なんの秋?
「秋と言えば……」
……一体どうしたというのだろう。『秋』と言った時点ではきらきらと輝いていた如月の表情は、1つ言葉を発するたびに暗くなっていく。
ついに『ば』では、完全に下を向いて俯いてしまった。
こんなにも振り幅の激しい会話の始まりがあってよいのだろうか。
「秋と言えば、なに?」
「なんでもないです」
「絶対その後に続く言葉があっただろ」
「北斗さんは絶対に『読書の秋』と答えそうだと思いまして。それではおもしろくないなと」
「……ほっとけ」
実際にそうだから、あまり強くは言えない。
「というか、北斗さんの場合は年がら年中読書日和みたいなものじゃないですか?」
「それはまぁ、そうだな。秋だからめちゃくちゃ読書が捗る、みたいなことはない」
「やっぱり」
日の気分や体調によって読める読めないはあるが、季節によって読書に対する姿勢が変わったりはしない。
常に面白そうな本は読んでいたいし、さまざまな物語に触れていたいものだ。
「あ、片付けの時なんかは捗ったりするな」
「それダメなやつじゃないですか」
「そうなんだよなぁ」
「本を片付ける時は、開かずに表紙だけで判断すると良いとなにかで読んだことがありますよ?」
それは俺も聞いたことがあり、実践したこともある。
しかし、そう上手くいくものでもない。
「紙の本は、装丁も素晴らしいんだ」
「はぁ」
「つまり、分かるな?」
「よく分かりませんけど、北斗さんの本に対する熱はよく分かりました」
「それが分かれば何よりだよ。それで、如月にとってはなんの秋なんだ?」
彼女はそうですねと言いつつ、一点を見つめて思考する。やがて首を傾げながら、こちらと目を合わせた。
「なんですかね?」
「か、考えてなかったのか」
「不意に秋だなぁと思って話し始めた話題だったので、自分のことは考えてませんでしたね。秋、秋……。私の秋はなんでしょう」
首を傾げる仕草が相変わらず可愛くて、思わず笑ってしまった。どうして笑うんですかと、抗議の視線が向けられる。唇をとがらせて不満を表している姿も愛らしい。
あぁ、俺はやっぱり如月のことが大好きだ。
「それじゃあ、見つけに行こうか」
立ち上がり、彼女にも立ち上がることを促すように手を伸ばす。彼女は素直に俺の手を取って立ち上がった。
「見つけに?」
「あぁ。如月の秋を探しに行こう」
「外はもう、けっこう暗いですよ」
「もうすぐ星が見えるようになるだろ。寒くなって空気が澄んできたから、綺麗な星空が見えるんじゃないか? それが、如月の秋だったりするかもしれない」
「星の秋ですか、なんか素敵ですね」
「あぁ、素敵だ」
取ったままの手を握り、そのまま外へ向かう。
風が冷たかったので、両の手をポケットの中へ入れた。この仕草ももう、慣れたものだ。
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