校の校舎の屋上か?おい、何で俺はそんなところに立っているんだ?

自らの状況が分かった彼を、とてつもない恐怖が襲う。

革靴の足がジリジリと少しづつ、

前に動きだした。


─おい、ちょっと待て!それ以上いくな!落ちるじゃないか!

そんなサトルの懇願も空しく、足は支えを無くした。


――うわあああ!

猛烈な風を全身に受けながら、女子高生(サトル)は、落ちていく。コンクリートの通路や植え込みが上になり、下になりながら、猛スピードで近づいてくる。あまりの恐怖に耐えきれず彼は失神した。

……

─わあああ!

サトルはわめきながら、目を覚ました。激しい動悸と息切れが治まらない。体中のありとあらゆるところから、汗が出ているようだ。

彼は生気を抜かれたかのように、

リクライニングの中で、ぐったりとなった。


「いかがですか?」

ピエロの声が聞こえる。


「も……もう、いいよ……分かったから、もう、止めてくれ」

サトルは今にも消えそうな声で、答えた。


「お疲れのようですから、少し、休憩でも取りましょうか。お飲み物は如何ですか?コーラ、ジュース、コーヒー、とございますが……」


「……」


「分かりました。それでは、すぐ始めましょう。

え~と次は……幼女連続殺害犯、濱本の死刑執行です。

あの残虐なロリコン男の最期ですね。どんな感じでしょうか?これは楽しみだ。

その次は、大手銀行に勤めていた会社員篠原さん48歳の、電車飛び込み。

勤続26年の品行方正で家族思いな男が電車に飛び込み?

いったい、彼に何があったんでしょうか?これも楽しみだあ!

どちらも見逃せない豪華二本立て……では、どんどん行きましょう!」


「た……頼む。家に帰してくれ。お願いだ」

狭い部屋の中にサトルの声が空しく響くなか、ヘルメットからは、また、あの忌まわしい行進曲が流れだしていた。


 サトルのいるところの隣の個室では、小人のように小さい別のピエロがぐったりとなった女の両手を掴み、懸命に部屋から引きずり出していた。

シルクの赤いドレスを着た茶髪の女は、年齢が判別できないくらいにやせ細っており、両腕は完全に潤いをなくし、ミイラのように骨と皮だけになっている。


「まったく、世話が焼けるよ。途中でいきなり、自分で舌を噛んで死ぬんだもんな」

小人ピエロはコンクリートの通路を後ろ向きに女性を引きずりながら、焼却炉に続く出口のある、奥に向かっていた。

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酒場のピエロ ねこじろう @nekojiro

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